作家の読書道 第188回:益田ミリさん

日々のささやかな感情を丁寧に、そして鋭く掬いとる作風が魅力のイラストレーターの益田ミリさん。彼女の心を動かすのはどんな本たちなのか? 意外な変遷があって今の職業に就くまで、その時々で背中を押してくれた本たちについても教えてもらいました。

その1「幼い頃大好きだった2冊」 (1/6)

  • なかよし2017年12月号【雑誌】
  • 『なかよし2017年12月号【雑誌】』
    講談社
  • 商品を購入する
    Amazon
    LawsonHMV
  • だれも知らない小さな国―コロボックル物語 1  (講談社青い鳥文庫 18-1)
  • 『だれも知らない小さな国―コロボックル物語 1 (講談社青い鳥文庫 18-1)』
    佐藤 さとる
    講談社
    670円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto

――いつもみなさんに、いちばん古い読書の記憶からおうかがいしているのですが。

益田:昨日ちょっと調べてみたんですけれど、小さい頃、小学館の「ミニレディー百科」というシリーズがあったんですよ。これなんですけれど...(と、書影の写真を取り出す)。

――ありがとうございます。少女漫画の表紙で、「エチケット入門」や「たのしいクッキング」や「すてきなおかし」などがありますね。ああ、なんか記憶にあります。

益田:このシリーズが流行っていて。これを本当にボロボロになるまで読んでいました。小学校の4年生くらいだったか、もうちょっと幼い頃だったかな。街の小さな本屋さんで、いちばん最初に自分のお小遣いで買ったのが、このシリーズだったと思います。可愛い女の子のイラストがいっぱい出てくるので、それを半紙でトレースしたりして。今でも見ると目頭が熱くなるくらい好きでした。「おしゃれ入門」は、背の高い女の子にはこういうファッションが似合うとか、こういう髪型が似合うとかが書かれてあるので、そういうのを勉強して...。って、こういう話で大丈夫でしょうか。

――もちろんです! 書影を見ると、「入門百科シリーズ43」とか「68」とかありますよね。相当な冊数出ていたんですね。

益田:私が持っていたのは3、4冊です。というのもこのシリーズの「しあわせ星うらない」と「おしゃれ入門」が大好きだったからそれで完結していたんです。私、小学校の頃から背が高くて、小柄な女の子に憧れていたんですけれど、この「おしゃれ入門」を読むと「背が高い女の子にもこんなファッションが似合う」とか書かれてあって、それにすごく勇気づけられたんです。

――イラストをトレースしていたということは、その頃から絵を描くのがお好きだったんですか。

益田:そうですね。すごく好きで、でも学校の図工の時間に先生に褒められるということもなくて。クラスにはうまい子はいっぱいいたから、家に帰って自由帳みたいなものに自分の理想の女の子の絵を描いて、ひとりで楽しんでました。

――では、少女漫画もいろいろお読みになっていたのでは?

益田:小学校の頃は『なかよし』を読んでました。『キャンディ・キャンディ』が流行っていて。毎度、友達に借りてました。漫画を本気で読むのは高校性になってからでしたね。

――児童書で好きだった本は憶えていますか。

益田:親戚のおじさんに買ってもらった、佐藤さとるさんの『だれも知らない小さな国』ですね。好きな方は多いと思うのですが、私も「可愛いな」と思って買ってもらったんです。コロボックルっていう小さな人が出てくるんですけれど、「自分のそばにもいるといいな」と思って、机の上を工夫してコロボックルがやって来やすいような配置にして暮らしていました。夜になるとここにくるんじゃないかなと思って。

――読書感想文など、文章を書くことはいかがでしたか。

益田:夏休みの読書感想文の宿題も、先生によく思われたい気持ちが強すぎて、いいことを書こうするあまり、作文として褒められたものではなかったように思います。一冊の本を読み切る力もあまりなくて。ひとつ憶えているのが、ナポレオンの伝記を夏休みに読もうと思って、でも最初の幼少期のほんの少しで挫折したんですよ。それでその部分のことを書いて出したら、先生に赤ペンで「子どもの頃のところしか読まなかったのかな」と書かれて。ばれてました(笑)。

――どういうお子さんでしたか。外で遊ぶのも好きだった子か、それとも。

益田:外でも遊び、家に帰ると自分の世界で絵を描く、みたいな感じでした。外でも地面や壁に描いていましたけれど。

――将来イラストを描く人になりたいと思いました?

益田:そういう職業があることを知らなかったですね。小学校の時は、小学校の先生になりたかったんです。クラスで手を挙げて発言することもできなくて、当てられて本を読んでも手が震えしまうような子供でした。だからこそ、私みたいな子をうまく当てられる先生にならなれる、と思っていました(笑)。「先生の目を何秒以上見つめたら何か意見があるルール」とか作ってくれたら、私も今ここで言えるのにとか、そういうことを考えていたんです。先生にはなりたくても勉強ができない、っていう矛盾があったんですけれど。中学に入るとその夢もなくなって、絵を描きたいなあとは思い始めました。

» その2「リレー小説と日記」へ

プロフィール

1969年大阪生まれ。イラストレーター。主な著書に漫画「すーちゃん」シリーズ、『今日の人生』『僕の姉ちゃん』『沢村さん家のこんな毎日』『週末、森で』などがある。また、14歳の少女の日々を瑞々しく描いた青春小説『アンナの土星』、川柳集『わたし恋をしている。』や、エッセイに『美しいものを見に行くツアーひとり参加』『そう書いてあった』『言えないコトバ』『大阪人の胸のうち』など、ジャンルを超えて活躍する。