第206回:江國香織さん

作家の読書道 第206回:江國香織さん

読書家としても知られる江國香織さん。小さい頃から石井桃子さん訳の絵本に親しみ、妹さんと「お話つなぎ」という遊びをしていたけれど、その頃は小説家になることは考えていなかったとか。さらにはミステリ好きだったりと、意外な一面も。その膨大な読書量のなかから、お気に入りの本の一部と、読書生活の遍歴についておうかがいしました。

その2「冒険小説を逃したという思い」 (2/7)

  • あしながおじさん (福音館文庫 古典童話)
  • 『あしながおじさん (福音館文庫 古典童話)』
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  • 小公女 (岩波少年文庫)
  • 『小公女 (岩波少年文庫)』
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    岩波書店
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  • 若草物語 (新潮文庫)
  • 『若草物語 (新潮文庫)』
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――作文や読書感想文は好きでしたか。

江國:うーん、好きではなかったですけれど、他の教科よりも得意でした(笑)。

――自分でお話を作ったりとかは?

江國:それは小さい時から遊びの一種としてやっていて、父が取っておいてくれていたのでだいぶ残っています。紙に短い話を書いてホチキスで止めたものとかがありますね。父もものを書いていたので、原稿用紙をもらって、そこに未完の小説の冒頭を書いたりも。完成はさせられないんですけれど、お話を作るのは好きでした。
6歳の時に妹が生まれたんですけれど、妹がちょっと大きくなった頃、たとえば私が10歳で妹が4歳の頃とか、私が12歳で妹が6歳の頃に、ふたりで「お話つなぎ」というのをよくやったんです。その時々で2行ずつ交代とか5行ずつ交代で作っていくんですけれど、私はその頃から細かい部分を描写するのが好きだったので、こまごまこまごま書くんですが、妹がすぐぶち壊すの、それを(笑)。「そこに大波が来てすべて流れていきました」とか「と思ったらそれは夢でした」とか、すごく大胆なんですよ。それは面白かったな。

――その頃、将来物語を書く人になりたいとか、思ったりしたわけではなく?

江國:全然思ってなかったですね。あくまでも遊びとしてやっていました。

――さて、その後、文字の多い本も読むようになっていったと思うのですが。

江國:そうですね。絵本ではないものを自分で読んで楽しめるようになったのはわりと遅くて、小学校の4年生か5年生くらいですね。4年生くらいまでは依然として、寝る前に母に長い話を読んでもらったりしていました。
自分で面白いって思ったのは、それは後にちょっと残念に思うんですけれど、女の子っぽい本ばかりだったんですよ。そういう本ばかり自分が選んでいたんですね。『あしながおじさん』とか『小公女』とか『若草物語』とか『赤毛のアン』とか。もちろんそれらはすごく面白かったけれど、たとえばルパンとか、『海底2万マイル』とか、『ツバメ号とアマゾン号』といった面白い本も、同じようにそばにあったはずなのに。あの頃ってなんとなく、そういうのは男の子が読むものだと思っていて。だって、キャラメルのおまけにさえ、男の子用と女の子用があった。

――ああ、グリコのキャラメルのおまけ、当時は男女別々でしたね。

江國:だから、本も女の子っぽい本ばかり選んでいて、そういう冒険ものを読めていないという欠落があって。
中学校になると突然見栄っ張りになり、子供の本ではない大人っぽいものを、しかも全然分かりもしない名作というのを読み始めました。電車通学だったので結構読む時間があったので、『パルムの僧院』とか『赤と黒』とか、トルストイとかをやたら文庫で買っていました。こんなにいっぱい読んだんだって思いたいがために。でもね、まったく身にならなくて忘れちゃっていますね。
中学生の時は、最初は外国ものへの憧れが強くてそちらばかり読んでいましたが、途中で太宰治とか梶井基次郎とかを読んでみたら、なんていうのかな、皮膚から染み入るほど分かる、と思いました。確かにあの頃の文庫の海外ものって、まずだいたい文体が一緒だからそれがトルストイの文章なのかドストエフスキーの文章なのか分からないし、登場人物の名前もいちいち表で確かめないと分からなかった。でもそれが日本の近代のものだと当然、頭で考える前に、物語の筋とかではなくて、その風情みたいなもの、悲しいとか色っぽいとかドライとかウェットといった物語の空気感がすごく入ってくる。またその頃って小説の色がとても濃密な時代ですよね。作家の色というか。そのくらいから小説が本気で好きになったんじゃないかなと、後から思います。

――では、いろいろなものを読み始めて...。

江國:そこからはいろいろなものを、背伸びも含めて読むのが好きになりました。相変わらずデパートに行く時と一緒で、慣れない場所に行くのが怖いんですけれど、本さえ持っていれば大丈夫だと思っていて。電車もバスも待ち合わせも、歯医者さんも(笑)、本さえ持っていけば怖くない。本を持ち歩いているのはその頃から、ずっと今もですね。

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