作家の読書道 第223回:中山七里さん

今年作家デビュー10周年を迎えた中山七里さん。話題作を次々と世に送り出すエンターテインナーの読書遍歴とは? 大変な読書量のその一部をご紹介するとともに、10代の頃に創作を始めたもののその後20年間書かなかった理由やデビューの経緯などのお話も。とにかく、その記憶力の良さと生活&執筆スタイルにも驚かされます。

その1「図書室の本を読みつくす」 (1/5)

  • ドリトル先生航海記 (岩波少年文庫 (022))
  • 『ドリトル先生航海記 (岩波少年文庫 (022))』
    ヒュー・ロフティング,井伏 鱒二
    岩波書店
    880円(税込)
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  • 杉の柩 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
  • 『杉の柩 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』
    アガサ・クリスティー,恩地 三保子
    早川書房
    946円(税込)
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  • エジプト十字架の謎【新訳版】 (創元推理文庫)
  • 『エジプト十字架の謎【新訳版】 (創元推理文庫)』
    エラリー・クイーン,中村 有希
    東京創元社
    1,100円(税込)
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  • Yの悲劇 (角川文庫 ク 19-2)
  • 『Yの悲劇 (角川文庫 ク 19-2)』
    エラリー・クイーン,越前 敏弥
    角川書店(角川グループパブリッシング)
    792円(税込)
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  • Xの悲劇 (角川文庫)
  • 『Xの悲劇 (角川文庫)』
    エラリー・クイーン,越前 敏弥
    角川グループパブリッシング
    792円(税込)
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――この連載ではいつも、いちばん古い読書の記憶からおうかがいしております。

中山:父親が話してくれた昔話が、お話に触れたという意味で一番古い記憶ですね。父が自分の解釈を付け加えて話すので、大きくなってから友達と話していると「なにか食い違うな」となりました。父が話してくれたのは、「桃太郎」でも「桃を二つに割ったら二つに割れた桃太郎が出てきました」みたいな話でしたから(笑)。

――お父さん、面白い方なんですね。

中山:ともかくよく喋りましたね。商売人だったせいでそういう癖がついたんでしょうね。母も喋るので、夫婦で話していると僕なんか話に入る隙間がなかったですよ。

――え、中山さんが?(笑) ご兄弟はいらしたんですか。

中山:兄が一人姉が一人いますけれど両方とも年が離れていたので、家をもう出ていました。ですから末っ子なんですけれども、ほとんど一人っ子状態で。親は両方とも仕事が忙しく、「本を与えればこいつはずっと静かにしている」と知ったらしくてですね、子どもの頃から本だけは与えられていました。旅行しても本ばかり読んでいるので、どこかに行った記憶があまりないんです。「伊豆」とか言われたら「あの時あの本読んだな」という記憶しかないですよ。

――岐阜のご出身ですよね。ご実家は呉服屋さんで。

中山:名前の通り「中山七里」という地名がありまして、そこで生まれ育ちました。ご承知でしょうけれど、岐阜県というのは作家量産県でございまして。で、なんでこんなに作家が多いのかって考えた時に、朝井リョウさんがひとつの回答を出されていました。「ほかに娯楽がない」。だからみんな本を読んで育ったんでしょうね。

――では、小学校に入ってからも、たくさん本を読んで。

中山:まあ例のごとく、小学校に入れば「少年探偵団」や「名探偵ホームズ」、「怪盗ルパン」のシリーズを読みました。それと同時に、『ドリトル先生航海記』。それでもう、今の自分の基本が作られました。

――ドリトル先生は、シリーズ全体ではなく「航海記」なんですね。

中山:あれはもう、エンターテインメントのほとんどが入ってますからね。
 小学校に入ってからは図書室に行けば本があるのでもう天国でした。ただ、田舎の小学校だったので、そのうち読む本がなくなってくるんです。小説だから、分類番号900番から読んでいくじゃないですか。2、3日で10冊読んでいくうちに900番台の読む本がなくなって、800番台とか700番台とか、どんどん番号が若くなっていって、最終的には昆虫図鑑や国語辞典を読んでいました。僕が難解な漢字や変なことを知っているのは、その時の記憶が残っているからです。逆にいうと、古い記憶が残っている代わりにアップデートができていないので、知識がどんどん古くなっています。

