第217回:乗代雄介さん

作家の読書道 第217回:乗代雄介さん

2015年に「十七八より」で群像新人文学賞を受賞して作家デビュー、2018年に『本物の読書家』で野間文芸新人賞を受賞、今年は「最高の任務」で芥川賞にノミネートされ注目度が高まる乗代雄介さん。たくさんの実在の書物の題名や引用、エピソードが読み込まれる作風から、相当な読書家であるとうかがえる乗代さん、はたしてその読書遍歴は?

その3「書き写し作業を始める」 (3/6)

  • 失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)
  • 『失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)』
    フランツ カフカ,Kafka,Franz,紀, 池内
    白水社
    1,430円(税込)
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  • 変身―カフカ・コレクション (白水uブックス)
  • 『変身―カフカ・コレクション (白水uブックス)』
    フランツ カフカ,Kafka,Franz,紀, 池内
    白水社
    825円(税込)
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  • アンナ・カレーニナ〈1〉 (光文社古典新訳文庫)
  • 『アンナ・カレーニナ〈1〉 (光文社古典新訳文庫)』
    レフ・ニコラエヴィチ トルストイ,哲男, 望月
    光文社
    1,210円(税込)
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  • ガープの世界〈上〉 (新潮文庫)
  • 『ガープの世界〈上〉 (新潮文庫)』
    ジョン アーヴィング,筒井 正明
    新潮社
    781円(税込)
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  • 大工よ、屋根の梁を高く上げよ/シーモア-序章 (新潮文庫)
  • 『大工よ、屋根の梁を高く上げよ/シーモア-序章 (新潮文庫)』
    J.D. サリンジャー,Salinger,J.D.,孝, 野崎,謙治, 井上
    新潮社
    649円(税込)
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  • ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)
  • 『ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)』
    J.D.サリンジャー,野崎 孝
    白水社
    968円(税込)
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  • パルプ (ちくま文庫)
  • 『パルプ (ちくま文庫)』
    ブコウスキー,チャールズ,Bukowski,Charles,元幸, 柴田
    筑摩書房
    924円(税込)
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  • カフカ寓話集 (岩波文庫)
  • 『カフカ寓話集 (岩波文庫)』
    池内 紀
    岩波書店
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――カフカの『失踪者』は池内紀さんの訳で読まれたんですね。わりと、メジャーな作家でもマイナーな作品に印をつけている印象が...。

乗代:カフカの『変身』とか手に入りやすいものはたぶん、この記録をつけ始める前に読んでいます。でも、『失踪者』が一番好きですね。池内さんの訳は「カフカらしくない」という声もあるけれど、この作の主人公にはすごく合っていると思います。何度も読み返しているので、これからこのリストに何回も出てきます。

――あ、再読したものも、その都度つけているんですね。

乗代:そうです。で、これぐらいの時期に書き写しが始まります。

――ああ。乗代さんは、読んだ本の気に入った部分をノートに記しているんですよね。しかもびっしりと。高校生の時からだったんですか。

乗代:高校の終わりくらいからです。最初は名言集みたいなものを作りたいと思って。で、その一部分だけなんですけれど...(と、分厚いノートを何冊も取り出す)

――え! コクヨの80枚ノート......あ、100枚ノートもありますね。こんな分厚いんだ...。

乗代:持ち歩くには向かないと思います。

――(開いたノートを見て)うわー。字が小さい。細かい。びっしり。名言といっても1~2行じゃなくて、かなりの長文も書き写していますね。『アンナ・カレーニナ』だけでも相当ページに渡って書かれている。

乗代:大学に入ると時間があるので、量が増えていきました。最初のうちは何の本の引用がどこから書かれているか分かりにくかったのを、ちゃんと1行開けたり、タイトルをちゃんと上の部分に書くようにしたりして。ルールがぐちゃぐちゃですね(笑)。「真似したいな」と思うものは書き写しています。

――リストに戻りますが、このジョン・アーヴィングの『ウォーターメソッドマン』は。

乗代:『ガープの世界』とか他も読んでいるんですが、今でもこれが一番好きです。高校の一時期、帰りのホームルームさぼって誰も乗れない時間のスクールバスで帰ってたんですが、そこで読んで感情移入した思い出があります。でも、絶版なんですよ。

――サリンジャーは『ナイン・ストーリーズ』。乗代さんの小説の中にもサリンジャーは出てきますよね。

乗代:サリンジャーは模範です。書き手としての態度に一番共感するというか、憧れを持っています。最初は文体が好きで読んでいた気がするんですけれど、作家としてどうあるべきか、自分のためにどうすべきか、というのを突き詰めていったところに惹かれていきました。

