第195回:伊吹有喜さん

作家の読書道 第195回:伊吹有喜さん

『四十九日のレシピ』、『ミッドナイト・バス』、『なでし子物語』など心温まる作品を発表、最近では直木賞候補にもなった『彼方の友へ』も話題となった伊吹有喜さん。幼い頃から読書家だった彼女の愛読書は? 時代小説にハマったり、ミステリ小説を応募していたりと、現在の作風からすると意外にも思える変遷を教えてくれました。

その6「楽しく学べる息抜き本」 (6/6)

  • よみたい万葉集
  • 『よみたい万葉集』
    松岡 文,まつした ゆうり,森 花絵
    西日本出版社
    1,512円(税込)
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  • 古文研究法 (ちくま学芸文庫)
  • 『古文研究法 (ちくま学芸文庫)』
    小西 甚一
    筑摩書房
    1,944円(税込)
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  • 亡命ロシア料理
  • 『亡命ロシア料理』
    ピョートル ワイリ,アレクサンドル ゲニス
    未知谷
    2,160円(税込)
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  • ([い]4-3)なでし子物語 (ポプラ文庫)
  • 『([い]4-3)なでし子物語 (ポプラ文庫)』
    伊吹 有喜
    ポプラ社
    778円(税込)
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――息抜きで読む本はありますか。

伊吹:落語と万葉集解説ですね。落語は興津要さんの『古典落語』。万葉集でしたら、最近好きなのは『よみたい万葉集』です。万葉集の解説の本をいろいろ読みましたが、今まで読んだ中でダントツに楽しくて美しかったです。万葉集の知識が一通り分かる上、素敵な歌が原文入りで網羅されていて、繊細なカラーイラスト入り、しかも「万葉新聞」というコーナーでは、男女が歌を詠み合う「歌垣」にならって「歌垣合コン参加者募集中」みたいな広告が入っていたりします。そういう視点がすごく好きで、面白いなと思います。
あと、学習書になってしまうかもしれませんが、『古文研究法』と『漢文研究法』という昭和の受験生がよく読んでいた分厚い本があるんですが、あれは大人になって試験から解き放たれてから読むと面白いですよ。今読むと、すごく偉い先生が「君たちに心をこめて教えるよ」という感じで、あたたかいんですよ、行間に漂う雰囲気が。

――その本、ありましたよね。その優しさに、受験生だった当時は気付きませんでした。

伊吹:ただひとつ難点があって、活字が小さいのでそれが今は辛くて(笑)。3分冊にして活字を大きくしてくれたら、案外私たちくらいの年代の人たちが面白く読むんじゃないかなと思います。興味深い例文や美文が豊富なので、読んでいて楽しいんですよ。「これ面白いな」と思って原典を最初から読み出すと「あれ?」となるので、さすがその道の大家が試験問題に出したくなるくらいの抜粋箇所って、選りすぐりの面白いところなんだなと思います。それと、最近はチェーホフを読み直しました。

――いきなりチェーホフとは、何か理由が?

伊吹:格好いい理由ではないんです。ロシア料理の大ブームというのが自分のなかに来まして。きっかけは『亡命ロシア料理』という本です。あまり見かけないお料理の写真に惹かれてレシピ集かと思って手に取ったら、料理に関するエッセイ集でした。アメリカに住むロシア、当時はソ連の時代ですが、二人の男性が料理について熱く語りつつ文明批評を行うという本です。その冒頭にたいそう美味しそうなスープの話が出てきまして。素焼きの壺に肉や野菜を詰めてオーブンに入れると具材から出てきた水分で素晴らしいスープができるというんです。おいしそうだ、これは食べてみたいなと思って読み進めると「唯一問題なのは、ロシア以外の地でその素焼きの壺をどうやって買うかだ」みたいなことが書かれていまして。たしかにそうです、そんな調理器具(?)、めったに売っていません。でも日本には縄文式土器があるじゃないですか。(笑)。埼玉に縄文式土器の制作体験ができる施設があったのを思いだし、そこに行って素焼きの壺を作れば、このスープも試せるぞと気持ちが盛り上がったんです。でもよくよく考えて、自分が作った土器を2~3時間オーブンに入れるのは壺の安全性に不安があるという結論に達してやめました。でも、その本をきっかけにさまざまなロシア料理に関する本やレシピ集を読んでいるうちに今度は「ロシア料理が美味しそうに書いてあるのはチェーホフである」と一文を見かけたので、では読み直してみよう、と思ったんです。つまり「ロシア料理の描写を読みたくて読んだ」というのが最近の読書です(笑)。

――で、描写は美味しそうでしたか。

伊吹:うーん、実はよくわからなかったです。読んだことがない作品もあるので、引き続き、いろいろ読んでみようと思いました。料理で思い出したのですが、先日近所のカフェで「ムーミンママのお料理の本」というレシピ集を読んだところ、文面からはまったく想像ができないお料理が出てきたり、ロシアと隣接しているフィンランドというお国柄か、ロシア料理と似たスープがあったりして、楽しかったです。そこでムーミンにも再び興味が湧いて、ムーミンシリーズ大人買い、というのもしました。

――本との出合い方が面白いですね。さて、今後の執筆のご予定はいかがでしょうか。

伊吹:『なでし子物語』の完結篇、「常夏の光」が「asta*」で連載が始まっています。これは2008年が舞台になっています。『なでし子物語』では少女だった耀子にも、もう瀬里という娘がいるのですが、彼女が18歳になっていまして、大学浪人中なんです。照子、耀子、瀬里という、三世代の女性たちの視点で常夏荘の今後と、それぞれの愛の行方を描きます。
続いて、『犬がいた日々』という新連載が「小説推理」で始まります。三重県の地方の高校に通う18歳たちの物語です。
それから「別冊文藝春秋」連載の『ホームスパン』が最終回を迎えまして、来年刊行の予定です。こちらは盛岡でつくられている手紡ぎ、手染め、手織りのホームスパンという布をめぐる人々の物語です。

(了)

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