第203回:古谷田奈月さん

作家の読書道 第203回:古谷田奈月さん

2017年に『リリース』で織田作之助賞を受賞、2018年には「無限の玄」で三島由紀夫賞を受賞、「風下の朱」が芥川賞候補になるなど、注目を浴び続けている古谷田奈月さん。自由で斬新な作品の源泉はどこにあったのか、その読書遍歴をおうかがいしようとすると、最初に挙がったのは本ではなくて……。

その6「ノンフィクションへの敬意&自作の執筆」 (6/6)

  • プリズン・ブック・クラブ--コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年
  • 『プリズン・ブック・クラブ--コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年』
    アン ウォームズリー,向井 和美
    紀伊國屋書店
    2,090円(税込)
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  • ルポ 川崎(かわさき)【通常版】
  • 『ルポ 川崎(かわさき)【通常版】』
    磯部 涼
    サイゾー
    1,760円(税込)
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  • 無限の玄/風下の朱 (単行本)
  • 『無限の玄/風下の朱 (単行本)』
    古谷田 奈月
    筑摩書房
    1,540円(税込)
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――普段、資料とは別に、ノンフィクションは読みますか。

古谷田:基本、「本を読む」という時は小説を読んできたんですが、ノンフィクションを読むこともあります。アン・ウォームズリーの『プリズン・ブック・クラブ』を読んで思ったのは、ノンフィクションというのはフィクションの一ジャンルなんだなと。実際の人物や出来事について書いているとしても、書き手が自分の印象に残ったところを自分なりの表現で書いてまとめているという意味で。自分が小説を書く時とほとんど変わらないなと思って、それ以来、ノンフィクションに対して特別な感情を持つようになりました。親近感と、それでもやはり小説とは違うというところへの敬意。
磯部涼さんの『ルポ川崎』を読んで感じたのは、書き手の覚悟です。観察者というよりは、一人の登場人物として川崎の人々や場と関わっていこうという意思が文章から感じられる。書いたものに対する責任の負い方が、どちらがより尊いかということではないけれども、やはりフィクション作家のそれとは違うなと感じたんです。私はフィクションをまがい物だとは思っていません。それも一つの現実なのだと考えていますが、だからこそ感銘を受けました。生身の人間を描くノンフィクション作家と同じ覚悟で書いていきたいと思いました。

――ちなみに、ゲームや漫画のお話がありましたが、他に何か影響を受けたり、すごく好きだったものってありますか。

古谷田:ミュージカルです。最初にぐっときたのが「オズの魔法使い」だったと思うんですけれど。ミュージカルを「あんな、いきなり歌いだすなんておかしい」みたいに言う人もいますが、私はむしろ、歌わない私たちがおかしいって思うんですよね。
私たちは普段、歌うことや躍ることを我慢して生きているんだなって思うくらい、ミュージカルは自然に感じる。身体の一部として歌と踊りがある人たちの表現、すごくしっくりきます。あの形式は真理だと思う。でも、あまり観に行ったりしているわけではないんですけれど。

――1日の執筆時間などは決まっていますか。

古谷田:今ね、生まれてから一番、書いているんですよ。すっごく集中してます。締切が迫っても前まではこんなふうには書けなかったというくらいに書いていて、自分の覚醒具合に自分でビビっています(笑)。

――朝起きてすぐ「書くぞ」みたいな?

古谷田:なんなら夢のなかで文章ができあがっていって、それに急かされて起こされるみたいな感じで。起きた瞬間にパソコン起動させてコーヒーを淹れて、まだぼーっとしているんだけれど無理やり音楽聴いて踊ったりして身体を起こして、それでいきなり書き始める感じです。お腹がへるまで。お腹へらないでほしいって思いますよね(笑)。で、食べて、またすぐ書いて。そんなこと不可能だと思っていたのに、もう一日中書いています。今日、久々に人と喋ってるんです(笑)。今書いているものはそのうち雑誌に掲載されると思います。

――『リリース』『無限の玄/風下の朱』というのは、ジェンダーの問題を扱っていましたが、次はどうなりますか。

古谷田:テーマの中心にジェンダーがくることはないと思う。その問題から興味を失ったということではなく、中心にしてはいないということですね。今まで考えてきたようなことが実際に組み込まれている、自然に存在しているというものを作っていきたい。これまで書いてきたことがあるからこそできる表現があると思っています。

(了)