第222回:武田綾乃さん

作家の読書道 第222回:武田綾乃さん

 学生時代に作家デビュー、第2作「響け!ユーフォニアム」がいきなりアニメ化され人気シリーズとなった武田綾乃さん。さまざまな青春を時にキラキラと、時にヒリヒリと描く武田さんはどんな本を読み、どんな思いを抱いてきたのか。お話は読書についてだけでなく、好きなお笑い芸人や映像作品にまで広がって…。意外性に満ちたインタビューをお楽しみください!

その2「視界に入るものを文字化する習慣」 (2/6)

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  • 『ブレイブ・ストーリー (上) (角川文庫)』
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  • 冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)
  • 『冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)』
    辻村 深月
    講談社
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――じゃあ、作文や読書感想文なんかは...。

武田:塾に行ってから急に伸びて、中高の時には読書感想文で賞を獲ったりしていました。それまでは感想を書くのが苦手だったんです。もう、受けたものがすべてじゃん、と思っていたので書くことが難しかった。絵のほうがよく評価してもらっていました。小学生くらいから絵も結構好きで、最初の頃は漫画家になりたかったんですよね。

――そうだったんですか。

武田:すぐ挫折したんですけれど(笑)。小学校が漫画の持ち込みが禁止だったので、すごく絵の上手い友達が描いた漫画が教室内で流行っていて。自分でそういうふうに創作できるってすごいなと思ったのを憶えています。それで、自分は漫画の原作者になりたいと思いました。とにかく話を作るのが好きだったという感じですね。
 漫画家になりたい人って、授業中でも絵を描いていたりするじゃないですか。作家志望でも何かできないかなと思って、私は小学生くらいからずっと、クラスメイトの様子とか、学校を通う時に視界に入ってきたものを頭の中で全部文字化することをしていました。電車に乗っている時もずっとまわりの様子を見て文字化していくことをやっていました。今でも見たものをすぐに文字にするのは得意なんです。

――比喩的表現を使ったりしながら?

武田:そうですね。本にするならどう書くかな、って考えながら。自分では「模写」だと思っていて、台詞などは一切使わず、淡々と描写していくようなことをしていました。他の作家さんと話してもそういうエピソードを聞いたことがないから、もしかして特殊なのかなと思うんですけれど...。やりすぎると脳がパンクするので良くないなって思うんです。映画とかも観ながらずっと頭の中で描写してしまうので「あー、邪魔だ」ってなる時があるんです。

――中学生になってからの読書生活はいかがですか。

武田:「ハリー・ポッター」がまだ好きでしたね。他には「十二国記」シリーズや「涼宮ハルヒ」シリーズとかを読みました。森絵都さんや伊坂幸太郎さんを読み始めたのも中学生の時だったかな。児童書から離れて一般書に足を踏み入れるようになって、ラノベと一般文芸をよく読むようになりました。星新一さんのショートショートを読みだしたのも中学生の時で、中高通してすごく読みました。

――相変わらず「本屋チャンス」があったんですか。

武田:はい。「本屋チャンス」でどんどん買って、当時のラノベをたくさん読んだ記憶があります。でも、中学生の時に読んだのか高校生の時に読んだのか、結構記憶が曖昧です。あ、森さんの本は学級文庫にいっぱいあったので読みました。『永遠の出口』とか『カラフル』とか『DIVE!!』とか。
 そういえば高校生の時、あさのあつこさんの『NO.6』を間違えて2巻から読んでしまったこともありました。『NO.6 2』とあったからそういう表現なのかなと思って(笑)。読み始めて「なんか変だな」と思いながらもそのまま読んでしまって、後から「あ、続篇だ」って気づきました(笑)。

――読む本はどのように選んでいたのですか。

武田:高校生の頃は「本ならなんでもいい」というメンタルで、本屋さんで目を閉じて本を選んだりしていました。自分の趣味じゃないものも読みたかったんです。なんか、全部楽しもうと思って。楽しめないとしても、どこがいいかちゃんと考えよう、みたいな。
 好きな本って自分が好きだからいいところが分かるだけで、自分が面白くないと思ったものでも評価されていたり人気があるってところが絶対にあるから、それはどこかちゃんと分析できるようになりたいな、みたいな気持ちがありました。なので、人に勧められるものを優先して読んだりもしていました。それで、伝記とかノンフィクション系とか、谷崎潤一郎とか太宰治とか森鴎外といった文豪の本も読むようになりました。
 通っていた高校が図書室が充実していたんですよ。私、高校を選んだのは図書室が決め手だったんです。

