作家の読書道 第201回:古内一絵さん

映画会社に勤務したのち作家デビューを果たし、さまざまな舞台を選んで小説を執筆している古内一絵さん。ドラァグクイーンが身体にやさしい夜食を出してくれる「マカン・マラン」もいよいよ完結、今後の作品も楽しみなところ。では、どんな読書体験を経て、なぜ小説家へ転身を果たしたのか。その転機も含めて読書遍歴をおうかがいしました。

その1「松谷みよ子と浜田広介」 (1/7)

  • わたしとあそんで (世界傑作絵本シリーズ)
  • 『わたしとあそんで (世界傑作絵本シリーズ)』
    マリー・ホール・エッツ
    福音館書店
    1,188円(税込)
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  • ちいさいおうち (岩波の子どもの本)
  • 『ちいさいおうち (岩波の子どもの本)』
    バージニア・リー・バートン
    岩波書店
    864円(税込)
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  • こねこのぴっち (岩波の子どもの本)
  • 『こねこのぴっち (岩波の子どもの本)』
    ハンス・フィッシャー
    岩波書店
    756円(税込)
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  • ぐりとぐら [ぐりとぐらの絵本] (こどものとも傑作集)
  • 『ぐりとぐら [ぐりとぐらの絵本] (こどものとも傑作集)』
    なかがわ りえこ
    福音館書店
    972円(税込)
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  • 花さき山 (ものがたり絵本20)
  • 『花さき山 (ものがたり絵本20)』
    斎藤 隆介
    岩崎書店
    1,296円(税込)
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  • 泣いた赤おに (日本の童話名作選)
  • 『泣いた赤おに (日本の童話名作選)』
    浜田 広介
    偕成社
    2,160円(税込)
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――いちばん古い読書の記憶を教えてください。

古内:わりと母が絵本をたくさん買ってくれたのですけれど、物心ついてから憶えているのはマリー・ホール・エッツの『わたしとあそんで』。黄色い表紙の可愛い絵本でした。女の子が動物と遊びたくて、追いかけまわすとみんな逃げちゃうけれど、おとなしく座っていると戻ってくるというお話です。他は母に読んでもらったバージニア・リー・バートンの『ちいさいおうち』、ハンス・フィッシャーの『こねこのぴっち』もすごく好きでした。これはキャラクターグッズにもなっている絵本ですよね。
日本の絵本だと『ぐりとぐら』のシリーズと、馬場のぼるさんの「11ぴきのねこ」のシリーズ、かこさとしさんの「だるまちゃん」シリーズ。子ども心に滝平二郎さんの切り絵の挿絵が印象的だったのが、『モチモチの木』と『花さき山』。このあたりが幼稚園の頃だったのではないかと思います。

――そういえば古内さんとは、前に松谷みよ子さんの『ふうちゃんのおたんじょうび』の話をしたことがありましたよね。

古内:あ、そうですそうです。どろんこケーキを作る話ですよね(笑)。小学校に入ってからは松谷みよ子さん一色でした。小学校の図書館に「松谷みよ子全集」があったんです。黄色い大きな本で、函入りで。それが順番に小学校の低学年から高学年向けになっていて、ずらーっと並んでいました。それで低学年の時に『ふうちゃんのおたんじょうび』を読みました。「モモちゃん」シリーズも大好きでしたね。動物やおいしい食べ物が出てきて、可愛らしいところが好きでした。
他にものすごくハマったのが、浜田広介。「ひろすけ童話」ですよね。これも全集があって「1年生」「2年生」と学年ごとに編集されていたので、簡単に読めるものから読んでいました。『泣いた赤おに』が有名ですけれど、私が好きだったのは『トカゲの星』。これはトカゲの兄弟が出てきて、子猫が弟を攻撃した時にお兄さんがかばってしっぽが切れちゃうんですが、そのしっぽが主人公なんです。子猫も殺すつもりじゃなくて、ちょっと触ったら切れちゃったので、しっぽに「どうしてそんなに動くの」と訊くと、すごく面白い表現なんですが、「元のしりおになりたいよ」と答える。「尻尾」ですね。子猫がどこかに行った後は蟻がきてまた話すんですけれど、蟻もどこかに行ってしまう。どんどん寒くなってしっぽが動かなくなってきた時に、天の神様が「庭で光っているものがある。あの光は地上に置いておけない」と言って、天使に取らせに行く。それで星になるというところで普通だったら話が終わるけれど続きがあって、春になってとかげのお兄さんにも新しいしっぽが生えてくる。昔切られたしっぽは星になっているわけですけれど、「いったい切られたしりおの星の光にはいつ気づくのでありましょう。いつ気づくのでありましょう」と、最後を2回繰り返すんですよ。それが子ども心にすごく切なくて。めでたしめでたしではなく悲しみみたいなものが残りますよね、それが印象的でした。
「ひろすけ童話」はやっぱりリズムが好きでしたね。まるで歌みたい。松谷さんの絵本は主人公は6~7歳の女の子が出てくるわりと現実に近いお話ですが、浜田さんは『泣いた赤おに』や『竜の目の涙』もそうですけれど、おとぎ話。そのなかでも私は、リズムが歌みたいな『トカゲの星』が好きだったんです。

