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佐久間 素子の<<書評>>
オロロ畑でつかまえて
【集英社文庫】
荻原浩
本体 457円
2001/10
ISBN-4087473732
評価:C
小説すばる新人賞受賞の痛快ユーモア小説というふれこみ。けっこうおもしろかったけれど、痛快という感じではないな。戯画化した人物がどたばたしたあげく到達した意外な高みにカタルシス、というスタイルに関していえば、私が笑いたいのは「戯画化」以上に「どたばた」部分なのだ。「戯画化」にしても、村おこしをたくらむ青年団を笑えないのは痛かった。ユニバーサル広告社の面々はバカだなあと笑って愛せるのになあ。彼らの物語だという続編は好きになれるかも。本作の受賞にあたって、井上ひさし氏が絶賛したという。なるほどー。数を読んでいるわけではないので、大きなことはいえないが、たしかに共通点はあるような。
弥勒
【講談社文庫】
篠田節子
本体 914円
2001/10
ISBN-4062732785
評価:A
情けも容赦もありゃしない。物語は圧倒的な筆力で、常識や感傷をのみこんで滔々と流れ、そして唐突に終わってしまう。混沌とした場所におきざりにされ、ぐらぐらしはじめた世界を抱えて、しばし、途方にくれるほかない。架空の小国パスキムの政変にまきこまれた永岡を通じて、あらゆる価値観が粉々にされた後、そんな希望なら無い方がましの、五十六億七千万年後の救済に思いを馳せる。それは、不確かな価値観や、愚かな人間よりは、あるいは真実に近いというのか。それにしても、何と残酷な。おもしろいというにはあまりにも重いのだが、一気読み必至の剛速球。しかも、どまんなか。気力体力を蓄えて臨まれたい。
神様
【中公文庫】
川上弘美
本体 457円
2001/10
ISBN-4122039053
評価:A
こんなに薄い本に、9つも話がはいっていて、何だか寓話みたいな感じなので、雰囲気を楽しみながら軽く読んでいたのだ。で、『花野』に陥落。あー、油断してた。電車で開いてなくてよかった。実際、この1ヶ月何度も読んでいるのだが(10分くらいで読めるし)、あんまり好きなので、ポケットに入れて歩きたいくらいなのだ。死んだ叔父さんに野原で会ってしまうという話である。叔父さんは思ってないことを言うと、「あっちに還」ってしまう。大まじめな二人がおかしくもかなしい、短い短い話である。なのに、永遠が見えてしまう。きっぱりとしていて、少しだけ恐ろしく、少しだけ懐かしい。死というものに対する美しい解釈だと思う。あと、気に入っているのは、異形のものに好かれてしまう『夏休み』、人魚に魅入られる『離さない』。日常にはいりこんでくる「あっち」側を、あたりまえの顔して受け入れて、なおかつぎりぎりの所までひっぱられたりする「わたし」には呆れてしまうが、その実うらやましくもあるのだ。
求愛
【文春文庫】
藤田宜永
本体 552円
2001/10
ISBN-4167606038
評価:D
リアルにしろバーチャルにしろ、恋愛において鍵になるのはやっぱりエロでしょう。恥ずかしさとか後ろめたさとか、そういうとっても個人的で後ろ向きなエネルギーを、他人と共有したいっていう気持ちは、醜いばかりじゃないのが不思議なところ。私ってどうしてこうなわけ?っていう、ため息混じりの自覚にこそ、エロは宿る。そんな私のエロ観からいくと、本書はちっともエロくない。二人が堂々としているのは、お互い自分しか見ていないからとしか思えないし、裸+ピアノ=官能って演出も勝手にやってろ感が高くて、もうすっかり冷静。「恋愛小説の第一人者」の恋愛小説にひたれない感受性ってのもやばいかしらん、と不安を残しつつ秋の夜は更けてゆくのであった。
夜の闇を待ちながら
【講談社文庫】
R・エアース
本体 971円
2001/10
ISBN-4062732831
評価:B
第一次大戦後の影響を色濃く残したイギリスの田園におきる猟奇殺人。主人公・マッデンの捜査同様、緻密なストーリー展開は、読みごたえたっぷりだ。美しい生活と、大戦の傷跡と、殺人者の異常が並び立った緊張状態がざわざわと心を騒がせる。警察関係者が覚えにくいせいもあるのだが、マッデンがロンドン警視庁に帰るたび、ペースダウンしてしまうのが、いかにも惜しかった。それにしても、地味で暗いマッデンは印象的な主人公だ。殺人を目撃してしまった少女にマッデンが注ぐまなざしも、傷ついたマッデンに注がれるまなざしも、つつましくて温かい。それは、何だか痛くなってしまうほど優しい風景なのである。
とむらい機関車
【創元推理文庫】
大阪圭吉
本体 660円
2001/10
ISBN-448843701X
評価:B
戦前の探偵作家としてファンに愛され、若くして戦没した著者の初期短編集。乾いた明るさのせいか、パズルのような謎解きのせいか、それとも、何だか呆気ないような「犯人」のせいなのか。小学生の時、夢中になって読んだ探偵小説のような懐かしいにおいが感じられて嬉しい。もっとも、記憶の底をさぐっても出てこない風景もまた魅力的。汗ばんだような空気、凄惨な死体、狂気と情熱をえがきながら、暗くならない『とむらい機関車』『坑鬼』はともに傑作。また、さすがについていけない展開ではあるが、ラストシーンが好きなので『気狂い機関車』を推しておきたい。同時発刊の『銀座幽霊』は乱歩の批判に応えた、意外性重視作品群らしい。とりあえず購入決定やね。
9ミリの挽歌
【文春文庫】
ロブ・ライアン
本体 848円
2001/10
ISBN-416752787
評価:C
前作『アンダードッグス』がこのページで評判がよかったのに、読みのがしてしまって、だから、鼻息荒くとりかかったのだけれど、期待ほどではなかった。それぞれの登場人物の視点でくるくる場面が変わり、ラストに向けて収斂されていく手法は映画的でかっこいいけれど、ちょっとウェットな本作に関してはあまり効果があがっていないのでは。たしかに、クライマックスの盛り上がりは大変な騒ぎなのだけれど。下敷きになっている『くまのプーさん』は苦手なのだが、大人になってしまったクリストファー・ロビンに対するぬいぐるみたちの復讐?なんて深読みするのは、意外と楽しかった。ビリー・ムーンが父親の支配からぬけだせないなんて設定には思わずニヤリ。
古地図に魅せられた男
【文春文庫】
マイルズ・ハーベイ
本体 752円
2001/10
ISBN-4167651149
評価:D
とにかく読みづらかった。ものすごく直訳調なんだもの。バイト君がやった下訳のままなんじゃないのーと、しまいには怒りだしたりして。しかも、メインエピソードが図書館の稀覯本から地図をきりとって売っぱらう男についてで、これがまた腹がたつんだ。精神衛生上あまりよろしくない本なのである。地図をめぐる話題はあちらに転がり、こちらに転がり、とどまることを知らないが、作者は地図について語っているのではない。地図への情熱/狂気を語り、それがどこから生まれるのかをときあかそうとしているのだ。私には理解できない世界であった。地図の読めない女の頭脳にはどだい無理な本だったか(←ちょっとくやしい)。
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