第184回:朝比奈あすかさん

作家の読書道 第184回:朝比奈あすかさん

2006年に『憂鬱なハスビーン』で群像新人文学賞を受賞してデビュー、以来、現代社会のなかでいきる大人の女性の姿から少年や少女の世界まで、さまざまな設定・テーマで作品を発表している朝比奈あすかさん。その作風の幅広さは、幼い頃からの幅広い読書体験、さらには一時期アメリカに住んでいた頃の体験が影響している模様。ではその具体的な作品・作家たちとは?

その2「夢中になった少女小説と漫画」 (2/5)

  • 銀の鬼1巻
  • 『銀の鬼1巻』
    茶木 ひろみ
    茶木 ひろみ
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  • なかよし 2017年 07 月号 [雑誌]
  • 『なかよし 2017年 07 月号 [雑誌]』
    講談社
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  • どっきんタイムトリップ (なかよしコミックス)
  • 『どっきんタイムトリップ (なかよしコミックス)』
    猫部ねこ
    講談社
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  • 蝶々の纏足・風葬の教室 (新潮文庫)
  • 『蝶々の纏足・風葬の教室 (新潮文庫)』
    山田 詠美
    新潮社
    562円(税込)
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  • 三国志 (1) 桃園の誓い (希望コミックス (16))
  • 『三国志 (1) 桃園の誓い (希望コミックス (16))』
    横山 光輝
    潮出版社
    453円(税込)
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  • 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 (新潮文庫 む 5-4)
  • 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 (新潮文庫 む 5-4)』
    村上 春樹
    新潮社
    810円(税込)
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――その頃、自分も作家になりたいとか、お話を書いてみたいという気持ちはありましたか。

朝比奈:いろんな職業になりたいと思うなかに「本が書けたらいいな」というのもあったと思います。お話も書いていました。私の書いた小説に友達が続きを書いてくれるという、リレー小説みたいなことをやっていたんです。当時、進学塾に通っていたんですけれど、そこでも小説を書いていたみたいです。算数の先生がそのことをすごく憶えていて、後に私の娘が同じ先生に習うことになった時に「授業の最中に小説や漫画を書いていたね」って言われました(笑)。私は覚えていないんですが、親に高いお金を払ってもらって通っていた塾なのに。

――親子二代で同じ塾の先生に習うなんて。それで、中学受験をされたわけですよね。

朝比奈:そうです。それで学芸大学付属の小金井中に入るんですけれど、時代はティーンズハートとかコバルト文庫とか学研レモン文庫一色というか、みんな読んでいましたね。それで私もその世界に入りました。銀色夏生さんも大流行していました。漫画好きな友達の影響で、漫画を読むようになりました。茶木ひろみさんの『銀の鬼』や、あさぎり夕さんの『あこがれ冒険者(アドベンチャー)』とか。あさぎりさんの『なな色マジック』がすごく好きで、応募して小さな冷蔵庫を当てたことがあります(笑)。

