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中川 大一の<<書評>>
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本棚探偵の冒険
本棚探偵の冒険
【双葉社】
喜国雅彦
本体 2,500円
2001/12
ISBN-4575292818
評価:A
「あー、楽しかった!」「何それ、古本?」「うんにゃ、新しい本だよ。テーマは古書だけど」「ふーん、オタクっぽそうね」「そんなことないよ。誰でも笑える開かれたエッセイさ」「オタク出てこないの?」「……出てくる」「オタクじゃない人は?」「……出てこない」「何じゃそりゃ。自分がオタクだから気が合うんでしょ?」「何ッ。俺はオタクじゃないぞっ」「じゃあなんで、毎月10冊もタダで送ってくるのに、まだ自分で本を買ってくるのさ」「それは……秘密」「あほ。だいたい次々増える本、どこに置くつもり?」「そうだ、この本には、苦労しつつも工夫して本を収納する話しが出てくるから、大いに参考になるぞ!」「へえー。どう工夫してんの?」「家とは別に、書庫を借りとんねん」「いい加減にしなさい!」

ジョッキー
ジョッキー
【集英社】
松樹剛史
本体 1,500円
2002/1
ISBN-4087745678
評価:B
GIって何? ターフってどこ? そんな私でも十分楽しめる競馬小説。いやむしろ、全然知識がないゆえに、初めて知ることのうれしさを味わえるとも言える。立ち上がりが魅力的だ。一癖ありそうな奴らが次々出てくる。いいぞ。そして、一癖ありそうな奴らがまたまた出てくる。いいぞいいぞ。さらに、一癖ありそうな……。つまり、主脈と枝葉のバランスがちょっと悪いんだ。サブストーリーが繁りすぎて、幹がたわんでるぞ。これだけいろんな人物を造型するなら、もっと大長編にできたでしょう。女の人が三人もいて狭そうだ。あるいはこの長さで決めるなら、すべての項目をメインストリームに収斂させる手綱さばきが必要。とまれ、一気読みの快作保証。長さといい値段といい、買って損はないでしょう。

東京タワー
東京タワー
【マガジンハウス】
江國香織
本体 1,400円
2001/12
ISBN-4838713177
評価:D
透と詩史が、メシ食ったりセックスしたりする。耕二と由利が、メシ食ったりセックスしたりする。耕二と喜美子が、メシ食ったりセックスしたりする。以下同。まさかそんなことはないが、基本的にその繰り返しのような印象を受ける。俺と同じ年格好の中年男がまともには出てこないから、拗ねて言ってる部分もちょっとあるけど。肩入れする人物がいないとつらいぞ恋愛小説は。とにかく。タバコで言うならマイルドセブン・スーパーマイルド(そんなのないって)。あまりにも軽いノリ。雑誌連載の時はこれで十分楽しかったのかもしれんが、単行本としちゃキツイぞ。音楽ならBGMにできるし、テレビも別の用事をしながら見られる。でも本ばっかりは、それをメインに据えざるをえないんだからねー。

ちょん髷とネクタイ
ちょん髷とネクタイ
【新潮社】
池内 紀
本体 1,800円
2001/11
ISBN-4103755032
評価:B
好きな本ばっかり読んでると、そのうち倦んでくる。何を読んでも同じに思える、壁に当たった感じ。そんな時頼りになるのが、「WEB本の雑誌」の読書相談室であり(*^。^*)、本書のような読書案内エッセイだろう。本好きにはガイドされることを嫌うムキが多い。でも、たまに碩学の声に素直に耳を傾けてみ。そんなお説教くさくないって。論評してる作品への愛情が背後に流れ、その話しを読んでみたくなる。読者の知らない事実を開陳しつつも嫌味じゃない。わが新刊採点も願わくばかくありたいものだが、とてもとても……。おりょ? 佐久間象山が斬殺された場所って、京都は三条木屋町じゃなかったっけ? 「祇園近く」と言うにはけっこう遠いけどな(こないだ、あのへんで飲み歩いたからやけに詳しいのだ)。

緋色の時代
緋色の時代
【小学館】
船戸与一
本体 各1,800円
2001/12
ISBN-409379104X
ISBN-4093791058
評価:A
船戸与一の小説世界を貫く一本の太い柱。それは、ぎりぎりまで抑えつけられた者が上に向かって炸裂させる怒りの連鎖。必然的に舞台は第三世界となり、主役はゲリラとなる。ところが本作は、基本的に犯罪集団同士の抗争がテーマ。ヨコ関係の戦いだね。なーんだ、これなら単に、異国情緒をまぶしたヤクザものじゃないか。それでも。これほどの話し、他に誰が書けるというのか。悪人しか出てこない船戸の物語は無論フィクションに過ぎない。なのに嘘っぽくないのは、私にはこいつらが、あらゆる虚飾を剥ぎ取った人間本来の姿だと感じられるから。それに、ここで描かれた麻薬の流れは現実に十分ありうるだろう。最後に、版元に賞賛と苦言を一つずつ。膨大な取材を要するこんな話し、週刊誌を抱える大手でないと成立しなかったはず。えらい。一方、『模倣犯』の時は黙ってたんだけど、誤植が多いぞ。銃をぶっ放したあと立ちこめるのは、「消炎」じゃなく「硝煙」だってば!

アースクエイク・バード
アースクエイク・バード
【早川書房】
スザンナ・ジョーンズ
本体 1,600円
2001/12
ISBN-4152083840
評価:D
不思議なムードに満ち満ちた心理サスペンスなのか。それとも、見かけ倒しの凡作なのか。けっこう迷ったんだけど、針は少し後者に振れました。青い目が見たニッポン。いい加減カビの生えたそういうノリで、本書はずいぶん底上げされてる気がするんだ。つまり、作者がしばらく日本に滞在してたイギリス人で、それだけで「へえー」と思わされる。「現代の日本の文化を巧みにとらえた」(オビ裏)って、どこがやねん。まさか富士山・芸者・侍じゃないにせよ、蕎麦とか魚とか、わりと陳腐なイメージだぜ。結論。私は、「解説」(「訳者あとがき」じゃなく)が要るようなややこしいミステリが基本的に苦手なんだな。それに賛成の人は読まなくていいでしょう。

ミスター・ヴァーティゴ
ミスター・ヴァーティゴ
【新潮社】
ポール・オースター
本体 2,400円
2001/12
ISBN-4105217070
評価:C
人生山あり谷あり。栄華を極めたその刹那、真っ暗な地獄がぽっかり口を開けている。本書は基本的にファンタジーのはずだが、ときに目が覚めるような、また目を覆うような悲惨な事件が起こる。障害を持つ黒人少年が差別主義者に虐殺されるとか。それでも話しが沈鬱に堕しないのはなぜか。主人公が前向きに生きてるから? いいや。「前向き」なんて、前向きか後ろ向きかを選ぶ余裕のある特権階級だけが使える言葉にすぎないのさ。それよりも、本書に立ちこめる気分は、シニカルな諦念とでも名付けうるものだ。すべてがおシャカになったのなら、次に進まなきゃしょうがないじゃないか? かくして我々は、うまく運ばない人生に鼓舞されるという、文学ならではの逆説的な愉悦を味わうことになるんだね。

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