第185回:遠田潤子さん

作家の読書道 第185回:遠田潤子さん

奄美の民話をベースにした深遠なファンタジー『月桃夜』で日本ファンタジー小説大賞を受賞してデビューした遠田潤子さん。その後は人間心理を丁寧に描くミステリー作品を発表、最近は文庫化した『雪の鉄樹』がヒットして話題に。非常に幅広く本を読んできた様子の遠田さん、なかでもお気に入りの作品とは?

その3「怪奇短篇が好き」 (3/5)

  • ねじの回転 (新潮文庫)
  • 『ねじの回転 (新潮文庫)』
    ヘンリー・ジェイムズ
    新潮社
    529円(税込)
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  • 怪奇小説傑作集 1 英米編 1 [新版] (創元推理文庫)
  • 『怪奇小説傑作集 1 英米編 1 [新版] (創元推理文庫)』
    アルジャーノン・ブラックウッド,ブルワー・リットン,ヘンリー・ジェイムズ,M・R・ジェイムズ,W・W・ジェイコブズ,アーサー・マッケン,E・F・ベンスン,W・F・ハーヴィー,J・S・レ・ファニュ
    東京創元社
    1,015円(税込)
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  • 能登怪異譚 (集英社文庫)
  • 『能登怪異譚 (集英社文庫)』
    半村良
    集英社
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  • 漁師とドラウグ (魔法の本棚)
  • 『漁師とドラウグ (魔法の本棚)』
    ヨナス リー
    国書刊行会
    2,307円(税込)
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  • 郵便局と蛇: A・E・コッパード短篇集 (ちくま文庫)
  • 『郵便局と蛇: A・E・コッパード短篇集 (ちくま文庫)』
    A.E. コッパード
    筑摩書房
    950円(税込)
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  • うたかたの日々 (ハヤカワepi文庫)
  • 『うたかたの日々 (ハヤカワepi文庫)』
    ボリス ヴィアン
    早川書房
    691円(税込)
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――遠田さん、好きな本を読み返すんですね。

遠田:そうです。そればかり何度も読むタイプです。わりと気に入ったシーンを何回も読んだりしています。その頃、ヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』を読んで衝撃を受けました。自分の好きな小説ベストテンに入るんじゃないかと思うくらいに。理想です。

――怖い話ですよね。家庭教師先の屋敷に、幽霊がいるんじゃないかっていう...。

遠田:幽霊がいるのかいないのかわからないっていう、曖昧な書き方がすごく好きです。怪奇小説集が好きだったんですよ。それで、短編のアンソロジーとか、早川書房さんの『幻想と怪奇』とか東京創元社さんの『怪奇小説傑作集』あたりを読み漁っていました。ヘンリー・ジェイムズの短篇が結構そういうのに入っていたんですよね。怪奇小説作家だったらM・R・ジェイムズという人の傑作集が2冊ほど出ていて、これも愛読書でした。学者さんで、趣味で怪奇小説を書いていた人です。あまり怖くないんですが、小道具がおしゃれといいますか。英国庭園の中に迷路があって、迷路の中央には錆びた天球儀があって、などと雰囲気づくりが非常にうまい方です。雰囲重視でした。

――怪奇短篇といえばよく「猿の手」が挙がりますが、そういうものではなく...。

遠田:そういうものも好きですけれど、もう少し怖くはないものが好きでした。怖いものだったらなんでしょうね、半村良さんの「箪笥」という短篇でしょうか。『能登怪異譚』に入っている短篇です。筒井さんの短篇の「母子像」も怖いですよね。
大学を出る時期は長篇より短篇を読んでいたんですが、国書刊行会から「バベルの図書館」というシリーズが刊行されたんです。ボルヘスが編纂した全30巻のシリーズで、それが毎月配本か何かで1冊ずつ増えていくのがすごく楽しみでした。いろんな作家の作品が入っているんですが、キプリングの「園丁」がすごく好きで。これまでに読んだ短篇ベストワンじゃないかという。

――へええ。どういう話ですか。

遠田:短い話です。独身の女の人が甥っ子を引き取って育てているんです。甥っ子が戦死してしまって墓参りに行く。それは戦没者墓地なので、ずっと墓標が並んでいるんですよ。そこの墓の園丁が主人公に「あなたの息子さんのお墓はあっちです」って言う。その瞬間に、え、甥じゃなくて息子だったのって思って、最初から読み返していくと「ああ」ってなる。これは面白いなと。そこから調べてみたら、キプリングは怪奇アンソロジーの中にも結構短篇が入っているので、いくつか読みました。

――『ジャングル・ブック』や『少年キム』のイメージが強いけれど、そういうものも書いていたんですね。それにしても、短篇がお好きなんですね。

遠田:そうですね。怪奇やホラーの長篇だったらスティーヴン・キングも読むんですけれど、どちらかというと変な短篇が好きですね。印象に残っているのが、ノルウェーのヨナス・リーという作家の『漁師とドラウグ』。表題作は漁師と、ドラウグという海の妖怪との話なんですが、土俗的で非常に面白かったです。もっとこの作家の翻訳が出てほしいです。同じシリーズの本でA・E・コッパード『郵便局と蛇』も面白かったです。
他に学生時代、ボリス・ヴィアンの『うたかたの日々』も好きでした。あまり恋愛小説は読まないんですけれど、あれだけは繰り返し読みました。

――それも恋愛小説といってもファンタスティックな内容で、だんだん不穏になっていきますよね。

遠田:ラストシーンが好きで。ラストに出てくるねずみが好きです。あ、そういえばこれも蓮ですね。胸に蓮の花が咲く病気になってしまう話ですよね。蓮好きはこれのせいでもあったかもしれません。

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