――雑誌の懸賞に応募したということですよね。

朝比奈:『なかよし』です。私が読んでいた頃はいつも表紙があさぎり夕さんでした。それから猫部ねこさんという方が出てきて、『どっきんタイムトリップ』という漫画にすごく影響を受けました。タイムトリップの話で、当時の私はすごく驚いたんです。男の子が何十年か前の、おばあちゃんが子どもの頃の少女に出会って好きになって、彼女の年齢に追いつくために毎年毎年タイムトリップしていこうと決めるというような筋だったと思います。
『なかよし』では松本洋子さんという方の漫画も載っていて。私は雑誌ではなく単行本で読みましたが、『黒の輪舞』とか『天使は闇にほほえむ』とか『黒の組曲』、『見えないシルエット』あたりをすごく憶えています。絵柄は可愛いんですけれど、ミステリアスで結構怖いお話なんです。なかでも『殺人よこんにちは』『ぬすまれた放課後』が面白かったんですが、赤川次郎さんが原作という書かれてあったので、そこで赤川次郎さんに出合い、いろいろ探して読むようになりました。『プロメテウスの乙女』や『顔のない十字架』をすごく面白く読みましたね。そこから、星新一さんの時のように、赤川さんの本をたくさん読みました。
何かのきっかけでアガサ・クリスティーも読むようになり、これも「このシリーズを読めばいいんだ」という安心感で読み進めていったら本当に面白くて。『オリエント急行殺人事件』も好きでしたし『そして誰もいなくなった』は怖くてトイレに行けなくなるくらいだったし、『ナイルに死す』『メソポタミヤの殺人』はエキゾチックなムードが満載でそこが好きでした。アガサ・クリスティーは旅行好きだったんでしょうね。そんな中でも『春にして君を離れ』は特別な作品です。娘の嫁ぎ先に豪華旅行で行くお母さまの話ですけれど、見つけて読んだ時は人も死なないし、単調だし、これはハズレだと思ったんです。でも大人になってから書店のPOPで勧められているのを見て読んでみたらすごく面白く感じました。主人公がすごく無自覚な毒母だというのが、少女の頃には分からなかった。真の自分を知ることの怖さというのも新しい種類の恐怖だなと大人になってから知りました。

――ちょっと不気味さのある話が好きというところは小さい頃からずっとなんですね。

朝比奈:そうですね。そんなふうに私がコバルトとか漫画とかばかり読んでいた頃に、同級生の子が詩を書く授業で「わたしはきりんになりたい」という散文詩を書いて、その感性にハッとしました。確か彼女が吉本ばななさんの『キッチン』を読んでいるのを見て、真似して自分も読み始めたのではなかったかと思います。そこから吉本ばななさんにはまっていきました。『哀しい予感』とか『白河夜船』とか。『TUGUMI』は装丁もきれいで、一文一文が夢のようにきれいで。そこから山田詠美さんにも出会って『風葬の教室』とか『放課後の音符(キイノート)』とか『色彩の息子』などを、少し背伸びした気分でドキドキしながら読んでいました。

――中学時代、リレー小説みたいなことはもうやっていませんでしたか。

朝比奈:中学1年生の時は水泳部に入っていたんですけれど、2年に上がる時に、友達と、国語科の松原先生を入れて7人で創作部というのを立ち上げたんです。水泳部は幽霊部員になって、創作部の活動が中心になりました。「ささもあおし」という会報みたいなものを作って、それが今でも続いているんです。

――今でも!

朝比奈:「ささもあおし」って創立した部員全員の名前なんです。「あ」は私の「あさひな」の「あ」ですね。「し」は当時一緒に漫画家を目指していた「しもむら」さんの「し」です。私は漫画を描きたかったんです。漫画家を目指して、『なかよし』に応募したこともあるんですよ。受賞作とか奨励賞意外に選外ですけれどAランク、Bランク......というのがあって、どのランクか忘れちゃったんですが、名前が載ってすごく嬉しかったです。すごく恥ずかしいんですけれど、猫部ねこさんの『どっきんタイムトリップ』の亜流のような話を書いていました。

――高校時代はいかがですか。

朝比奈:漫画を読む子がすごく多くて、男子生徒からも漫画を借りるようになりました。それで横山光輝さんの『三国志』とか手塚治虫さんの『アドルフに告ぐ』、『寄生獣』とか『こち亀』とか『スラムダンク』、『ろくでなしブルース』とか。少女漫画も相変わらず読んでいて、『ガラスの仮面』『あさきゆめみし』『はいからさんが通る』『王家の紋章』『白鳥麗子でございます!』......特に私は、吉田秋生さんの『バナナフィッシュ』のアッシュと、山岸涼子さんの『日出処の天子』の王子に夢中でした。あと、上条淳士さんの『SEX』という漫画もすごくよかったですね、沖縄の話で。それと妹がホラー漫画好きなので、家では楳図かずおさんの漫画を借りて読んでいました。水木しげるさんの『墓場鬼太郎』も。アニメとはまた違う感じで怖い絵柄で、鬼太郎も性格が悪かったりするんですよね。

