第133回:加藤千恵さん

作家の読書道 第133回:加藤千恵さん

高校生の頃に歌人としてデビュー、最近では瑞々しい筆致で描きだす恋愛小説でも人気を博している加藤千恵さん。北海道で生まれ育った少女が短歌と出会ったきっかけは、そしてデビューするきっかけは? あの甘く切ないシーンを繊細に切り取る感性の源泉にあるものは? 納得の読書遍歴が浮かびあがります。

その4「東京生活&執筆生活」 (4/5)

あかねさす――新古今恋物語
『あかねさす――新古今恋物語』
加藤 千恵
河出書房新社
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言わなければよかったのに日記 (中公文庫)
『言わなければよかったのに日記 (中公文庫)』
深沢 七郎
中央公論社
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富士日記〈上〉 (中公文庫)
『富士日記〈上〉 (中公文庫)』
武田 百合子
中央公論社
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私たちは繁殖している (11) (ぶんか社コミックス)
『私たちは繁殖している (11) (ぶんか社コミックス)』
内田 春菊
ぶんか社
1,008円(税込)
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東京日記 卵一個ぶんのお祝い。
『東京日記 卵一個ぶんのお祝い。』
川上 弘美
平凡社
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日々ごはん〈1〉
『日々ごはん〈1〉』
高山 なおみ
アノニマスタジオ
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いちばんここに似合う人 (新潮クレスト・ブックス)
『いちばんここに似合う人 (新潮クレスト・ブックス)』
ミランダ・ジュライ
新潮社
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――立教大学に進学して、東京にきたわけですが。

加藤:東京すごいな! って思いましたね。お笑いライブに行って中学時代にテレビで見ていた芸人さんたちが目の前にいる! とはしゃいでいた記憶があります。大学では日本文学科に入ったので、読んでおかないとまずいかなと思い『源氏物語』を読んでみたら衝撃を受けました。『今昔物語』も面白かった。長いものをがっつり読む楽しさもあるけれど、自分は短い話のものが好きでしたね。専攻では『新古今和歌集』をとりました。昔の歌なのに共感できる感覚があるところが面白かったんです。

――ああ、それが短編と古典の歌と自作の短歌を合わせた『あかねさす』につながっていくんですね。他にはどのようなものを読んだのですか。

加藤:日記文学が好きになって深沢七郎の『言わなければよかったのに日記』や武田百合子『富士日記』などを読みました。人の日記を読むのは今でも大好きです。小説はそれまでの延長で江國さん、角田さん、高橋さんといったそれまでも好きだった人の作品を読むと同時に、同世代で活躍されている島本理生ちゃんや綿矢りささん、男性だと長嶋有さんや中村航さんの小説をよく読んでいました。あとはエッセイを読んでいた記憶がありますね。島村洋子さんの恋愛エッセイや、宮沢章夫さんや松尾スズキさんたち演劇関係の方の本、それとまついなつきさんの『東京暮らしの逆襲』という東京でのひとり暮らし生活のエッセイや内田春菊さんのコミックエッセイ『私たちは繁殖している』シリーズも好きで読んでいました。

――ご自身の執筆活動はどうだったんですか。小説を書き始めるのはいつ頃でしょう。

加藤:学生時代のうちもエッセイのアンソロジーに参加したり短歌集も出したりしました。小説を書き始めたのは大学の1年か2年の頃だったと思います。マガジンハウスのPR誌の『ウフ!』から依頼をいただいたんです。25枚だったのですごく短いんですが、やってみて自分には長い、無理だなと思ったんですよ。その後も「書いてもらえたら」と小説のお話をいただいたんですけれど、「あー...がんばります...」とのらりくらりとしちゃったんですよね。その頃はまだ普通に就職活動するつもりでしたし。でもせっかく書く場を与えてもらえているのに、と将来について悩みました。結局、就職活動は広告代理店や出版社を5、6社受けただけでした。記念受験的な感じですね。広告方面の仕事が気になっていたので、出版社も編集希望ではなくて宣伝や広報を希望して受けたんです。どうせ落ちるだろうなと思っている時に思い切って親に相談したら「書きたいんだったらその仕事一本でやってみたら」って。それまでは、親に心配をかけないためにも就職しなければいけないって思っていたんです。でも親がそう言ってくれたので、じゃあ甘えようかな、ということに。

