第217回:乗代雄介さん

作家の読書道 第217回:乗代雄介さん

2015年に「十七八より」で群像新人文学賞を受賞して作家デビュー、2018年に『本物の読書家』で野間文芸新人賞を受賞、今年は「最高の任務」で芥川賞にノミネートされ注目度が高まる乗代雄介さん。たくさんの実在の書物の題名や引用、エピソードが読み込まれる作風から、相当な読書家であるとうかがえる乗代さん、はたしてその読書遍歴は?

その2「中学でパソコン、高校で読書にハマる」 (2/6)

  • 爆笑問題の日本原論2 (幻冬舎文庫)
  • 『爆笑問題の日本原論2 (幻冬舎文庫)』
    爆笑問題
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  • 終着駅(ターミナル)殺人事件 (光文社文庫)
  • 『終着駅(ターミナル)殺人事件 (光文社文庫)』
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  • 『殺しのバンカーショット 「十津川警部」シリーズ (角川文庫)』
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――中学生時代はいかがでしたか。

乗代:中学は今言った人たちの本や漫画を読み進めることが多くて、そんなに新しいものは読んでいないかもしれないです。入った私立中学は、中1から生徒1人にノートパソコン1台を持たせる学校で、早くからネットの世界に入れたんですよ。当時、「侍魂」とか日記サイトが流行っていたので自分も書いていました。

――日記を、ですか?

乗代:日記と言いつつ、ウケ狙いの文章みたいなものを書く文化でしたね。フォントいじったり。僕はそういう系ではなくて、芸能人の本の真似とかをしてました。『爆笑問題の日本原論』とか。ブログという形式が出だしたのがもう少し後で、中学の頃はインプットより、自分で書くことに夢中になっていました。

――へえー。その頃書いたものって残っていますか。

乗代:中学生の頃の最初期はYahoo!ジオシティーズに書いていたので消えてしまいましたが、その後に始めたブログは残っています。そこで読書リストもつけ始めたんです。もう公開してませんが、これがその記録で......。(と、プリントアウトの束を取り出す)

――たくさんありますね。最初が2004年10月。これ、ブログのタイトルが「ミック・エイヴォリーのアンダーパンツだったところ」なんですか。

乗代:ややこしいんですが、最初にブログをはじめた時にキンクスというバンドの曲名から「ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ」とつけて、その後移転したので「ミックエイヴォリーのアンダーパンツだったところ」になってるんです。今でも移転先のはてなブログでは「だったところ」がついていないものが残ってます。(http://norishiro7.hatenablog.com/)その後は読書メーターをはじめました。

――その読書メーターの記録もプリントアウトしてきてくださっていますが、膨大な量ですね...!!

乗代:めぼしいタイトルには線を引いてきました。高校時代に遡ってつけたので、その頃から読んできたものについては大体分かります。なんでこんな急に読むようになったのか思い出してたんですが、高1くらいから大学受験を意識させられる学校で、現代文の問題集で安部公房の「詩人の生涯」と島尾敏雄の「鬼剥げ」を読んだんですよね。それが両方とも不思議な話で、自分がブログで書いているようなものに近い気がして。こういう面白い小説もあるんだなと思ったのがきっかけかもしれません。松本人志もかなり好きだったんですが、そのコントにちょっと近いものがあるというか。

――安部公房と島尾敏雄が。

乗代:島尾敏雄の「夢の中での日常」(『その夏の今は・夢の中での日常』所収)も、変な話で面白かった。その頃、西村京太郎も結構読んでますね。

――鉄道ミステリーですか。

乗代:そう、『終着駅殺人事件』をよく読みました。『名探偵コナン』の初期の頃、コミックの袖のところに「名作ミステリー紹介」みたいなのがあったんですよ。そこで紹介されていて、読んだら確かに面白くて。

――乗代さんの作品に、電車に乗ってどこかに行く場面がよく出てくるのは、もしやその影響......。

乗代:そう指摘されると思いました(笑)。5年に一回くらいは読み返しています。他にもいろいろ。『殺しのバンカーショット』みたいなタイトルがあったのも憶えています。

――あ、それはゴルフ場が舞台ですね。

乗代:そうそう。鉄道じゃないんだって思って手に取りました。古本屋に行くと大量に揃ってますから、手に入りやすいんですよね。

――学生時代は、古本屋で買うことが多かったんですか。どうやって選んでいたのですか。

乗代:そうですね、古本屋を回って、選ぶというより直感でとにかく買って、つまらなければしょうがない、というか。

――今見ている乗代さんの読書記録すべてに言及するのは絶対に無理ですが、ざっと目を通させてください。最初に載っているのが『織田作之助作品集1』。で、線を引いてくださっているのがめぼしい本ということで、まず、町田康さんの『告白』がありますね。

乗代:確か最初に『夫婦茶碗』を読んで面白くて、町田さんの書評とかも全部見るようになって。織田作もその影響かな。あとは『元禄御畳奉行の日記』という新書がすごく面白かったので、ずっと読み返しています。役所仕事しかしてない当時の武士の「鸚鵡籠中記」って名前の日記なんですけど、死体斬る訓練で吐いたとか、刀なくしたとかの話が書いてあって。

――そしてバルザック『従妹ベット』上下巻。

乗代:バルザックの『人間喜劇』のうちの一作ですけれど、他の作もいくつか読んでこれが一番面白かったですね。

  • 夫婦茶碗
  • 『夫婦茶碗』
    町田康
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  • 元禄御畳奉行の日記―尾張藩士の見た浮世 (中公新書 (740))
  • 『元禄御畳奉行の日記―尾張藩士の見た浮世 (中公新書 (740))』
    神坂 次郎
    中央公論新社
    726円(税込)
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  • 従妹ベット(上)
  • 『従妹ベット(上)』
    バルザック,佐藤朔
    グーテンベルク21
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