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山田 岳の<<書評>>
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亡国のイージス
亡国のイージス
【講談社文庫】
福井晴敏
本体 上・下各695円
2002/7
(上)ISBN-4062734931
(下)ISBN-406273494X
評価:A
 A評価をつけたので批評は辛口にする。
「よく見ろ、日本人。これが戦争だ」という挑発的な帯コピーだが、国際法上は、これは戦争ではない。テロリストと反乱海上自衛官たちによる<事件>。そこに謀略の中で息子を殺された艦長の<怨念>がからまって、なんともウエットな展開になる。
「ほかの自衛官たちもいずれわかってくれる」とはいうものの、わかるのは、2・26事件から何も学んでいないこと(ため息)と、殺し合いが憎しみを倍化させるという、あたりまえのことばかり。
「まあまあ、そう言わずに」という日本人気質が、実は戦争には一番有効なのかもしれない。だんだんそんな気がしてくるが、そんなことを言う登場人物はいない。あたりまえの話だがテロリスト集団と反乱自衛官たちは一枚岩ではなく、政府側工作員による破壊活動を前に<お家騒動>もどきの内紛が巻き起こる。と、これまた日本的な展開。かわぐちかいじの『沈黙の艦隊』がドライに徹して成功したことを考えると、本作は日本戦争文学の負の遺産を引きずっているのかもしれない。

暴れ影法師
暴れ影法師
【集英社文庫】
花家圭太郎
本体 705円
2002/7
ISBN-4087474720
評価:B
 「今こんな男がいてほしい」というオビのコピーはまんざら嘘ではない。外様取り潰しの嵐が吹き荒れる二代将軍秀忠の治世、秋田佐竹藩の命運をあずかるは大ボラ吹きのカブキ者、小十郎。律義者、小心者には考えられない権謀術数、というと言葉が悪いが、壮大な構想力を生み出しては、実現していく。将来への指針を示せる者がいない中でいかに方針をたてて立ち回るか、という点が現在との共通点であり、カタルシスを生む要因になっている。

わたしのからだ
わたしのからだ
【祥伝社文庫】
桐生典子
本体 543円
2002/8
ISBN-439633060X
評価:C
 フローリングに白い壁のマンションで女性雑誌をぺらぺらとめくってみたら載っていた小説、そんな印象を受ける。骨、排泄、心臓の鼓動等々、<からだ>をお題にした短編集だが、あわーい文体と物語の中に、かたい人体の解説がはさみこまれていて、違和感を感じる。しっくりかみ合っていない気がするのだ。はかなげなヌード・イラストの挿絵はどんぴしゃハマってますが。

かっぽん屋
かっぽん屋
【角川文庫】
重松清
本体 571円
2002/6
ISBN-4043646011
評価:B
 「Side A」「Side B」に分けられた編集が気がきいている。「Side A」は<青春の裏側>をテーマにした短編集。
性愛小説で興奮することもなくなった評者だが、小学生の<性の目覚め>を描いた「すいか」には興奮してしまった。う〜ん、はずかしい。性のはけ口をもとめる少年とは、なんとはずかしい存在なのだろう(「かっぽん屋」)女性には読ませたくない(^-^;)。
「Side B」には特にテーマはない。書評のための読書に追われる評者には、背筋が凍るような「失われた文字を求めて」。苗字の読み方を変えるだけで人生観が変わってしまう「デンチュウさんの傘」など、ライター稼業で修業をつんだ作者らしい、こなれた、小気味よい作品がそろっている。

帝都異聞
帝都異聞
【小学館文庫】
草薙渉
本体 619円
2002/8
ISBN-409410013X
評価:B
 あたらしい時代(明治)へ船出せんとする新米記者奮戦記。帝都(東京)には誘惑も多くて、怖いことも多くて。って、浜大津(滋賀)出身なら、そのくらい祗園(京都)で経験しとけ、と、ツッコミのひとつも入れたくなります。まあ、世の中の荒波をもろにかぶってしまうのも<若さ>なのでしょう。銀爺の説教がクサイかどうか評価の分かれるところですが、大西郷を失ったショックから立ち直れなかった大久保利通と、官憲の暴力から立ち直った雨森新米記者の対比という点では成功しています。関係ないけど、阪神淡路大震災を取材した記者の皆さんは心理的傷害とかどう克服しはったのか、ふと気になりました。

煙で描いた肖像画
煙で描いた肖像画
【創元推理文庫】
ビル・S・バリンジャー
本体 680円
2002/7
ISBN-4488163033
評価:B-
 ストーカーまがいの青年の話かと思えば、ラストにこんな結末が用意されていたとは!?
直感から理想の女性と思い込むのは、若さ(ばかさ)のなせる技、写真1枚では、性格までは判別できるわけがない。評者が、むかーし付き合った女性が、子どもの頃から京都・祗園の店に出入りしていて、「女に生まれたからには・・・」なんて話をしていたことを思い出した。
え、その女性とはどうなったかって? 本作品のダニー君ほどではないけれど、やっぱり痛い目にあいました(^-^;)

ウィーツィ・バット
ウィーツィ・バット
【創元コンテンポラリ】
フランチェスカ・リア・ブロック
本体 480円
2002/7
ISBN-4488802036
評価:D
 理想の男と好きな仲間に囲まれて、ちっちゃな家でかわいい子どもを育てる。今のアメリカの10代の理想ってこんなもんですか?この程度で「世界が違ってみえる」(帯コピー)の?うーむ。世の中の誰も信じられない、家族でさえもが憎みあうアメリカ社会だからこそ求められた、ちっちゃな(ちゃちな)ユートピア小説。

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