――では卒業してからは文筆業専業で。

加藤:バイトもしていました。生活費のためというよりは、バイトをしないと自分の中でバランスが取れないと思ったんです。今までは学生だったので、それが何もなくなるのが不安でした。

――社会人になってからの読書生活はいかがですか。

加藤:引き続き同時代の人の作品を読んでいました。日記では川上弘美さんの『東京日記』や高山なおみさんの『日々ごはん』、よしもとばななさんの日記もハマって揃えました。あとは山本文緒さん。小説もすごく好きなんですが、日記の『再婚生活』も本当に面白かったです。それと、私はずっと海外文学を敬遠していたんです。村上春樹さんの影響でサリンジャーとかは読んでいましたけれど、カタカナの名前が憶えられなくて。でも読めるようになりたいなと思っていたので、ポール・オースターや新潮社のクレストブックスのシリーズの『千年の祈り』や『いちばんここに似合う人』も読みました。ミランダ・ジュライの『いちばんここに似合う人』は衝撃的でした。あまりに面白くて、世の中にこの本があるんだったら私の小説なんて要らないだろうって思うくらい。それが岸本佐知子さんの訳だったので、岸本さんが編者の『変愛小説集』も読みました。今は、岸本さんと柴田元幸さんが訳された本は面白いんだと確信しています。柴田さんはポール・オースターのほかにレベッカ・ブラウンの『家庭の医学』などを読みました。短歌は同世代の方たちのものを読むことが多いですねんでいますよ。佐藤真由美さん、雪舟えまさん、天野慶さんなどが好きです。漫画はよしながふみさんを読むようになりました。いつも新刊を楽しみにしているのはおかざき真里さんの『&‐アンド‐』や瀧波ユカリさんの『臨死!!江古田ちゃん』、あと西村しのぶさんは新刊が出たら絶対に買います。

――そういえば、女性作家が多いですね。

加藤:名前を挙げていくとそうなりますね。男性で今もご活躍されてる方だと、長嶋有さんや中村航さんや朝井リョウくんも好きですよ。長嶋さんは小説だけでなくてエッセイも面白い。あと、ご本人も面白いですよね(笑)。

――さて、作家としての日常は...。

加藤:もともと積極的に作家になろうと思っていなかったので、今でもあまり現実味がなくて、なんというか、ぽわぽわしてます(笑)。いまだに作家の方にお会いすると「東京すごいな!」って思ってしまう。

――でも同世代の女性作家たちと仲がいいですよね。小説の話はしないのですか。

加藤:一緒に飲んだりしています。去年読んだなかでは西加奈子さんの『ふくわらい』がすごくよくて、同世代でこんなすごいものを書ける人が自分の周囲にいるなんて恵まれているなと思いました。友人である島本理生ちゃんも山崎ナオコーラさんも、みんな本当にすごい作品を書かれていて感動します。でも一緒に飲んでいる時はそういうことを忘れて、本当にしょうもない話をしていますね。文学の話はまずしない(笑)。

――去年心に残った本は西さんの『ふくわらい』と...。

加藤:2012年は『ふくわらい』と山内マリコさんの『ここは退屈迎えに来て』と、北大路公子さんのエッセイ『生きてもいいかしら日記』がベスト3でしょうか。山内さんは「女による女のためのR‐18」文学賞出身の方ですが、「R‐18」出身の方の小説って面白いですよね。窪美澄さんとか豊島ミホさんとか。

――本の情報はどこから得ることが多いですか。

加藤:前は人から聞くことが多かったんですが、最近はツイッターですね。『生きていてもいいかしら日記』や漫画の『俺物語!!』もツイッターで知りました。好きな作家さんをフォローしておくと新刊の情報なども分かるし、すごく便利ですよね。

――今、一日のサイクルはどうですか。執筆時間や読書時間は。

加藤:なるべく朝型にして9時5時で執筆したいなとは思っているんですけれど、結局書いているのは1日のどの時間というよりは、締切が近い期間です(笑)。徹夜したりしています。短歌はパソコンの前で作っているわけではなくて、移動中とか、一人でぼんやりしている時にできることが多いですね。何か思いついたら携帯電話にメモしています。読書は、お風呂に入っている時とか。やっぱり本を濡らすのが怖いし大長編を読むほどの時間もないので気軽な文庫本やエッセイが多くなります。あとは寝る前にも読みます。

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ここは退屈迎えに来て
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