第203回:古谷田奈月さん

作家の読書道 第203回:古谷田奈月さん

2017年に『リリース』で織田作之助賞を受賞、2018年には「無限の玄」で三島由紀夫賞を受賞、「風下の朱」が芥川賞候補になるなど、注目を浴び続けている古谷田奈月さん。自由で斬新な作品の源泉はどこにあったのか、その読書遍歴をおうかがいしようとすると、最初に挙がったのは本ではなくて……。

その4「影響を受けた漫画家&小説の執筆」 (4/6)

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  • 『うる星やつら〔新装版〕(1) (少年サンデーコミックス)』
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  • らんま1/2 1 (少年サンデーコミックススペシャル)
  • 『らんま1/2 1 (少年サンデーコミックススペシャル)』
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――ところで、漫画も読まれていたそうですが、どのあたりを読んでいたんですか。

古谷田:高橋留美子です。「りぼん」とかも読んでいましたけれど、「わー、これはすごいぞ」と思ったのは高橋留美子の『うる星やつら』と『らんま1/2』です。それまで兄の影響が強かったんですけれど、高橋留美子は私が見つけたものだったので、それも嬉しいんですよね(笑)。
でも、小説家も含め、私にとって一番重要な作家かもしれないと思うのは杉浦日向子さんなんです。エッセイとかも書かれているけれど、私が読んできたのは漫画です。たまたま古本屋で『東のエデン』を見つけたのが出会いでした。それですごく感動して「なんなんだこの人は」と思って調べて、はじめて全集というものを買いました。ハードカバーで出ていて、今でもうちにあります。あの方は本当に江戸に生きているという感じでしたが、はやくに亡くなってしまったんですよね。
世界の描写の仕方が感情豊かという感じではなくどこかさっぱりしているのに、少ない情報の中にすごくこちらに訴えかけてくるものがある。作風はいろいろあって、コミカルなものもシリアスなものもありますが、江戸だけじゃなく、明治、たまに東京も描いていたし、そのすべてが素晴らしくて、ずっと憧れの人で居続けると思っています。

――杉浦さんを知ったのは、いくつの頃ですか。

古谷田:大学生ですね。よく憶えてます。というのもすごく感動して、友達にも「これ読んでみて」って貸して、それきり返ってこなくてその子との仲が微妙になったから(笑)。

――さて、小説を書き始めたのはいつ頃ですか。

古谷田:久美沙織さんを読んでいた頃から物語みたいなものは書いていました。それこそ、自分で考えた冒険物語だったり、友達と一緒に作った話だったり。それを書いている時、「自分はこういうことをやる人間である」という感覚がありました。「それしかない」という実感があった。現実的に、どこかに応募しはじめるのは20代半ばくらいからですけれど。

――では、大学卒業後はどうされていたのですか。

古谷田:自分は文章を書いていくと思っていたので、就職はしませんでした。でも、全然手は動いていないという時期が長かったです。それでも「いつか書く」とはずっと感じていて、そのタイミングがきたのが26歳くらいの時でした。「来た」と感じて、その時から書き始めました。

――それですぐ書けるものなのですか。

古谷田:下手くそだったけど、初めて終わりまで書けたんですよ。「おしまい」っていうところまで。それから1、2年くらいは自分の思いのままに書いて、それからだんだん応募しはじめたんじゃなかったかな。

――応募する時、どの新人賞に送るか考えますよね。ジャンルについては何か意識しましたか。

古谷田:それがぜんぜん知らないから、本当に大変でした。文学に特に興味がないというのがここで効いてきましたね。悪い意味で。「私が知っている出版社って、新潮社と、講談社かなあ」という感じで、あとが出てこない。本当にそういうレベルだった。なにかで読んで「文學界」を知ったのと、たまたま村上春樹のデビューした経緯を読んでいた時に「群像」というのを知ったのと、「新潮」は出版社と同じ名前だから分かりやすかったということで、ギリギリ私が知ることができたのがその3つでした。それで、書いては順番にその3つの文芸誌の新人賞に送っていました。

――あれ、デビューしたのは新潮社の日本ファンタジーノベル大賞ですよね。

古谷田:はい。新潮新人賞、文學界新人賞、群像新人文学賞の3つで「次はこれ、その次はこれ」と回してるうちに、義務感で書いていることに気がついて。最終選考に残ったこともあったのでなんとなく正しいことをしていると思っていたけど、本当は、賞のために書くことに飽き飽きしてたんですよね。なので、自分の楽しみのためだけの物語を並行して書き始めて、それがまとまったタイミングでファンタジーノベル大賞に送ってみたんです。思い付きみたいな感じでしたが、「楽しい」と思って書いたものでデビューできたことは本当によかったと思っています。
ファンタジーノベル大賞でデビューしたけれど、今は文芸誌中心でやっているのは自分ではすごく自然な感じです。純文学というものからいったんは離れたけれども、そのおかげでより自由な観点を持てたという実感もあります。

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