――『フラニーとゾーイー』とか『大工よ、屋根の梁を高く上げよ―シーモア序章』には線を引いてますが、『ライ麦畑でつかまえて』には線を引いてないですね。

乗代:あ、ライ麦はそんなには...。

――グラース家のサーガのほうが好きだったという。

乗代:サリンジャーが、ライ麦を書いて、それに対する世間の反応を経て、入れ込んでいったという流れを思うと、自分を納得させるための周到な配慮が際立ってきて、すごく考えさせられます。『ナイン・ストーリーズ』だと「対エスキモー戦争の前夜」が好きです。

――ブコウスキーは『パルプ』。

乗代:ブログで創作する時にかなり真似しました。ハードボイルド調ギャグみたいなところもあるので。荒唐無稽を小説の形に保つ術というか。柴田元幸さんの訳で。

――『ハックルベリイ・フィンの冒険』。

乗代:いろんな人の訳で読みましたね。「世界文学の玉手箱」だったかのシリーズで、小島信夫さんが訳していたのが一番よかった。最後のトム・ソーヤーが出てくる評判よくない部分をほぼ全部カットしてるんですが、文章とか台詞もすごくいいので、これも文体を真似しましたね。

――ここ、数冊分のところに「入院」という書き込みがあるのは。

乗代:大学生の時に体育でサッカーをしていたら、足を骨折して手術してプレートを入れたんです。その時にこれらの本を読んだなあ、と。

――入院中に『カフカ寓話集』や町田康さんの『浄土』、H.F.セイントの『透明人間の告白』を読んでいる。『罪と罰』を入院中に一気に読むというのはいいですね。

乗代:楽しかったですね。懐かしいです。

――舞城王太郎作品を定期的に読んでいますね。

乗代:創作とかで参考になりそうな人は片っ端から読んでました。

――そして金井美恵子さんのお名前も何度も出てきますね。あ、庄司薫さんの『ぼくの大好きな青髭』。

乗代:四連作の最後の「青」が一番好きですね。自殺を試みた知り合いに関する週刊誌記者の取材に答えようというところから始まる1日の話ですけど、新宿という街にしたって何にしたって密度濃く書かれているのが好きで。自分がそういう書き方をしたいからでしょうね。

――シャーウッド・アンダーソンの『ワインズバーグ・オハイオ』はちょっと前に復刊されましたよね。乗代さんはすでに読んでいたんですね。架空の村の、いろんな人の話。

乗代:これも新聞記者が出てきますね。訳は小島信夫さんだし。この中の「物思う人」(新訳版では「考え込む人」)という短篇が好きなんです。セスという人が村の中に気になる子がいて、その新聞記者もその子を狙っている。セスは「あの子は自分が好きなんじゃないか」みたいなことを思っているんだけれど、新聞記者に告白を代行するように頼まれる。腹を立てながらも、馴染めないこの町を出たいとか自分の物思いに追われるようにしてそれをやってしまって、女の子もセスに対してその気だったのに、町を出る志に感動しちゃったりして、すれ違う。その後でセスが孤独に駆られて「どうせこの村ではあの新聞記者みたいな奴が上手く生きていくんだ」みたいなことを思って終わる。思考に現実が引っ張られるところがすごい。

――線が引かれているわけではないですが、最近話題になったピエール・ブルデューの『ディスタンクシオン』もずいぶん前に読まれているんですね。

乗代:たぶん大学の図書館で借りたと思います。もしかしたら授業で紹介されたのかもしれないですね。社会学部だったので、結構がっつりしたものも読んでいました。

――『マーク・トウェインの短編全集 上』。勝浦吉雄訳。

乗代:ユーモア小説集みたいなもので、結構いろんな訳が出ているんですけれど、この人の訳が、面白さとしては一番。「ストームフィールド船長の天国訪問記 抄」が好きでした。ちょっと前に全訳が出たのでそれも読みましたが、やっぱりこっちのほうが面白かった。

――ロラン・バルトもお読みになり、そしてディケンズの『荒涼館』全4巻を読み。

乗代:このへんは結構、高橋源一郎さんの書評本や文芸時評本なんかを読んでいたので、芋づる式に読んだ本もありますね。

――そんななかに西村京太郎『終着駅殺人事件』が並び、そしてカフカの『失踪者』をまた読んでいる。そしてカポーティも何度か出てきますが、線が引かれているのは短篇集の『夜の樹』。

