第206回:江國香織さん

作家の読書道 第206回:江國香織さん

読書家としても知られる江國香織さん。小さい頃から石井桃子さん訳の絵本に親しみ、妹さんと「お話つなぎ」という遊びをしていたけれど、その頃は小説家になることは考えていなかったとか。さらにはミステリ好きだったりと、意外な一面も。その膨大な読書量のなかから、お気に入りの本の一部と、読書生活の遍歴についておうかがいしました。

その6「普段の読書スタイル」 (6/7)

  • 犬の力 下 (角川文庫)
  • 『犬の力 下 (角川文庫)』
    ドン・ウィンズロウ
    角川書店(角川グループパブリッシング)
    1,028円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • 音もなく少女は (文春文庫)
  • 『音もなく少女は (文春文庫)』
    ボストン テラン
    文藝春秋
    1,004円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • バンディーニ家よ、春を待て
  • 『バンディーニ家よ、春を待て』
    ジョン ファンテ
    未知谷
    3,240円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • ある家族の会話 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)
  • 『ある家族の会話 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)』
    ナタリア ギンズブルグ
    白水社
    1,080円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto

――ところで、プロの作家になる前と後で、読書生活に変化ってありましたか。

江國:読書に関しては、本当に変わりないですね。読んでいる時間のほうが書いているより長いくらいだし、何も変わらないし、今も絵本も好きだし。人生の前半分よりも後半分はミステリがすごく増えたという変化くらいかな。書けなくても耐えられるけれど、読めなかったら耐えられないと思う。

――「この人のここがうまいな」とか「こういう描写いいな」とか、作家の目で読んでしまうということはないですか。

江國:私は読む時は完全に一読者ですね。まあ、仲良しの作家で、たとえば井上荒野さんは、あの人本当に上手なので、「これがすごい」と思ったり、「悔しい」って思ったり、「こういうのは絶対に敵わないな」って思ったりはしますけれど。それは本当に親しい何人かのことだけで、あとはあんまり書き手としては読まず、読み手として読みます。

――それにしても、なぜそこまでミステリが多くなったのでしょう。ご自身で本格的なミステリを書きたいとは思わないわけですよね。

江國:うん、まったく無理だと思いますね。そういう脳みそじゃないから。

――海外ミステリは、どのように選んでいるのでしょうか。

江國:だいたい分かるんですよ。実際に本を手に取ると。後ろの説明とか、タイトルとか、風情とかで。レコードのCDのジャケ買いは、よくとんでもないものを買ってしまったりするんですけれど、本のジャケ買いというか表紙買いで失敗したことはほぼないです。ただ、海外ミステリの文庫は同じものを買っちゃうんですよね。しかも最近、「装いも新たに」って刊行されて平積みされていることも多いから、新刊だと思って買って途中で「あれ、これどこかで読んだ」って思うこともあります。

――新装版とか、新訳ってやつですね。でも、私だけかもしれませんが、夢中になって一気読みしたミステリほど、案外、犯人を忘れちゃったりすることとかありまして......。

江國:うん、私もします、します、します。ストーリー自体も軒並み忘れてますよ。だって数が多すぎるし、似た話も多いし。でもやっぱり、気配と、強烈に面白かったことは憶えているんです。
今だったら何だろう、デニス・ルヘインの新刊が出たら絶対に買うとか。『犬の力』のドン・ウィンズロウも出たら買いますね。

――そういえばボストン・テランの『音もなく少女は』でしたっけ、江國さんが推薦コメントを寄せていましたね。

江國:あ、テランもそうですね。犯人が誰かとかトリックではなくて、主人公にせよ犯人にせよ、その人たちの暮らしぶりとか、壮絶な生き方とか、そういうものが見える話が好きなんですね。だから私はミステリではない普通の小説を読むのと同じ気持ちでミステリも読むんですけれど、ミステリは多くの普通の小説以上に、些細なことが大事になってくるじゃないですか。殺すか殺されるか、追うか追われるかの状態で、バンバン血が流れる世界の中で、たとえば明日死んじゃうかもしれない時に恋人ができたら、二人で朝コーヒーを飲むっていうことの幸せがより貴重になったりする。日差しも何もかもが、より感じられるというか。だから、登場人物とか人生とかが見えるものが好きなんだと思う。

――ミステリ以外の読書でも、海外小説が多いですか? 英米文学の現代作家などたくさん読まれている印象ですが。

江國:多いと思います。英米文学に限らず読みますね。
最近はジョン・ファンテの『満ちみてる生』とか。イタリア移民の子なので血はイタリア人なんですけれど、アメリカで生まれ育ったのでアメリカの作家になるのかな。イタリア社会のことを書いているんです。最初に読んだ小説は『満ちみてる生』で、それから探して『デイゴ・レッド』というのと『バンディーニ家よ、春を待て』というタイトルの3冊を読んで、どれもすごく良くて。それが最近私の新しく知った好きなもの。昔、『ある家族の会話』を見つけた時に近い喜びがありましたね。この3冊は全部、未知谷という出版社から出ています。書店で「これ、なんだろう」と興味を持ったり面白そうって思うものがそこの会社の本であることは多いですね、私は。

――本を読む時は、付箋を貼ったり、線を引いたり、ページを折ったりなどしますか。

江國:決まったことはないです。でも、すごく憶えておきたいとか、誰かに言いたいっていう文章があった時には、そこのページは折っておいて、読み終わってからその言葉をもう1回読んで、すごくすごく感激したら手帳に書き写したりします。あとは、もしも後で誰かに話すとか、書評するという時に大事だなと思うところにチェックを入れたりもします。でも本を閉じてしばらくすると、自分がどの本にチェックを入れているか忘れちゃっているので、あんまり使えないですね(笑)。すごく昔に大好きだった本をたまに読み返す、もしくは人に紹介するために手に取ってみる、という時にチェックが入っているのを見て、なぜそこにチェックを入れたのかどうしても思い出せなかったりもする。あるいは「こんなところで感動したのか、私」「こんなところにチェック入れてるっていうのはちょっと安いな」ということもあります(笑)。「ああ、あの頃の私が気に入りそうな言葉だな」って、ちょっと恥ずかしくなりますね。

» その7「本を読む場所、そして新作」へ