作家の読書道 第225回:町田そのこさん
2020年に刊行した『52ヘルツのクジラたち』が未来屋小説大賞、ブランチBOOK大賞を受賞するなど話題を集めている町田そのこさん。少女時代から小説家に憧れ、大人になってから新人賞の投稿をはじめた背景には、一人の作家への熱い思いが。その作家、氷室冴子さんや、読書遍歴についてお話をうかがっています。
その5「作家デビューを果たす」 (5/7)
――そうしていろいろ読んで学んで、また新人賞に応募したわけですか。
町田:いろいろ読んで細かい気づきを得て、1回目の挑戦から2年後にまた「R-18」にチャレンジしてみよう、となりました。
――焦らずじっくり勉強したんですね。
町田:自分に自信がなかったんです。本当にコンプレックスがあって、「自分は小説家になれない」というのが大前提だったんですよ。なぜなら私は専門学校卒だし、賢くないし、って。今考えたら笑っちゃうんですけれど、もっと言えば、「私、田舎に住んでるし」とも思っていて(笑)。
そういう変なコンプレックスがあったので、二次審査までいって編集者さんのコメントさえ読めて、「プロの人が読んで感想を言ってくれるだけでもいいじゃん」っていう感じだったんです。2年間、『私の男』を書き写したり、好きな本の「なにが好きなのか」って突き詰めて考えたりして、「やり尽くした」と満足したところもありました。あの賞は3本まで送れるんですが、貧乏性なのでどれか1本ひっかかってくれたらいいなって、3本送りました。そうしたら大賞までとんとんとんって行っちゃって、びっくりしました。本当に夢みたいでした。
――2016年、「カメルーンの青い魚」で大賞を受賞されましたね。翌年、その作品を収録した『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』を刊行されている。それにしても、氷室さんが亡くなったことがきっかけだったとは。
町田:こんなに好きだったんだなって自分でも驚きました。そして、その頃は自分に満足していなかったので、恩人にお礼も伝えられないまま死なせてしまった情けない自分という風に感じたんです。作家のはしくれにでもなっていたら、もしかしたら会えたかもしれないのに。「R-18」の授賞式では、興奮のあまりずっと氷室さんの話をしてしまったんですが、そうしたら徳間書店の方たちが、「実は氷室さんの担当をしてました。絶対に喜ばれると思います」って言ってくださって、嬉しくて泣きました。
――それは泣きます。
町田:でも、こんなに好きだったんなら、もっと早くから頑張っておけばよかったって、それはいまだに悔やみます。
――受賞作は短篇だから、単行本にまとめるにはもうちょっと分量が要るじゃないですか。そこからまた同じ町を舞台にした短篇を書いていったわけですか。
町田:連作短篇にするのでも、その短篇をお尻にすえて前に入る中篇を書くのでも、好きなように1冊分書いていいですよって言われたんです。私、その時にちょうど川上弘美さんの『どこから行っても遠い町』を読んでいたんですが、それがひとつの町を舞台に住人がゆるやかに繋がっているお話で、「こういうのも連作短篇っていうんだ」って知ったところだったんです。私もそういうものが書きたいと思いました。デビュー作が魚が出てくる話だったので、水槽の中で生きる魚というのを1冊にまとめたらちょっとまとまりが出るんじゃないかと考えました。
――翌年刊行されていますが、すんなりと書くことはできたわけですか。
町田:そうですね、すんなりと。桜庭さんの最初の一文というのが効いています。基本プロットは立てず、最初に意味の分からない一文を据える。自分でも先が分からず、どういう話が展開するんだろうっていうクエスチョンから進めていく手法をとっています。最初の一文とか、10行だけ決めて、そこから書き進めていきます。