――わりと、朝比奈さんの世代からすると古い作品も結構ありますよね。

朝比奈:そうですね。最新のものを読むというよりは、回ってきたものを読むという感じでした。もちろん『花より男子』なども読んでいました。世代としてはそのあたりが新しいものだったんじゃないかな。

――高校時代の読書というと漫画が多かったようですね。

朝比奈:クラスが男女問わず漫画が好きだったんですよ。『ジャンプ』や『マガジン』といった漫画雑誌も教室のあちこちにあって、先生も黙認してくれる校風でした。シリーズものは一巻ごとに回す順番が細かく決まっていたので、急いで読んで次の子に回すという感じ。通学に往復三時間くらいかかっていましたが、むしろ長く読めてラッキーという感じで、急行もあるのにわざわざ各駅停車に乗って通学時間を延ばして読んでいましたね、漫画を。
大学に入ると、今度は大学の友達に影響を受けて村上春樹・村上龍を読むようになります。村上春樹は高校生の時に友達に『ノルウェイの森』を借りたのですが、ちょっと読んですぐに合わないと決めつけていたんです。けど、大学生になって『世界の終わりとハードボイルド』を読んだら、ものすごく面白かったんですよね。村上龍は結構ヘビーな改革や戦争の話から入りました。『愛と幻想のファシズム』とか『海の向こうで戦争が始まる』、それと『コインロッカー・ベイビーズ』あたりから入ったように思います。デビュー作の『限りなく透明に近いブルー』は結構後まで読んでいなかった。
で、このお二人の対談の本で『ウォーク ドントラン』というのがあって、それがすごく面白くて。村上龍さんが猫を13匹も飼っているという自慢をして、2匹しか飼っていない春樹さんがドン引き、みたいな(笑)。他作家について語る場面で、村上龍さんが太宰治を、春樹さんがスティーヴン・キングの話をしていて、両方面白そうだったのでその2人を読むようになりました。太宰治は『斜陽』、『人間失格』『走れメロス』『トカトントン』など。長篇もいいんですけれど、短い中にギュッと凝縮されたものがある作品も好きでした。「皮膚と心」とかが好きでしたね。私は『自画像』という小説にも書いたんですけれど、中学生時代ににきびに悩んでいたんでですが、「皮膚と心」は吹き出物ができたことから女の人が被害妄想に陥ってずっとくどくど話し続ける話なので、面白く読みました。「恥」とか「列車」なども好きでした。「列車」は太宰の意地悪さが出ているんです。主人公の親友が駆け落ちまで考えた女の子がいたんですけれど、その親友は家柄がよかったのでその女の子とは結婚できないまま東京に出てきて、そうしたら女の子が追いかけてきたんです。彼はもう心変わりしていて、追い返したい。それで、主人公と主人公の奥さんが彼女を列車のホームで見送るんです。でも、奥さんと彼女が会話をしないんですよね。そのことに主人公が腹を立てて、奥さんのことをコミュニケーション能力がない、みたいに不満に思うというだけの話なんですけれど、女性に対する厳しさが、そこ突く?という感じで表れていて、それがまた面白い。「皮膚と心」を書ける男だからこういう見方もできるのか、と。

――キングはどの話を読みましたか?

朝比奈:『シャイニング』を読み、そこから『呪われた町』を読んだらめちゃくちゃ怖くて、狂った犬の話の『クージョ』とか、映画も怖かった『ミザリー』とか。『キャリー』も怖かった。

  • 新装版 シャイニング (上) (文春文庫)
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  • 呪われた町 (上) (集英社文庫)
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  • ミザリー (文春文庫)
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