第196回:真藤順丈さん

作家の読書道 第196回:真藤順丈さん

ダ・ヴィンチ文学賞大賞の『地図男』や日本ホラー小説大賞大賞の『庵堂三兄弟の聖職』など、いきなり4つの文学賞に入選してデビューを果たした真藤順丈さん。その後も着実に力作を発表し続け、最近では戦後の沖縄を舞台にした一大叙事詩『宝島』を発表。骨太な作品を追求するその背景には、どんな読書遍歴が?

その2「チャラチャラする&映画にハマる」 (2/6)

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――ところで、教科書に載ってる作品を読んで興味を持つとか、学校で回し読みした本などはなかったですか。

真藤:「作家の読書道」らしくなりませんよね、僕もだんだん焦ってきました(笑)。中高時代のそういう記憶がまったくない。読んでなかったってことはないと思うけど。世界文学全集のようなものが親の書棚にあって「読め読め」言われていたけど、指一本たりとも触れなかったです。もう気持ちがいいほどに、その棚からは一冊も読まなかった。

――作文を書くことはいかがでしたか。

真藤:あ、作文は褒められていました。政党機関誌の編集者だった親父の血かもしれない。教師にも文章力を評価されて、特に勉強しなくても国語の成績は良かった。「文意をくみとれ」みたいな設問もなんなく解けましたね。そのかわり、他の教科は目も当てられないほどボロボロでした。なにしろ基本、寝ているか漫画を描いてたもので。

――その後、高校時代も漫画を描いていましたか。

真藤:描いていたけど、高校生の半ばぐらいからチャラチャラしていたというか、ボンクラが背伸びして、ボンクラを脱しようとしはじめたんです。

――チャラチャラしていたって、一体どんな具合に?

真藤:私立の男子校だったので女の子を追っかけたかったんですね、で、悪めの友達とつるむようになって。移動の足はスケボーというような、年に2回ぐらいバイク事故で死んだ先輩を偲ぶ会がある、というようなやつらと。学校もサボり気味になって、友達の家に入り浸っては飲酒や喫煙して、二日酔いでストリートバスケをやったり。おかげでますます読書からは遠ざかっちゃう。
 非行ってことでいえばかわいいもんだと思うし、膝詰めでとうとうと説教してやりたいのはこの頃だけじゃないですし。自堕落で浮わついた時期だったけど、唯一良かったなと思うのは、友達の家にたむろして映画をすごく観るようになったことです。最初のうちは友達とVHSで、そのうち一人でも映画館に通って、すっかり虜になりましたね。

――どのあたりの映画に夢中になったのですか。

真藤:最初はアメリカン・ニューシネマと呼ばれるもの、マーティン・スコセッシの『グッドフェローズ』とか『キング・オブ・コメディ』とか。マフィアものでは『ゴッドファーザー』もきっちりⅢまで大好きで。あとはちょうどデヴィッド・フィンチャーの『セブン』とかブライアン・シンガーの『ユージュアル・サスペクツ』といったサイコスリラーがいっぱい出てきたころで、これはとんでもなく面白いぞって。
 映画のタイトルに関しては、偏愛するものをすべて挙げていったらいくらスクロールしても終わらなくなるので、『七日じゃ映画は撮れません』という自著で注釈のふりをして数百作をレコメンドしているのでぜひ読んでいただきたいんですが、そのころに観たものでいくつか挙げておくと、 スタンリー・キューブリックの『時計じかけのオレンジ』、ジョン・シュレシンジャーの『真夜中のカーボーイ』、シドニー・ルメット『十二人の怒れる男』、マーティン・ブレスト『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』、ミロシュ・フォアマン『カッコーの巣の上で』、マルセル・カルネ『天井桟敷の人々』......。
邦画だと、黒澤明は『七人の侍』はやっぱり外せないですね。『生きものの記録』や『どですかでん』も挙げておきたい。相米慎二『台風クラブ』、北野武『ソナチネ』『キッズ・リターン』、原田眞人『KAMIKAZE TAXI』、長谷川和彦『太陽を盗んだ男』。今村昌平『楢山節考』『復讐するは我にあり』...... すんません、やっぱりキリがないですね。作家を一人挙げるとしたら、ロバート・アルドリッチなんかどうですかね。『カリフォルニア・ドールズ』、『北国の帝王』、『何がジェーンに起ったか?』と、とにかく傑作揃いの監督で。

――何がツボにはまったのでしょう?

真藤:アルドリッチは男臭いんだけどドラマは上質で、濃やかな情念のようなものが深々と刺さってくる。それと物語の飛躍っぷりがすごくて。『北国の帝王』なんて世界恐慌の時代に、無賃乗車で旅をしようとするホーボーと、タダ乗りを見つけしだい殺そうとする鬼車掌の決闘をえんえんやる話ですよ。『何がジェーンに起ったか?』も今観てもすごい。昔、子役スターだった妹と、そのころ付き人だったお姉ちゃんがいて、大人になってから立場が逆転するんだけど、ある事故があって姉ちゃんは車椅子生活になり、妹にほとんど監禁されて......子役時代の栄光を忘れられない妹をベティ・デイビスが演じてるんだけど、もうおばあちゃんなのにフリフリの衣装を着て踊ったりする。それがもう怖くて怖くて......あの映画一本でベティ・デイビスは僕の最恐ホラー女優になりました。現在に至るまで誰にもその女王の座は奪われていません。

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