作家の読書道 第213回:河﨑秋子さん

東北と北海道で馬と暮らす人々を描いた物語『颶風の王』で注目され、単行本第二作『肉弾』で大藪春彦賞を受賞、新作短編集『土に贖う』も高い評価を得ている河﨑秋子さん。北海道の酪農一家で育ち、羊飼いでもあった彼女は、どんな本を読み、いつ小説を書きはじめたのか。これまでのこと、これからのことを含め、たっぷりと語っていただきました。

その1「幼い頃に好きだった本」 (1/5)

  • どうぞのいす (ひさかた絵本傑作集)
  • 『どうぞのいす (ひさかた絵本傑作集)』
    香山 美子
    ひさかたチャイルド
    1,070円(税込)
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  • ヒッコリーの きのみ
  • 『ヒッコリーの きのみ』
    香山 美子
    ひさかたチャイルド
    1,100円(税込)
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  • シートン動物記 1 オオカミ王ロボ・ぎざ耳坊やの冒険〔ほか〕
  • 『シートン動物記 1 オオカミ王ロボ・ぎざ耳坊やの冒険〔ほか〕』
    アーネスト・T・シートン,増井 光子
    集英社
    1,320円(税込)
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  • Dr.スランプ 1 (ジャンプコミックス)
  • 『Dr.スランプ 1 (ジャンプコミックス)』
    鳥山 明
    集英社
    484円(税込)
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  • だれも知らない小さな国―コロボックル物語 1  (講談社青い鳥文庫 18-1)
  • 『だれも知らない小さな国―コロボックル物語 1 (講談社青い鳥文庫 18-1)』
    佐藤 さとる
    講談社
    682円(税込)
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  • モモちゃんとアカネちゃんの本(1)ちいさいモモちゃん (児童文学創作シリーズ)
  • 『モモちゃんとアカネちゃんの本(1)ちいさいモモちゃん (児童文学創作シリーズ)』
    松谷 みよ子
    講談社
    1,210円(税込)
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――一番古い読書の記憶を教えてください。

河﨑:記憶が前後しているのですが、たぶん一番古いのは、斎藤彰吾さんの『なりくんのだんぼーる』という絵本だったと思います。大好きでした。それと、香山美子さんの『どうぞのいす』と『ヒッコリーのきのみ』という絵本ですね。なぜすらすら出てくるのかといいますと、ある程度大人になってから昔読んだ本を検索したらまだ発売していることが分かりまして、買い直したんですよ。読み直して「ああ懐かしい」と思っていて。
 ほかには幼稚園の頃、親が頼んでくれたと思うんですが、1か月に1回、ソフトカバーの、ちょっと版の小さい絵本が毎月送られてきていて、それがすごく楽しみでした。文字が読めなかった頃は親に読んでもらっていて、文字が分かるようになってからは自分で読んで。幼稚園の年長の頃に、結構しっかりしたハードカバーの『シートン動物記』のシリーズも定期的に送られてきていました。子ども向けではあるけれど、ありのままの動物の姿を人間の視点で追いつつ、動物も死ぬときは死ぬというような、厳しさを知らしめる内容で、絵も写実的できれいで。すごくお気に入りでした。取っておきたかったんですけれど、それをうちの母が知り合いのお子さんに全部あげちゃいまして。いまだに恨み言を言っています(笑)。母も「あげなきゃよかったわね」って。

――ご兄弟はいましたか。

河﨑:4人兄弟の一番下です。兄、姉、兄がいて、2番目の兄とは6歳離れています。小学校に入る前後くらいの頃、兄が「週刊少年ジャンプ」を買うようになって、それを訳も分からず読んでいたんですが、それで文字をおぼえた気がします。『Dr.スランプ アラレちゃん』などが連載していた頃ですね。漢字にルビがふってあるので、ひらがなさえマスターしていれば読めたんです。いまだに漢字の「書き」に苦手意識があるのは、最初にそうしてひらがなで読んでいたからかもしれません。

――ご実家は北海道の道東の牧場ですよね。幼稚園や学校は近所にあったのですか。

河﨑:幼稚園は親が車で送り迎えしてくれたんですが、小学校中学校は町で運営しているスクールバスで通っていました。朝に1便、帰りに2便。帰りの時間が決まっているので、たとえば放課後に図書室にこもるといったことはできませんでした。図書室でいっぱい本を借りて、帰りのバスの中で待ちきれずに読んで具合が悪くなって、吐きそうになるのを耐えていましたね。子どもなので学習しないから、何度もそういうことを繰り返していました。

――そういう環境だと、近所の子どもたちで集まって遊んだりはしなかったのですか。

河﨑:放課後バスを待っている間は遊べますけれど、家に帰ってしまうと周りに年の近い子供がいないし、兄や姉はまだまだ帰ってこないので、一人で本を読んで過ごすことが多かったです。

――児童書はどのような本を読みましたか。

河﨑:松谷みよ子さんと佐藤さとるさん。佐藤さんは『だれも知らない小さな国』に憧れがありましたね。せいたかさんという男の人がひとりで自分の子どもの頃の夢をもとに、周りに理解されなくても山の中を自分で切り拓いて小屋を作って水を引いて自活していくというのに、すごくワクワクしましたね。

――あ、そっちなんですね。コロボックルの存在にワクワクしたのではなくて。

河﨑:いえ、ワクワクしましたよ(笑)。でも、作中でも北海道のアイヌのコロボックルについての言及があるんですけれど、実際に北海道で生活していて「いない」と分かっているので。「この蕗の葉をめくったらコロボックルがいるかもしれない」とはあんまり思わなかったですね。記憶に残っているのは、せいたかさん奮闘記でした。山を切り拓くのにその土地の持ち主にきちんと交渉をして、ちょっと頑固なおじいさんから土地を購入して、とか。

――松谷みよ子さんは『ちいさいモモちゃん』シリーズとかですか?

河﨑:そうです。読んでいるうちに、お父さんとお母さんが仲悪くなって、どうもお父さんにいい人ができたらしい、というのが子どもながらにもふわっと感じられて。それで森のおばあさんに相談しにいったら、たとえ話をされるじゃないですか。「お前と旦那がこの木とこの木で、絡み合いすぎていて良くないんだ」「それを引き離してきちんと植え直したほうがいいんだよ」みたいな話をされて諭される。それが子ども心に衝撃を受けました。その後に、「さよなら、パパ」というタイトルで、お父さんがトラックを見送る小さな挿絵がついた話があって。

――ああ、そうでしたね! すごい記憶力。

河﨑:子どもの頃の絵本って、恋愛的な要素が出てくると「王子様とお姫様は幸せに暮らしました」的な結末ばかりじゃないですか。浮気とか、離婚とか、別れなんてなかなか書かれていないから、衝撃だったんです。嫌ということではなく、「あ、こういうこともあるんだな」という感じで。

――そう、あのシリーズは意外とシビアな話が入っているんですよね。猫のプーとか、タッタちゃんとタァタちゃんとか、可愛い話も入っていましたが。

河﨑:可愛かったですよね。プーに奥さんみたいな、ジャムちゃんという猫が出てきて。白いパンにジャムをのせたような色がついていて、舐めたら甘いんじゃないかっていう。

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プロフィール

河﨑秋子(かわさき・あきこ)
1979年北海道別海町生まれ。2012年「東陬遺事」で北海道新聞文学賞を受賞。『颶風の王』で2014年に三浦綾子文学賞、2016年にJRA賞馬事文化賞を受賞。2019年『肉弾』で大藪春彦賞を受賞。他の著書に『土に贖う』がある。