第195回:伊吹有喜さん

作家の読書道 第195回:伊吹有喜さん

『四十九日のレシピ』、『ミッドナイト・バス』、『なでし子物語』など心温まる作品を発表、最近では直木賞候補にもなった『彼方の友へ』も話題となった伊吹有喜さん。幼い頃から読書家だった彼女の愛読書は? 時代小説にハマったり、ミステリ小説を応募していたりと、現在の作風からすると意外にも思える変遷を教えてくれました。

その4「出版社に就職&シナリオを書く」 (4/6)

――大学進学で東京にいらしたそうですが、読書生活に変化はありましたか。

伊吹:大学生のときは隆慶一郎さんを繰り返し読みました。ほかにはハードボイルドというのか、エンタテイメントの作品を読むようになりました。あ、それは社会人になってからかな。大学時代は司法試験を考えていて、法律の勉強をしていたんです。それであまり小説は読まなかったのかもしれない。ただ、勉強するうちに「自分は法律に向いてないな」とひしひしと感じました。
社会人になってから、一転してシナリオの勉強を始めたので、シナリオ集を読むことが多くなったんです。その時に倉本聰さんのシナリオシリーズを読みました。

――卒業されて、就職されたのですよね。シナリオの勉強をしたというのは。

伊吹:本や雑誌が好きだったのでそういう仕事がしたいと思って出版社に就職したのですが、全然違う部署に回されてしまって。雑誌主催のファッションショーをする部署だったんです。「2、3年後には異動するよ」と言われていたんですけれど、もしも異動できなかったどうしようと悩みまして。その頃、テレビドラマの全盛期だったんです。脚本家のオリジナルのドラマがたくさんあって、野島伸司さん、野沢尚さん、内館牧子さん......。そういう方々がすごく面白いドラマを書かれていた時代だったので、「脚本って面白いな」というところから、シナリオスクールに行くことにしたんです。

――小説を書こうとは思わなかったんですね。

伊吹:小説よりも脚本のほうが早く書けるんじゃないかという甘い考えがあったんです。やってみて、脚本は脚本で書き方があって、そんなにさっと書けるものじゃないというのは、ようく分かりました。脚本の勉強をしてよかったのは、決まった時間、いわゆる尺のなかで、起承転結をきっちりつけてまとめる方法論を学べたことですね。それは後に小説を書き始めようとした時に活かされた気がします。

――出版社ではイベント部署から、異動されたんですよね。

伊吹:はい、季刊の着物の雑誌の編集部に異動しました。そこから月刊誌に異動したんですけれど、その頃脚本を書くのが面白くなっていたものですから、シナリオライターになろうと思って会社を辞めて、しばらくはいろいろな賞に応募していました。でもどうしても規定枚数に収めることができなくて困っていた時、夫に、当時雑誌の編集者だったんですけれど、「そもそも長編小説の題材を無理に短篇の枚数に突っ込もうとしているから入りきらないんだ」「この素材は脚本じゃなくて小説でやるべきだ」と言われて、「ああ、小説をやりたかったんだ」と気づいて小説を書きだしたんです。30歳のときでした。

――会社を辞めた後、ライターの仕事もされていましたよね。

伊吹:はい。着物雑誌の編集部にいた頃、その会社は撮影のコーディネートも編集作業も原稿を書くのもすべて編集者が行うという作り方をしていたんです。その一連の作業の中で、一番得意だったのが原稿を書くことでした。それで、ある程度時間が自分でやりくりできそうだったので、応募するシナリオを書きながらライターの仕事をしていました。小説を書きだした時も、教育関係や塾など、学生向けの冊子の仕事をしていました。

――ああ、前に『なでし子物語』で「自立と自律」の話がすごく印象的だったとお伝えした時、教育関係者の方に取材した時に聞いた話だとおっしゃっていましたよね。

伊吹:そうそう、そうなんですよ。のちに小説に活かされたことっていろいろあります。イベント部署の仕事も少女ファッション誌のイベントの仕事だったので、それが『彼方の友へ』に活かされていますし。こんなにあの時のことが後に生きてくるとは思っていませんでした。

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