――「この文章が好き」という自覚があったんですね。

古内:ありました。松谷さんの本の文章も結構暗記しています。いま読み返すと、「よくこんなに憶えているな」と思うくらい、憶えているので、相当読み込んでいたんでしょうね。というのも、私は小学校2年生までものすごく身体が弱かったんです。肺に影が映るけれど原因が分からなくて、血液検査をすると「血沈」といわれて。夜になると毎晩熱が出ていて、毎週父と一緒に新宿の大きな病院で検査していました。今は親に「あなたがこんなに生きられるとは思わなかったわ」と言われるんですけれど。
それで、昼間も校庭で遊べず、体育もほとんど見学だったんです。そうするとほぼ仲間外れ状態で、友達もできないので休みの時間は図書室で本を読む以外、することがありませんでした。でもそれが楽しかったので、私は気にしていませんでした。でも小学校2年生の時、先生がそれを気にしちゃって。算数の先生だったんですけれど、私、算数ができなかったので、先生からしてみたら勉強はできないわ体育はできないわ友達はいないわ、という生徒だったんでしょうね。で、親に言っちゃったんです。そしたら親がすごくびっくりして、「あなたお友達がいなくて一人で図書室で本を読んでいるの」って、すごい剣幕で怒られました。私はその時、トラウマになるくらい、「本を読んじゃいけないのかな」と思いました。親は心配して言ってくれたんでしょうけれど、私にしてみれば友達がいないことは苦ではなく、図書室に行けば「バーバパパ」のシリーズもたくさんあるし読み切るのに時間が足りないくらいで楽しかったのに。
で、たままた小学校3年生から週2回水泳を始めたら、なぜか病気が治っちゃったんです。デビュー作の『銀色のマーメイド』にも書いていますが、水にあおむけに浮かぶ状態から2か月くらいでバタフライまで泳げるようになりました。毎晩お布団の上で型をやったりしているうちに、身体が丈夫になって、肺の影もなくなって、熱も出なくなって普通に遊べるようになりました。友達もできたし、体育もできるようになって。そんな頃、3年生の時に担任が国語の先生になったんです。そうしたら、今度は本を読むことを悪く言われなくなりました。でもその時に、私は子どもながら、「え、そんなものなの」って思いました。これはおそらく、私が小説を書く根底にあるものだと思うんですけれども。