乗代:「感謝祭のお客」とか、いとこのミス・スックという老女が出てくる、少年時代をモデルにした話が好きで。感謝祭に招待されて来たいじめっ子に復讐しようと悪事を告発するんだけれど......という話で。七面鳥の軟骨もらうシーンを書き写しました。

――ところで、タイトル言っただけで内容がすらすら出てきますよね。よく憶えていますね。やっぱり書き写しているからでしょうか。

乗代:そうかもしれないですね。でも、ブローティガンとか、フィリップ・ロスとかは、すごく読んで書き写したのにあんまり憶えていないです。

――あ、『トリストラム・シャンディ』も読んでいますね。18世紀に書かれた奇妙奇天烈な本で、最初、主人公がなかなか生まれないという。

乗代:いろんな人の本を読んでいると、「これはチェックしておいたほうがいいぞ」という感じだったので読んだんだと思います。

――二葉亭四迷『平凡』。

乗代:すごく好きです。これも小説に出しました。小説に出している本は、基本思い入れのあるものです。

――シャーロット・ブロンテの『ヴィレット』も最近新たに刊行されていましたね。「喧嘩の会話」というメモ書きがある。

乗代:これはみすず書房の全集で読んで面白かったです。白水uブックスから新たに出ていて、いい時代だなと思いました。「喧嘩の会話」とメモしたのは、口喧嘩みたいなところを、創作の時に参考にしたからです。

――そしてサリンジャーの『ハプワース16、1924』があり。スタインベックでは『チャーリーとの旅』。

乗代:『ハプワース』は色々と考えさせられました。スタインベックはこの頃に『エデンの東』もハヤカワepi文庫で出たし、色々読みましたが、『チャーリーとの旅』が一番好きです。キャンピングカーで犬と旅する。

――ジャン=リュック・ゴダール『ゴダール映画史1』。

乗代:1と2がありますね。安部公房と針生一郎の対談で、俳優に撮影所まで毎日歩いて来るよう頼んだって逸話を知って興味が出て、映画を見たりして。その後、保坂和志さんの小説論にも言及されていたので読みました。

  • 透明人間の告白 上 (河出文庫)
  • 『透明人間の告白 上 (河出文庫)』
    H・F・セイント,高見 浩
    河出書房新社
    1,045円(税込)
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  • 罪と罰〈上〉 (新潮文庫)
  • 『罪と罰〈上〉 (新潮文庫)』
    ドストエフスキー,精一郎, 工藤
    新潮社
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  • ぼくの大好きな青髭 (中公文庫)
  • 『ぼくの大好きな青髭 (中公文庫)』
    庄司薫
    中央公論新社
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  • ワインズバーグ、オハイオ (新潮文庫)
  • 『ワインズバーグ、オハイオ (新潮文庫)』
    シャーウッド・アンダーソン,上岡 伸雄
    新潮社
    649円(税込)
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  • ディスタンクシオン <1> -社会的判断力批判 ブルデューライブラリー
  • 『ディスタンクシオン <1> -社会的判断力批判 ブルデューライブラリー』
    ピエール・ブルデュー,石井 洋二郎
    藤原書店
    6,490円(税込)
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  • 夜の樹 (新潮文庫)
  • 『夜の樹 (新潮文庫)』
    トルーマン カポーティ,Capote,Truman,三郎, 川本
    新潮社
    649円(税込)
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  • トリストラム・シャンディ 上 (岩波文庫)
  • 『トリストラム・シャンディ 上 (岩波文庫)』
    ロレンス・スターン,朱牟田 夏雄
    岩波書店
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  • 平凡
  • 『平凡』
    二葉亭 四迷
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  • ヴィレット(上) (白水Uブックス)
  • 『ヴィレット(上) (白水Uブックス)』
    シャーロット・ブロンテ,青山 誠子
    白水社
    2,200円(税込)
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  • このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年 (新潮モダン・クラシックス)
  • 『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年 (新潮モダン・クラシックス)』
    J・D・サリンジャー,金原 瑞人
    新潮社
    1,650円(税込)
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  • エデンの東 新訳版 (1)  (ハヤカワepi文庫)
  • 『エデンの東 新訳版 (1) (ハヤカワepi文庫)』
    ジョン・スタインベック,土屋 政雄
    早川書房
    858円(税込)
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  • ゴダール/映画史〈1〉
  • 『ゴダール/映画史〈1〉』
    ジャン=リュック・ゴダール,奥村 昭夫
    筑摩書房
    3,456円(税込)
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