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「月魚」
評価:B
正しい本好きには心洗われるであろう逸品だ。若いのに自分の好きなことを揺るぎなくわかっている。そのくせ、身近な、心を向ける相手には囚われてもがく青春像。イチバン翻弄されているのは実は自分自身-なんて図式まで垣間見えたりもする。過剰さと欠落のバランスがとれてるというか、不安定な平衡感覚に長けた世界だ。作者自身に対しては、先入観や既成概念に躊躇することなく、描きたいモノにまっすぐチャレンジしてる感じで好感。ただ、私は「正しい本好き」では全くないので、こういう世界にハマれない。それはもう、お恥ずかしい限り。尾崎翠も知らないし。そんな<引け目>がこのような抽象的な誉め言葉の羅列になっちゃったかも。らしくないですか。 |
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【角川書店】
三浦しをん
本体 1,800円
2001/5
ISBN-4048732889
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「長い腕」
評価:C
どーでもいいことだが、私はメンドくさくて美容院や買い物や旅行が嫌いだ。血液型や星占いにも全く興味がない。このあたりが、知人に、未だ女ならずの「未女」と言われるゆえんか。いわんや、家相や風水なんて…と言いたいところだが、今にして思うと、自分が9〜15才まで住んでいた家はちょっとヤバかった…気がする。我が家は一家離散したし、その後に越してきた家族もロクなことにならなかったらしい。心情的に黒い家。それと、私はネット世界が好きで嫌いだ。「本名はキケン」と助言されても、ハンドルネームで文章を書く、ということができない。たとえ、自分が構築した架空の人格だとしても(だからこそ、か)、パソコンの中だけで暗躍(?)し完結し、時に一人歩きするってのがダメなのだ。そのわりに、勢いとバカなサービス精神でよけいなメールや書き込みをしては後悔する日々。…スミマセン。全然、感想になってないのですが、この本を読んで思ったことは以上です。 |
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【角川書店】
川崎草志
本体 1,500円
2001/5
ISBN-4048732986 |
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「一の富」
評価:A
私は時代小説愛好者としては新参者だが(前回も書いた。フレーズの使い回しだ)この鉱脈はまだまだ良質のブツが無尽蔵で嬉しい。読む本に迷ったら時代小説…当分、この路線で行けそう。今回のブツもきわめて上物だった。職人芸の安定した文章とどこか清廉な展開がささくれた自分に心地よかった。設定も登場人物も魅力的。特に、拍子郎は微妙に天然してて好み。わりとふつうの女の子の(この場合の「ふつう」はどの時代が基準か自分でもよくわからないが)おあさとのデリケートな距離感がたまらない。小でんもいい味出してる。5編の中ではやっぱり表題作の「一の富」がイチバンよかった。今後も、時代小説でしか描けない世界を見せてくれるブツに出逢いたい…と手堅くまとめてみる私。 |
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【角川春樹事務所】
松井今朝子
本体 1,800円
2001/5
ISBN-4894569256 |
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「黄金の島」
評価:B
大沢在昌とか東野圭吾とか真保裕一とか、好きな作家なのだが、どーも登場する女性が今ひとつ好みじゃない。平たく言えば、応援したくならないのだ。近親憎悪じゃないことだけは確か…だと思う。新宿鮫の晶もこの物語の奈津も苦手なタイプ。自分と同世代の男性作家の作品に、シンパシーを抱けない女性が数多く登場することに、ちょっと納得感のある己がトホホ。で、お話はというと、この作者描くところのいつもの、基本的にはまっとうでどうにも清潔な主人公と<ヤクザ>という職業の立ち位置のズレが、そのままこの主人公の苦悩になっていて、説得力がある。最近、女性雑誌に頻繁に登場する-オリエンタルパラダイス!アオザイ超人気あるから超着てみたいし〜-ベトナムの、今では「知られざる」になりかけた歴史と、その地の底辺から抜け出したい途上の若者達の逞しさと危うさもきちんと描かれていて、さすが、物足りないほどまっとうなシンポ氏だと思った。 |
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【講談社】
真保裕一
本体 2,000円
2001/5
ISBN-4062106566
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「新宿・夏の死」
評価:B
