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石井 千湖の<<書評>>
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Queen

「Twelve Y.O.」
評価:C
映画化したらどうだろう?コンピューターのディスプレイに突然「12」という字がづらづら並ぶ映像を思い浮かべるとなかなか楽しい。アクションも派手だし、陰謀もからむし超大作になること間違いなし。自衛隊とか米軍基地の意味を問うというテーマも今日性じゅうぶん。沖縄で米軍兵士が若い女性をレイプしたという事件があったばかりだ。いろいろと考えさせられた。無責任に娯楽小説として読んでもいいのだろうけど。米国防総省にひとりでしかもコンピューターウィルスを使ってテロを仕掛けるなんてスリル満点ではないか。米軍基地の秘密の真相も意表をつかれた。ただ興味がない者にはこまかい軍事ウンチクがうるさく感じられるかも。
Twelve Y.O. 【講談社文庫 】
福井晴敏
本体 648円
2001/6
ISBN-4062731665
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「双頭の鷲」
評価:A
二晩夜更かしして、三回泣いた。豪奢な武具を身につけた名もない騎士が倒れるところから始まるプロローグからしてうまい。見かけ倒しの騎士道の敗北のあとにあらわれた、戦の天才ベルトラン・デュ・ゲクラン。粗野で下品でいつまでも大きな子供のようなこの男、めちゃくちゃかっこいいのだ。無駄に戦いを仕掛けない。天才だから負ける戦いはわかる。それでも好きな人のためになら戦う。これぞ騎士の心意気ってやつじゃあないだろうか。ベルトランを一途に愛するティファーヌがまた凛として深みがあっていい。従兄弟のエマヌエルなど仲間たちもいい味だしてる。後半はハラハラしたり悲しい場面が多いけど読後は晴れ晴れとした気持ちになることうけあい。
双頭の鷲 【新潮文庫】
佐藤賢一
本体 各781円
2001/7
ISBN-4101125317
ISBN-4101125325
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「小説中華そば「江ぐち」」
評価:A
いいなあ。すごくいい。近所のラーメン屋にまつわるバカ話をいつもつるんでる仲間同士でああだこうだ言い合うだけの本である。それなのになんて面白いの。まずメニューの「チャーシュー」が「チャシュー」になっていたり「シナチク」を「竹の子」と呼んでいるところがいい。そして店員に勝手にアダ名をつけて妄想をふくらませるところが特に笑える。挿し絵も楽しくて「大盛り髪の毛の男」とか「アクマ」とか一度見たら忘れられない味わい。「江ぐち」は情報誌やテレビで紹介される行列のできる店とは違う。でもとっても美味しそう。うだるような暑い夏、近所のラーメン屋でビールを飲みたくなる。蘊蓄たれるグルメガイドとは対極にある、のほほんとした一冊。
小説中華そば「江ぐち」 【新潮0H!文庫】
久住昌之
本体 486円
2001/6
ISBN-4102901027
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「バルタザールの遍歴」
評価:B
紋切型で申し訳ないのだが、日本人が書いたとは思えない。小説を読んだというよりもよくできた工芸品を鑑賞した気分だ。なんでもないような一文がはっとするほど美しい。バルタザールとメルヒオールはひとつの身体を共有する双子。二重人格ではなくあくまでも双子だと主張する。当然周囲には受け容れられない。得体のしれない怪物のように扱われて育った彼らは大人になると放蕩にふけっていく。貴族の家は没落し祖国にはナチスが台頭。そんな緊迫した情勢にもかかわらず、彼らは酒をのんだりふざけた悪戯をしたりして過ごす。次第に堕ちていく生活と身に迫る危険。頽廃という言葉にロマンを感じるあなたにお薦め。別世界へ連れていってくれるはず。
バルタザールの遍歴 【文春文庫】
佐藤亜紀
本体 600円
2001/6
ISBN-4167647028
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「ああ言えばこう食う」
評価:B
頭の回転が速くてチャーミングな阿川佐和子もいいが、壇ふみが好きだ。連想ゲームで理知的な印象をお茶の間に与えていたこの女優、悪友の阿川佐和子に言わせれば「こんなにバカなのに、誰もそうだと思っていないのはもったいない、もったいない、もったいない……」のだそうだ。気が長いわりには何でもハッキリさせないと気がすまない律義者。底無しの食欲。行き場のない愛情を自覚し、これと決めたものには惜しみなくそそぐ。数々の失敗談も「こんなワタシにもちょっぴりドジなところがあるの」ってな感じの媚びをまったく感じさせない。そのくせ下剤のことを書いても失われない気品はどうだ。無頼派の父の意外な一面も語られていて面白かった。
ああ言えばこう食う 【集英社文庫】
阿川佐和子・檀ふみ
本体 514円
2001/6
ISBN-4087473317
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「夜のフロスト」
評価:A
読め、万国の労働者。くそがつくほど面白いぞ。相次ぐ病欠による人員不足や絵に描いたようなアホ上司・マレット署長の理不尽な命令もなんのその。フロスト警部は下品なジョークを連発しながら不眠不休で捜査にあたる。これでもか、というくらい次々と事件が起こるのだから休む暇がないのだ。ああそれなのに忙しいときにかぎって現場を知らない上司はくだらないことを言いつけるんだよなあ。何を言われても聞いたふり。適当にやりすごして我が道をゆく。ガサツなようでふと垣間見せる繊細さも好き。直感にしたがって手当たり次第に「こいつが犯人だ」と早合点したり、万能鍵でどこでも開けてしまうのは困りものだけど。とにかく働き者のフロスト警部が最高。これを読めば仕事のストレスも笑い飛ばせる、かも?
夜のフロスト 【創元推理文庫】
R・D・ウィングフィールド
本体 1300円
2001/6
ISBN-4488291031
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「赦されざる罪」
評価:C
女は誰でも母になることを望むものなのか?私にはよくわからない。自分には子供はないけれど、他人の子供を見ると単純に可愛いと思う。子供好きなわけではない。ただ、可愛らしいものだなと眺めるだけである。いい年をして結婚までしていながらどうも子供を持つことがどういうことなのかピンとこない。個人的にいろいろ問題を抱える身なので、この物語の根幹のテーマである「母性」とか「家族」に拒否反応を示してしまう。ゴメンナサイ。ミステリーとして読むと肩透かしをくらうけど、ユダヤ人家庭の風習とか、ボディビルディングの描写は興味深かった。アメリカだなー、と意味もなく感心。
赦されざる罪 【創元推理文庫】
フェイ・ケラーマン
本体 1260円
2001/6
ISBN-4488282091
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「クリスタル」
評価:C
でかい犬が好きだ。だからパンジイがいい。この犬が一番ハードボイルドでかっこいい。人間はエキセントリックなのばっかりでちょっと疲れた。シリーズものを途中から読んでいるからか背景が飲み込みにくいのだ。なかでもさっぱりわけがわからないのが魔女・ストレーガ。むむむ、これは『赤毛のストレーガ』を読むべきか……。いったい過去に何があったんだ、と思わせる。でも課題図書がたまっているのにシリーズの前作品なんて読めないしなあ。バークファミリーはなかなか魅力的なのでその点がちと残念。連続殺人犯ホモ・エレクトスとバークがパソコンで接触をはかるくだりは読ませる。
クリスタル 【ハヤカワ・ミステリ文庫】
アンドリュー・ヴァクス
本体 980円
2001/6
ISBN-4150796106
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