――外で遊ぶよりも家で本を読むほうが好きな子どもでしたか。

中山:外に本を持って行って読んでたんですよ。野原とか山とかに。たとえば夏だと飛騨川に行って親が鮎を釣って、僕は七輪を抱えて、釣れるまで本を読んでいる。釣れると鮎をその場で焼いて食べていました。

――素敵。さきほどの基本になった作品のほかに、どんな本が面白かったですか。

中山:その頃ですと、筑摩書房さんですかね。世界各国のミステリーの名著を子ども向けに翻案して出していたので、それを愛読していました。
 その頃はミステリーの子ども向けの翻訳がたくさんあったんですよね。ルパン、ホームズなど。ルパンは南洋一郎さんの翻案がありましたし、クリスティーも全部子ども向けに出ていました。エラリイ・クイーンもありましたね。でもやっぱり、中学2、3年生にもなると、もうちょっと原書に近いものを読みたくなって、手を出したのが春陽堂の江戸川乱歩だったので訳が分かりませんね(笑)。もう、伏字だらけでしたよ。
 ただ、日本のミステリーより海外のミステリーのほうが多かったので、その癖がついて、今も海外ミステリーを読む割合が多いです。

――クリスティーやクイーンで好きな作品は何ですか。

中山:クリスティーなら『杉の柩』。クイーンですと『エジプト十字架の謎』。本当にもう、どストライクで申し訳ないんですけれど。悲劇シリーズではしばらく『Yの悲劇』が好きだったんですけれど、今一番好きなのは『Xの悲劇』だったりします。「X」は基本的に論理性だけでできているミステリーなんです。ところが「Y」は、一応論理性もあるんですけれど、プラス、外連味が入ってきますよね。「X」と「Y」はその年ごとで自分の中で順位が変わります。
 日本のミステリーだと、僕は赤川次郎さんとか森村誠一さんとかの世代です。松本清張さんもいらっしゃいました。社会派ミステリーかユーモアミステリー、そのふたつくらいしかなかったように思います。
 当時は文芸誌が20冊以上あって、だいたい新聞の1、2、3面に広告がずらっと載っていたので、それを見ながら「次はこの人を読もう」などと確認していました。僕、少し変な子どもだったようで、中学校の頃から「小説現代」と「オール讀物」を定期購読していたんです。赤川次郎さんの『幽霊列車』もリアルタイムで読んでいますからね。佐々木譲さんの『鉄騎兵、跳んだ』も。映画もちゃんと見ました。

――ああ、映画になっていたんですね。

中山:日活がロマンポルノ全盛の頃に、一般映画を作りはじめたんですよ。同時上映が「元祖大四畳半大物語」でしたね。「鉄器兵、跳んだ」は権利の関係なのか、ビデオにはなったけれどもDVD化されていません。石田純一の主演デビュー作ですよ。主題歌を松田優作が歌っているんですけれど、ヒロインが熊谷美由紀、のちの松田美由紀なんですよ。
 いまだにコマ割りを全部言えます、私。

――えっ。御覧になったのはいくつの時なんですか。

中山:原作を読んだのが高校生で、映画は大学1年生だったかな。

  • 鉄騎兵、跳んだ
  • 『鉄騎兵、跳んだ』
    佐々木 譲
    文藝春秋
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プロフィール

中山七里(なかやま・しちり)
1961年、岐阜県生まれ。『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2010年にデビュー。2011年刊行の『贖罪の奏鳴曲』が話題となった。近著に『合唱 岬洋介の帰還』『カインの傲慢』『ヒポクラテスの試練』『毒島刑事最後の事件』『テロリストの家』『隣はシリアルキラー』『銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』などがある。最新刊は、『復讐の協奏曲』。