『砂のクロニクル』付近でしばしの暇乞いを告げて早、幾年月。大食い女(私だとも言う)の弁当箱みたいな厚さの本を横目で見るだけですっかりご無沙汰していたと思ったら、「あれま。今頃?」の直木賞受賞。私にとっては旧知なんだか未知なんだかよくわからん与一氏ですが、今回の中編集も新鮮なんだか手垢がついた世界なんだかよくわかりませんでした。ただ、新宿という舞台に、非業というか不毛な死はやけにしっくり。ちょうどクソ熱い時期に読めたせいで、季節感もバッチリでした。「夏の渦」と「夏の星屑」は特に暑さが効いていた気がしました。…それにしても、以前は世界を股にかける大味な男クサさ(クサい男とも言う)を描くのが得意そうだった与一氏ですが、こういうのもイケるようになったのですね。「夏の黄昏」は稲見一良を彷彿。風間一輝も亡き今、作風が男してて、且つ名前に「一」が付いてても与一氏は長生きしてね。 |
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【文藝春秋】
船戸与一
本体 1,905円
2001/5
ISBN-4163200207 |
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「赤い月」
評価:B
なんて読みやすいんだ!さすが、子供だった私にもそのいかがわしさが異様にわかりやすかった『時には娼婦のように』を作詞した人物だけある。平易な言葉で描きたい世界を的確に構築する技術は、長年の職業の為せる技か。ことに、不運で不幸で心許なくてそれでいて不気味なくらい逞しい満州という土地の描写は秀逸。それと、ヒロイン波子の、並じゃない女っぷりもあっぱれ。『黄金の島』の奈津もちったあ見習え、だ。でも、こんなキング・オブ・おんな、が自分の母親だったらかなりキツそう。子供も屈折するってもんだ。特に、氷室との関係は壮絶。それにしても、氷室って姓は文字どおりクールで鋭利な雰囲気満載だこと。この姓にしときゃあ、あえてキャラの説明不要ね。確か『カリスマ』にも登場してたけど、これが温水とか湯室とか暖田じゃあダメだろう。…温水や湯室はまだしも、暖田なんていないか。 |
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【新潮社】
なかにし礼
本体 各1,500円
2001/5
ISBN-4104451010
ISBN-4104451029 |
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「超・殺人事件」
評価:B
あ〜、そういえば「お茶目なオレ」も見せたがる人でした。最近、『秘密』とか『白夜行』の印象が強くて、つい、東野圭吾=シリアス、のイメージでしたが、きっと作者本人がイチバンそれにうざったくなったんでしょう。「巧い」とか「渋い」とばかり言われると、「くだらない」とか「おもしろい」と言われたくなる気持ちはわかるな。まあ、私にわかってもらってどうよ?ですけど。こういう小説を読むたび、バカのひとつ覚えみたいに「筒井康隆っぽい」と思う自分は確かにバカですが、今回もついそう思いました。でも、コミックバンドこそ演奏が巧いように(ホントか?)、こういう風刺話こそ力が要るんでしょう。個人的には「超理系…」と「超読書機械…」が面白かったです、底意地悪くて。もひとつ個人的には『鳥人計画』系のもまた読みたいです。 |
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【新潮社】
東野圭吾
本体 1,400円
2001/6
ISBN-410602649X |
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「ビューティフル・ボーイ」
評価:A
途中までは、これって、まんま『クレイマーVSクレイマー』じゃないの?と思いつつ、多少距離を置いて読みましたが、いつのまにかじわじわと近場で心に沁み入りました。パットがやけに可愛くて、パット祖父の死がやたら哀しくて、いいかげんさも狡さも含めて、登場人物がみな健全で等身大で好感が持てました。市井の人間がきちんと描かれていると、思いがけないセリフや小洒落た比喩ではなく、月並な言葉こそ深くて強いと感じます。「自分の幸せのためには戦わなくちゃいけない」とか「自分のためになるものがあるから人を愛するわけじゃない。愛するって、手を放すタイミングもわかること」とかは、一歩間違えればうっとうしい世界ですが、今回はうんうんとうなづけました。あ、もしかしたらこれって、現在の自分周辺に言い聞かせてるのかも。私には、いわゆるシングルマザーの友人がいますが、彼女が読んだらどう思うだろ?などと思いました。 |
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【河出書房新社】
トニー・パーソンズ
本体 1,600円
2001/5
ISBN-4309203493 |
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