第225回:町田そのこさん

作家の読書道 第225回:町田そのこさん

2020年に刊行した『52ヘルツのクジラたち』が未来屋小説大賞、ブランチBOOK大賞を受賞するなど話題を集めている町田そのこさん。少女時代から小説家に憧れ、大人になってから新人賞の投稿をはじめた背景には、一人の作家への熱い思いが。その作家、氷室冴子さんや、読書遍歴についてお話をうかがっています。

その2「宿題でノート3冊分の物語を書く」 (2/7)

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――学校の国語の授業は好きでしたか。作文とか。

町田:作文はすごく好きでした。小学校4年生だったかと思うんですけれど、教科書にひとつの島の地図が載っていたんですよ。「なんとかの湖」「なんとかの森」「なんとかの砂浜」という名称だけ乗っていて、「この地図をもとに物語を書きなさい」という授業があったんです。どんな物語でも書いていいというので、私、ノート3冊分書いたんです。もう、すっごく楽しくて。最後は先生が「んー、先生、そろそろ終わりが読みたいな」って(笑)。

――へええ。長期的な宿題だったんですか?

町田:いえ、そんなに長い期間ではなかったですね。先生も「たとえばここにある湖。この湖で釣りをしたとか、そんな話でいいんだよ」って言っていて、みんなが書いたものも原稿用紙3枚とかその前後だったと思います。でも私は、書く手が止まらなかったんです。「なんでこんなに物語が頭の中から湧いてくるんだろう」って。それまで宿題を熱心に提出することはなかったんですけれど、それはもう、寝食忘れるくらい一所懸命書きました。

――書かれたのは、どういう話だったんですか。

町田:冒険物語でした。島に隠された宝物を探しに行くんですけれど、ただ見つけに行くだけの話では面白くないからぐるっと遠回りしたり、仲間が行方不明になったりして。終わらせたくなくて、起承転結の転転転転ばかりやっていました(笑)。でもその時に「物語を作るってこんなに楽しいんだ」って思ったんです。

――その3冊のノートは残っているんですか。

町田:実家のどこかに残っていたらいいなと思いますけれど、うち、母親が片づけ魔なのでどうなんだろう......。あの時、先生は途中でほんのり止めましたけれど、でもすごく褒めてくれたんです。最後まで読んでくれて、感想もきちんと書いてくれて。あれはよかったなと思います。

――その前から、自分でお話を作ったり、空想したりするのが好きでしたか。

町田:空想は好きでした。私、児童文学では『クレヨン王国』のシリーズが大好きだったんです。『クレヨン王国の十二か月』を読んだ時には季節ごと、月ごとのストーリーを作ったりとかしましたし、あとは『なんて素敵にジャパネスク』の続きを勝手に想像したり。ただ、文章に起こすということまではなくて、その授業が初めてでした。

――それ以降、書くようになったのでしょうか。

町田:中学1年生の時に、交換日記が流行ったんです。私は友達も少なくて、日記に書くこともなかったので、小説を書いて、お話が好きな友達3人だけに読んでもらっていました。書いてノートを渡して、3人が読んでノートが返ってきたらまた続きを書いて。連載ですよね(笑)。そういうことをやっていたら友達が「面白かった」って言ってくれるので、あの頃からはっきりと「小説を書きたい。そういう仕事に就きたい」と思っていました。

――連載していたのは、どういう話だったのですか。

町田:講談社X文庫ティーンズハートみたいな、恋愛系ですね。彼氏か自分が心臓病とか白血病で、「死なないで」というような。それがわりと好評で中1の間は書いていたんですけれど、中2くらいから交換日記の文化が廃れてきて、それで止めました。私もやっぱり、氷室さんの連載を追いかけて読むほうが楽しかった時期でしたし。でも、その頃は将来作家になって氷室さんに会う、というのが夢でした。「私はあなたの本を読んであなたに憧れて、あなたのおかげで作家になれました」って言うんだって、夢ばかりむくむく広がっていっていました。

――読書は、いかがでしたか。漫画もその後はどんなものを。

町田:小説は、氷室さんつながりで荻原規子さんの『勾玉』三部作とかも好きでしたね。氷室さんの『銀の海、金の大地』と同じ時代の話なんですよね。大王(おおきみ)がいて、勾玉が出てきて、というところがすごく好きでした。時代ものでいえば、平安時代が好きだから漫画の『あさきゆめみし』も読みました。
 漫画は、中学校に入ると「花とゆめ」で『動物のお医者さん』とか『ぼくの地球を守って』が連載していてブームになっていました。あとは「少女コミック」の『ふしぎ遊戯』。高校生になると『海の闇、月の影』の後の『天(そら)は赤い河のほとり』の連載もそろそろ始まっていたと思います。中学生の頃は漫画家にも憧れたんですけれど、私は絵が下手なので諦めていました。

――小説や漫画以外に、テレビとかゲームなどではまったものはありましたか。

町田:ゲームは「ドラゴンクエスト」にすごくはまりました。私、物語性のあるゲームじゃないと何故か損した気がするので、点数を競うゲームは得意ではないんです。最近でいうと、「あつまれ どうぶつの森」。自分で物語が描けるので好きでした。
「ドラゴンクエスト」は物語が好きで、好きすぎて、エンディングが見たくなくなっちゃうんです。毎回、ラスボスの城の手前でゲームを止めていました(笑)。物語がここで終わっちゃう、というのがすごく嫌だったんです。

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