第225回:町田そのこさん

作家の読書道 第225回:町田そのこさん

2020年に刊行した『52ヘルツのクジラたち』が未来屋小説大賞、ブランチBOOK大賞を受賞するなど話題を集めている町田そのこさん。少女時代から小説家に憧れ、大人になってから新人賞の投稿をはじめた背景には、一人の作家への熱い思いが。その作家、氷室冴子さんや、読書遍歴についてお話をうかがっています。

その3「エッセイ本が好きだった」 (3/7)

  • またたび東方見聞録 (幻冬舎文庫)
  • 『またたび東方見聞録 (幻冬舎文庫)』
    群ようこ
    幻冬舎
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  • 東洋ごろごろ膝栗毛 (幻冬舎文庫)
  • 『東洋ごろごろ膝栗毛 (幻冬舎文庫)』
    群ようこ
    幻冬舎
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  • 放浪の戦士―デルフィニア戦記〈1〉 (C・NOVELSファンタジア)
  • 『放浪の戦士―デルフィニア戦記〈1〉 (C・NOVELSファンタジア)』
    茅田 砂胡,沖 麻実也
    中央公論新社
    2,970円(税込)
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――部活は何かやっていましたか。

町田:やってなかったです。でも、高校の時、演劇部に入っていた友達が部員が3人しかいなくて、「3人用の台本って書けないの」と言ってきたんです。それで、ちょこちょこ台本を書いていました。私は人前で喋るのは苦手ですが、演じるのは友達だから気負いがなかったんですよね。友達に「この子はこういう性格だから、いちばん声の大きな役にしよう」とか言われながら役を作っていました。

――当て書きしてたんですね。

町田:そうなんですよね、その時は全然分かっていませんでしたが。友達も、「ここの言い回しが言いにくい」とか「ここ、こっちからこっちに来たらおかしくない?」とか言ってくれて、自分も実際に演技を見ていたら「あ、本当だ、おかしい」と気付く。いい勉強になりました。一回、高校の演劇の大会みたいなものに私が書いたお芝居を持って行ってくれたんですけれど、「やっぱり山場がちょっと足りなかった。他の学校の台本は観客が泣いてた」なんて言われて「まだまだだなあ」と思ったり。あれらのことで、物語づくりの勉強ができていた気がします。

――高校時代の読書も氷室さんの本が中心でしたか。

町田:そうですね。あとは、エッセイですね。このインタビューのお話をいただいてから自分の本棚を改めて見ていたんですけれど、そういえば高校の時から群ようこさんのエッセイを読んでいたなって思い出しました。そのころに群さんの『無印シリーズ』が流行っていましたが、幼かったからか大人の女性の日常にあまり共感も理解もできずというところがあったんです。それでも流行にのりたくて群さんのエッセイを読んだら面白かったという。『亜細亜ふむふむ紀行』、『またたび東方見聞録』、『東洋ごろごろ膝栗毛』という、群さんが新潮社の編集者さんと一緒にアジアをまわるというシリーズが好きでした。

――高校時代、小説は書かれていなかったのですか。

町田:小説みたいなものを書き散らしてはいたんですけれど、どこかに発表する、応募するということは考えていませんでした。漠然と「なりたい」という思いだけはあったという感じで、高校卒業して、なぜか理美容学校に進学したんですよ。いわゆる床屋さんのほうです。親が「手に職を持ったほうがいい」というので、なるほどなと思って。そうしたらまたこれが才能がなくて、学校についていくのも精一杯。ハサミの練習をしていたら小説を書く時間もなくなって、そこからフェードアウトしてしまったんです。まったく書かないし、時々余裕ができたら読む程度。でも、この時に茅田砂胡さんの『デルフィニア戦記』にはまっています。緻密に描かれたファンタジーで、私には到底書けない世界観だったのでただ憧れていたんですけれど、そういうふうに読むことだけは楽しんでいました。

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