――いろんな本を読むなかで、意外な発見があったりもしましたか。

武田:図書室の司書の先生が私のために新しい本をいっぱい入荷してくれて、いろいろ読んだんですけれど、それで、自分には本格ミステリーは向いていないんだって思ったのは憶えています。私の頭では追いつけない、と思いました。登場人物の感情が描かれている部分は好きなんですけれど、トリックにそこまで興味が持てなかったというか。それで、シャーロック・ホームズなどもそれほど読んでいなくて。あまりミステリーを通らずに来てしまいました。でも、宮部みゆきさんや東野圭吾さんはたくさん読んでいたので、感情が絡むミステリーが好きなんだと思います。宮部さんは『火車』みたいなミステリーだけじゃなくて『ブレイブ・ストーリー』のようなファンタジーや『ICO』のようなゲームのノベライズも書かれていますし、どれも好きです。弟は人生で一番好きな本は『ブレイブ・ストーリー』だと言っているんですが、それは私が買い与えました(笑)。
 それにそれこそ、辻村深月さんはずっと好きですし。

――武田さん、辻村さんと「小説現代」で対談されていましたよね。すごく好きなんだなと伝わってきました(笑)。

武田:辻村さんは、高校の図書室にデビュー作の『冷たい校舎の時は止まる』が置いてあったんです。それがもうめちゃくちゃ好きでした。学校で辻村深月さんブームがすごくて、みんな読んでいました。
 話すうちに思い出してきましたが、高校生の頃に京極夏彦さんもすごく好きで読んでいました。『塗仏の宴』とか『魍魎の匣』とか、スクールバッグの中に入れると鈍器のようで(笑)。文庫ですらこの重さなんだと思いながら持ち歩いていました。
 それと、綿矢りささんも好きでした。綿矢さんがデビューされたのって私が小学校高学年の頃だったんです。小学生だからまわりは読んでいなかったんですけれど、私は読んで「わーっ」となって。私には刺さったんですよね。綿矢さんがいなかったら、その後も純文学は読んでいなかったと思います。小学生で「高瀬舟」を読んでも全然分からなかったし「羅生門」を読んでも「何が書いてあるんだろう」と思ったけれど、綿矢さんは読んで共感できたので、「現代ではこんな形で世の中に適応して純文学というものが受け継がれているんだな」「そんな堅苦しいものじゃないんだな」というようなことを思いました。

――17歳でデビューした人がいると知って、「10代でも書いて応募していいんだな」というようなことは思いませんでしたか。

武田:ああ、小学生にとって高校生は大人なので、単純に「うわー、すごいー」って思っただけでしたが、でもやっぱり「本って書いていいんだ」と思いました。読むものじゃなくて書けるものなんだな、って。

――実際、創作活動はどうでしたか。

武田:高校で文芸部に入って書くようになりました。定期的に出している部誌に小説を掲載して、それを雑誌にして文化祭の時などに配布していたりしました。今と同じような、現実を舞台にした話で、自分で言うのも何ですが、クオリティーは高かったと思うんです。でも、好きな作家さんの影響が若干出過ぎていたかと(笑)。
 人に読ませるという経験という意味では、すごく仲のいい友達に「連載」と言って、毎日勝手に通学前にメールで小説を送り付けていたことが大きかったかもしれません。

――お友達は、感想はくれたんですか。

武田:はい。その子は今でも感想をくれます。その子は小説は書かないけれど、読むのが好きだったので一緒に文芸部に入ったんです。当時は廃部寸前でほとんど活動がなかったんですけれど、今はすごく活気があるみたいです。
 部誌は、たぶん先生が近隣の中学校にも配っていたんです。そうしたら、私が書いたものが好きで高校を選んだ、みたいな子もいて。「部誌で作品読みました」とか言われたりして。高校生だったので、やっぱりびっくりしました。「そんなことある?」って。「部誌に書いていた小説、あれはもう売ってる本じゃん」とかも言われたりもして。

――売ってる本のレベルだってことですよね。その頃、新人賞に応募しようとは思わなかったのですか。

武田:全然。発想がなかったです。自分の本が商品価値があるレベルとは思っていなかったんです。「まだ早いな」という気持ちが強かった。友達に読ませるためだけに書いていたので、ネットで発表するということも1回もしたことがないです。
 だから幻の長篇があって。友達に読ませるためにラノベを連載して完結するまで書いたものが原稿用紙で700枚くらいあったんですよ。でも「未熟だな。これが残っているのは嫌だな」と思って、新しいパソコンに買い替える時にその原稿のデータは引き継がずに捨てたんです。その子が読んだからもういいや、みたいな感じでしたが、今思うともったいなかったな、と。アレンジして出せばよかったなって思うんですけれど。
 そういうふうに本ばかり書いていたので、高校では一気に成績が下がりました。もう、露骨に下がりました(笑)。

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