第131回:東川篤哉さん

作家の読書道 第131回:東川篤哉さん

本屋大賞を受賞、大ベストセラーとなった『謎解きはディナーのあとで』の著者、東川篤哉さん。ユーモアたっぷりながら鮮やかな推理でも読ませる作風が人気を博すなか、新作『魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?』は本格ミステリながら魔法使いが出てくるという異色作。質の高い楽しい作品を発表し続ける東川さん、やはり小学生の頃から推理小説を読んでいた模様。ミステリ好きの少年がミステリ作家になるまで、そして大ベストセラーを生み出すまでの読書生活とは?

その4「デビュー後の生活&読書」 (4/5)

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ここに死体を捨てないでください! (光文社文庫)
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東川 篤哉
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――デビュー作『密室の鍵貸します』はその後続編も出て、烏賊川市シリーズとなっていくわけですが、続きを書くことは考えていたのですか。それと、烏賊川市という架空の舞台を設定したのはどうしてですか。

東川:1作目はとにかくそれだけで完結するように書いたので、デビューが決まってから「またこの設定で書きませんか」と言われて書くことになりました。そもそも探偵ものってシリーズにしやすいですし。烏賊川市にしたのは、どこか実在の場所を舞台にするのが面倒だったから、というのが本当のところです。今だったら国立や八王子を舞台にしながらこういう場所にこういう建物があって...と平気で書けますが、あの頃は実際の場所を書いたらその土地に縛られてしまいそうな気がしていたんです。架空の町なら川が必要なら「川がある」と自由に書けますから。

――デビューしてから、生活は変わりましたか。

東川:バイトを辞めました。使える時間が増えるから書くペースが上がるかと思ったんですが、全然関係なかったですね。むしろペースが下がったような気が...。暇な時間が増えるだけで。生活のリズムもわりといい加減で、すぐに昼と夜が逆転していたし、特に締切はなくて出来上がったら見せる、という状態だったので、わりとダラダラと書いていました。

――トリックやアイデアはどういう時に思いつくのですか。

東川:机に向かっている時ではないですね。意識しているわけではなく、何かしら日常生活の中で気づいたことがアイデアとなっていきます。デビューした当時はアマチュア時代に考えたアイデアが結構ありました。短編を書いてボツになったものも結構な数あったので、デビューしてからしばらくはそれらを焼き直したものが多かったですね。

――デビュー後、ワープロをパソコンに買い換えましたか。

東川:買いましたけれど、ワープロとしてしか使っていません。デビューが決まった時、編集者にパソコンも携帯も持っていないと言ったら驚かれましたが、でも別に必要がないから持っていなかっただけで。今もネットで調べものもしないし、メールもしません。原稿の受け渡しはフロッピーでやっています。それで不自由はないんですが、ただ、今後は作品の中にスマホなんかを出すかどうかで困ることになりますね。

――フロッピー...。贅沢な趣味ってないんですか。東川さんの作品はよく車が出てきますが、車好きだったりはしませんか。

東川:免許は持っていますが運転はできません。でも確かに車はよく出てきますよね。探偵はどうしたって車に乗るだろうし、誰がどういう車に乗っているかは、登場人物のキャラクターづけに使いやすいんです。あ、スーパーカー世代だからということもあるかもしれません。でも自分で運転していないので、描写にいまいち具体性がない(笑)。

――さて、読書生活は。

東川:そうだ、霞流一さんの『おなじ墓のムジナ』の話をしないと。これは今となっては幻の作品で、文庫になっていないんです。今だったらバカミスといわれるようなユーモアミステリなんですが、これが横溝正史ミステリ大賞の佳作に入選しているんです。当時そんな作品で入選なんてなかったと思います。こうした軽いものでもデビューできるんだ、ということを教えてくれた作品ですね。それ以降、ずっと霞さんの作品は追い続けています。それと、デビューする前後くらいかな、鯨統一郎さんをよく読みました。『邪馬台国はどこですか?』とか『ミステリアス学園』、あともう少し後の刊行になりますが、『パラドックス学園』とか。あと、石持浅海さんと加賀美雅之さんは同期なので、本が出るとお互いに送り合っているので、読んでいます。綾辻さんの館シリーズなんかも新しいものがでたらもちろん読みますし...。

――そういえば、東川さんの『館島』は館シリーズを意識したものなんでしょうか。

東川:あれは島田荘司さんの『斜め屋敷の犯罪』の影響を受けているんです。館シリーズはむしろパクッたと思われないように、似てしまわないようにと意識していました。『館島』も六角形の屋敷が出てくる話ですから。

――あの作品は、他の東川作品とはまたちょっと違うテイストですね。ある島に奇妙な館があって、そこで殺人事件が起きて...。

東川:あれは東京創元社から出したので、ちょっと本格っぽいものを書かなきゃいけないかなって思ったんです(笑)。『館島』の続編は書きたいですね。また妙な館が出てくる話を書きたいんです。でもいつ実現するか分からないから、あんまり言わないほうがいいのかも...。

――ぜひ書いてください、読みたいです! 他はシリーズになっていますよね。『放課後はミステリーとともに』の鯉ヶ窪学園シリーズはかなり以前から執筆されていましたが。

東川:8年くらい前、デビューした後すぐに一話目を書いて、年に1作か2作のペースで短編を書いてきたので、去年やっと一冊になりました。一話目を書いた当時、エアコンの霧ヶ峰の広告を見ていいなと思って、主人公の霧ヶ峰涼という名前を思いついたんです。

――自分が好きだったミステリのトリックの影響ってあると思いますか。

東川:影響は受けていると思いますね。『放課後はミステリーとともに』だとUFOの話の"足跡のない密室"はカーの影響があったと思うし。すでに書かれたトリックとまったく同じことはやらないにしても、何かしらのバリエーションであることは多いと思います。トリックを思いついた後で、よくよく考えたらあの作品と似ているな、と思うこともあります。自然に似てしまうのはしょうがないなと思います。

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