――健康になっても、本は読み続けたんですね。

古内:友達と遊びながらもずっと本は読み続けていて、それこそ松谷さんの全集も高学年向けのものをよく読みました。好きだったのは「戦争シリーズ」で、児童書とは思えないくらい残酷なものが多いんですね。特に好きだったのは「夜」と「花びら」。
「花びら」はすごい小説で、はっきりは書いていないんですけれど闇市の帰りの満員電車に女の人が乗っている。どこかで赤ちゃんがひいひい泣いていて、みんな疲れているから、迷惑だなと思っている。で、ぎゅうぎゅうやっている間に赤ちゃんが泣かなくなるんですよ。「泣き止んだ、よかった」と思っていると、電車から出た時にお母さんが赤ちゃんをゆすっている。どうしたのかと思って主人公の女の人が行くと、実は赤ちゃんは押し殺されて窒息死していたんです。それで主人公は「私も一緒になってこの赤ちゃんを殺したんだ」と。それ以来、人間が人間に見えなくなってしまうんですね。それで医者に行ったら「今の世の中、人間が人間に見えなくなるのは異常じゃないですよ」と言われ、お薬をもらう。それがドロップなんですよ。そのドロップを見て、主人公は戦争に行ったきりの幼馴染のことを思い出すんです。それで最後は、その幼馴染も戦地で行方不明になってしまったことが分かり、主人公が「生きている」「生きている」と涙を流しながら野菊の花びらをむしって川に流すというところで終わるんです。

――うわあ...それが小学生向けの本に入っているんですか。

古内:そうなんです。これはもう図書室で読んでボロボロ泣いちゃって。
「夜」というのもすごい話で、戦後すぐ、15~6歳の少女が学校に通わないで工場みたいなところで働いている。たぶんお父さんは戦争でいなくなって、お母さんは病気でその子が働き頭なんですけれど、お給料が出た時、どうしてもかき氷が食べたくて、男の子を誘ってかき氷屋に入って2人で食べるんですよ。でもお店を出たところ誰かにぶつかられて、給料袋をまるごと取られてしまう。その時、その子は「ごはん」ってつぶやく。そのお給料が家族の食費だったんでしょうね。それで、自分がかき氷を食べたからだって、すごく後悔するんです。どうしてもかき氷を食べたくて食べたくて我慢してたのに。後悔しながら男の子と帰るというだけの話なんですけれど、それを童話として書く。それって、子どもを信じてなきゃ書けないと思うんですよ。子ども向けのものだからといってまるで手を抜いていない、その徹底さに打たれましたし、信頼されている感じがしました。
その頃、小学校3、4年生になって身体が丈夫になって、国語の先生が担任になって私が作文がうまいってことを言ったら、それまで仲間外れだったのが、学級委員にもなったんですよ。算数の成績は相変わらず悪かったんですけれど、担任が算数の先生と国語の先生ではこんなに評価が違う。本を読むこともいいことみたいに言われ、作文も上手だと褒められて、私にすり寄ってくるような子も出てくる。単に嬉しい部分もありつつ、大人が考える基準をクリアしていないと認められないって、どういうことなのと思いました。たとえば、もしも「本を読む」ということが本当に美徳なのだとしたら、私が身体が弱くて仲間外れになっていても認められるべきですよね。なのに1、2年生の頃は「頭も悪くて体育もできなくて友達もいなくて本しか読んでない」と言われ、3年生になるといきなり学級委員なんて。身体は弱いままだったら本を読むこと自体も認められないままだったのかな、と考えるようになりました。実際、算数の先生は算数ができる子を、国語の先生は国語ができる子を贔屓していたと思いますね。先生の評価で生徒の評価が変わってしまうという。小学校って残酷だなと思う。
そうしたなかで、松谷さんの本って嘘がないなと思って。子どものものだからといって何か「こうしろああしろ」と言わないし、ちゃんと残酷なことも書いてあって。松谷さんにはまだ畏敬の念がありますね。なにか、助けてもらったという感覚があります。

  • りゅうの めの なみだ (いわさきちひろの絵本)
  • 『りゅうの めの なみだ (いわさきちひろの絵本)』
    浜田 広介
    偕成社
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  • 銀色のマーメイド (中公文庫)
  • 『銀色のマーメイド (中公文庫)』
    古内 一絵
    中央公論新社
    756円(税込)
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プロフィール

古内一絵(ふるうち・かずえ)
東京都生まれ。映画会社勤務を経て、中国語翻訳者に。第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、2011年にデビュー。2017年『フラダン』で第6回JBBY賞(文学作品部門)を受賞。他の著書に『キネマトグラフィカ』(東京創元社)、「マカン・マラン」シリーズ(全4冊)『銀色のマーメイド』『十六夜荘ノート』(中央公論新社)などがある。