第188回:益田ミリさん

作家の読書道 第188回:益田ミリさん

日々のささやかな感情を丁寧に、そして鋭く掬いとる作風が魅力のイラストレーターの益田ミリさん。彼女の心を動かすのはどんな本たちなのか? 意外な変遷があって今の職業に就くまで、その時々で背中を押してくれた本たちについても教えてもらいました。

その2「リレー小説と日記」 (2/6)

――中高学時代の読書といいますと。

益田:中学時代は、星新一さんに出会い、あの不思議な世界に魅了されました。赤川次郎さんの推理小説を楽しんだのは高校時代です。授業中に読んで、犯人捜しをするのが流行ったんです。みんなで回し読みをしていたんですが、たまに、物語の中盤で犯人の名前が丸で囲まれていて「こいつ」って書かれてあったりしました(笑)。それで、高2の時に「みんなで推理小説を書こう」ってことになったんです。ノートに一人ずつ、ちょっとずつ書きながら回していました。

――リレー小説じゃないですか。

益田:そうです。私がはじめに書いたんですけれど、それが最終的に、今私の手元に残っていて。読むと本当にくだらないんですけれど、楽しかったですね。

――どんな話だったんですか。

益田:「4人家族の食卓」という、学園ミステリーでした。主人公は夏子17歳で、さまざまな殺人事件に巻き込まれ、刑事に恋をしたかと思えば急に高校球児と付き合い、実は双子だったり、ハレー彗星が近づき月に移住することになるものの乗る宇宙船を間違え木星に行って、そこでフランス人のジョンと新しい恋がはじまったりしていました。主人公は歳をとらせてはいけないルールなのに、地球に帰り、夏子が22歳になっていた時期もあります。最後は殺されたと思っていた人々が実は生きていたというオチでした。

――かなりダイナミックで面白そう(笑)。

益田:その当時のアイドルが出てきたりして、熱愛とかもありました(笑)。最初は4人くらいで始めたんですけれど、みんな「書きたい、書きたい」と言って、かなりの女子が参加していました。共学なのに女子にしか回らなかったですね。意識しすぎて男子と話ができなかったから。

――ところで、益田さんの作品は日常の中のなんでもない心の動きを掬い取るのが巧みだなと思うんですが、日記や何かはつけていたのでしょうか。

益田:日記は長く書いていました。小6から27歳くらいまで、夜、毎日机に向かって何か書くということを続けていました。今日の出来事はもちろん、中学生くらいまでは架空の話もよく書きました。「なりたい自分」について延々と書くんです。架空の名前も考えて。

――日記を書くのにかなり時間を費やしていたんですか。

益田:そうなんですよ。毎日毎日。たくさん書いて、読み返して、書き直して。読書量より、断然、日記量が多かったですかね。いろんな日記帳があって、思春期の頃は鍵がついているノートで、それが大学ノートみたいなものになったり、それを重ねてホチキスで留めて、分厚くして表紙を作ったりして。高校生くらいまでの日記は残してあります。なので、時々調べものをする時に読み返しますが、面白いですね、日記は。

――「今日自分はこう感じた」みたいな心情や悩みなどは書かなかったのですか。

益田:少し大きくなると、学校であったことや人間関係のことが多くなるんですけれど、小中学校の頃は架空の話が多かったですね。自分の書いた日記の最後に架空の誰かからの応援メッセージが書いてあるんですよ(笑)。「今日も頑張ったね」「ファイト!」みたいな。それ誰なんだって感じですけれど、今日は誰の気持ちでこの日記にメッセージを送ろうとか、考えていました。

――そう思うと、書くことが好きだったんですね。

益田:そうですね。でも書いたといえば日記と、友達とのリレー小説と、他には授業中に友達に回す手紙くらいです。そういう時にちょっとイラストがうまい子がいたりすると、「あ、こんなふうに絵を描くんだ」と思って真似したりもしました。

――さきほど少女漫画を本気で読むようになったのは高校性になってから、とおっしゃっていましたが。

益田:漫画は中学生の頃にはあだち充さんの『タッチ』など読んでいました。少女漫画は高校性になってから「別冊マーガレット」です。『ホットロード』とか。熱中しました。

――その頃、漫画家になりたいとは思っていなかったのですか。

益田:思っていなかったです。「別冊マーガレット」を読んでいると、みなさんめちゃくちゃ絵が上手じゃないですか。自分は顔を描くにしても両方の向きは描けなかったし、後ろ姿なんかも描けなかったので、漫画家になれるわけがないと思ってました。

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