第203回:古谷田奈月さん

作家の読書道 第203回:古谷田奈月さん

2017年に『リリース』で織田作之助賞を受賞、2018年には「無限の玄」で三島由紀夫賞を受賞、「風下の朱」が芥川賞候補になるなど、注目を浴び続けている古谷田奈月さん。自由で斬新な作品の源泉はどこにあったのか、その読書遍歴をおうかがいしようとすると、最初に挙がったのは本ではなくて……。

その5「翻訳小説の距離が好き」 (5/6)

  • ユニヴァーサル野球協会 (白水Uブックス)
  • 『ユニヴァーサル野球協会 (白水Uブックス)』
    ロバート クーヴァー
    白水社
    1,728円(税込)
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  • 野生の探偵たち〈下〉 (エクス・リブリス)
  • 『野生の探偵たち〈下〉 (エクス・リブリス)』
    ロベルト ボラーニョ
    白水社
    3,024円(税込)
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  • あの素晴らしき七年 (新潮クレスト・ブックス)
  • 『あの素晴らしき七年 (新潮クレスト・ブックス)』
    エトガル ケレット
    新潮社
    1,836円(税込)
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  • 愛と障害 (エクス・リブリス)
  • 『愛と障害 (エクス・リブリス)』
    アレクサンダル・ヘモン
    白水社
    2,376円(税込)
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――デビューの前後やその後、好きだった本はありますか。

古谷田:ロバート・クーヴァーの『ユニヴァーサル野球協会』は、自作の野球のボードゲームみたいなものを考案した人が、毎晩それに没頭しているうちに、そのゲームの世界に入り込んでしまうといった話です。野球チームも実際にあるチームかのように鮮やかで、スーパースターの選手も本当にいる選手かのように崇めていて、その真に迫った描写が格好よかった。しかも全体的にはポップで読みやすくて、すごく面白かったですね。
ロベルト・ボラーニョに没頭した時期もありました。白水社が出した「ボラーニョ・コレクション」で短篇をまず読んで、すごいなと。自分が短篇を書くとしたら、これくらいって尺があって、その中にまとめるように書くという意識があるんですけれど、ボラーニョってそういう感じがしないんですよね。短篇のための短篇じゃなくて、長篇の中の1シーンのようというか、すごくスケールを大きくしたまま短篇に区切る、みたいな書き方。岬から海を眺めるような感動があります。そのあとに『野生の探偵たち』という大変な長篇を読んで、すごく納得がいきました。
最近は、エトガル・ケレットの『あの素晴らしき七年』かな。エッセイなんですけれど、この人とアレクサンダル・ヘモンの『愛と障害』を並べたい。この2人が私の中では同じグループにいるんです。

――エトガル・ケレットはイスラエルの作家で、両親がホロコースト体験者ですよね。アレクサンダル・ヘモンはサラエボ出身で、アメリカにいる時にユーゴ紛争が起きて、移住を決めた人ですね。

古谷田:そういった自分の悲惨な環境だったり、体験だったりを、ユーモアを中心にして語っているんです。ユーモアというのは人間独自の、そして人間にとってもっとも大事なものだと私は思っているんですが、この2人は、悲惨な体験を忘れるため乗り越えるためではなく切実に表現するためにユーモアを用いている。人間の強さを感じます。作品にも、書き手としての彼らの姿勢にも、心の底から感動しました。

――海外小説が多いんですね。

古谷田:そうですね。翻訳されている文章が好きで。外国語から変換されているという、ワンクッションおいた遠さというのが、私にとっては重要なんだなと思います。
そうそう、私にとってフリオ・リャマサーレスの『黄色い雨』も大事な作品です。これまでに読んだことのない小説を読んだなと思いました。すごく絶望的な状況なんだけれども、本当に美しくて、文章を読むということの喜びにつまった一冊だなと思います。

――スペインの作家ですよね。昔単行本で出ていたのが、最近になって違う版元から文庫で出ましたよね。

古谷田:こんな言い方していいのか分からないけれど、日本では出版してもらえないような小説だなって。そういうありがたさもありますよね、海外文学って。
あと、斎藤真理子さんのおかげで、と言っていいかと思いますが、最近は韓国文学を読む機会も増えました。私が読んだのは『こびとが打ち上げた小さなボール』、『野蛮なアリスさん』、『すべての、白いものたちの』。韓国の作家たちの社会問題に対する向き合い方、その深さと真剣さからはものすごく刺激を受けています。

――読む本は、どのように決めているのですか。

古谷田:最近だと、信頼できる人が薦めてくれる本とか、興味があるものとか。ちょっと問題発言かもしれないんですが、私、なるべく本を読まないで生きていきたいって思ってるんですよ。なるべく少ない冊数ですませたい。昔からそうなんです。一冊読むのがそれくらい大変で、だから読む時は「必ずいい本」を読みたい。絶対に自分を豊かにするものを読みたい。「なんとなく、これでも読んでみるか」みたいなことはもう全然できないんです、私はそんな余裕のある読者ではない......。

――では、ご自身の本も読者にとって「必ずいい本」と思ってもらえるようにと...。

古谷田:あ、自分の本は「書くもの」であって「読むもの」ではないので。読者にとっていい本かというのは、その人と作品との関係の話で作者の思惑なんて出る幕はないと思ってますが、ただ、「(古谷田さんの)本、読みましたよ」って言われると「わー、すごい」とは思います(笑)。一冊ぶんの貴重な時間と体力を使ってよく読んだな、勇敢だなあと。

――えー(笑)。執筆する際、資料として本を読んだりはしないのですか。

古谷田:それはもちろんあります。調べなくてはならないことは必ず、何かしらあるので。これから書く作品の材料になるのだという思いがあるから、資料を読んでいるときがもしかしたら一番身の入った読書タイムかもしれません。

  • 黄色い雨 (河出文庫)
  • 『黄色い雨 (河出文庫)』
    フリオ リャマサーレス
    河出書房新社
    886円(税込)
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  • こびとが打ち上げた小さなボール
  • 『こびとが打ち上げた小さなボール』
    チョ・セヒ
    河出書房新社
    2,052円(税込)
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  • 野蛮なアリスさん
  • 『野蛮なアリスさん』
    ファン・ジョンウン
    河出書房新社
    1,728円(税込)
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  • すべての、白いものたちの
  • 『すべての、白いものたちの』
    ハン・ガン
    河出書房新社
    2,160円(税込)
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