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勝手に目利き
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新冨 麻衣子の<<書評>>

セカンド・サイト
セカンド・サイト
【文藝春秋】
中野順一
定価 1,500円(税込)
2003/5
ISBN-4163218807
評価:D
 タクトの働くキャバクラ<クラレンス>のナンバー1ホステス・エリカが何者かに殺された。ストーカーに狙われていたエリカから助けを求められていたタクトは責任を感じ、犯人探しに乗り出す。一方で不思議な力を持つ新人ホステスの花梨に恋をして―。
 クスリ、通り魔、中国マフィアが横行する夜の街を舞台に、スリリングなストーリー展開で一気に読ませる。……だけどねえ、なーんかありがちだなあ、という印象が最初から最後まで続いた。目新しさがないというか。選考委員である浅田次郎氏の「この作者の巧妙さは、自分の資質と現在の実力をよく知っていて、そのキャパシティいっぱいの完成された作品を書こうとしているところ」というコメントに同意。ものは言いようだなあ。

銀の皿に金の林檎を
銀の皿に金の林檎を
【双葉社】
大道珠貴
定価 1,260円(税込)
2003/6
ISBN-4575234664
評価:D
 主人公の夏海はお菓子のような小さな町で生まれ育つが、祖母や母親に習い自分もホステスになるため、町を出て銀座で働くようになる。他人とは深く関われない性格のまま、大人になり、ときに故郷の家族を思い出す。うーん…なんだろう、この読後感の薄さ。読むに耐えないというわけではない。だけど、閉じた瞬間に内容を忘れてしまうような類いの本だったなあ。

かび
かび
【小学館】
山本甲士
定価 1,785円(税込)
2003/6
ISBN-4093874379
評価:B
 過労で夫が入院。しかも責任を負うべき会社は労災申請を辞めさせようとするどころか、夫の左遷までも計画していた。もう我慢できない―。病気の夫と幼稚園の娘を背負い、専業主婦・友希江が起ちあがった。敵は街中に権力をはびこらせる大企業・ヤサカ。我慢するから、見なかったことにするから、ストレスがたまるのだ。一度見つけたカビはもう、放っておくわけにはいかない。罪悪感も法律も無視してヤサカに報復を図る友希江の迫力は、痛快さを通り越して恐いと感じるほどだ。ラストがあまりに因果応報的なのが気になるが、ストレス解消に読むといいかも……。

生誕祭
生誕祭(上・下)
【文藝春秋】
馳星周
定価 (上)1,785円(税込)
    (下)1,680円(税込)
2003/6
ISBN-4163218505
ISBN-4163218904
評価:A
 時は80年代、バブルに浮かれる日本―。弱冠21歳の彰洋は、不動産界の若き虎・斎藤美千隆に魅せられ、大金を動かす快感に染められた世界へ自らもはまっていく。不動産王・波潟、その愛人・ナミ、虎視眈々と波潟の失脚を狙う関西の金丸、そして斎藤。バブルというババ抜きの最後のジョーカーを引くまいと、複雑な駆け引きを続ける彼等のなかで、なぜか彰洋の存在が彼等の運命を決めるジョーカーそのものとなってしまう。
 さすが馳星周。複雑に絡み合う人間心理とダイナミックなストーリー展開が相まって、分厚い上下巻をものともせず、一気に読ませる。「金が欲しいわけじゃない。ただひりひりしたいだけなんだ。」という、純粋な彰洋に金の亡者たちがしかける数々の罠。結末が知りたくて、ページをめくる手が止まらない。おすすめです。

石の猿
石の猿
【文藝春秋】
ジェフリー・ディーヴァー
定価 1,995円(税込)
2003/5
ISBN-416321870X
評価:AA
 映画化された『ボーン・コレクター』でも有名な<リンカーン・ライム>シリーズの最新刊だ。手も足も動かない車椅子の敏腕捜査官リンカーン・ライムと、言葉どおり彼の手足となって働くアメリア・サックスのコンビネーションは健在。 今回の敵は、11人の殺害容疑で国際指名手配されている危険な密入国斡旋業者<ゴースト>。自由を夢見てアメリカに密入国してきた中国人たちの命を守るため、謎に包まれたゴーストの行動をライムが追いつめていく。
 ゾクゾクする、巧みなストーリーの組み立てに、繊細な人物描写も抜群。一気に取り込まれてしまった。脇役では、ゴーストを追って中国からやってきた若き刑事ソニー・リーが好感度大です。

ラブリー・ボーン
ラブリー・ボーン
【アーティストハウス発行/角川書店発売】
アリス・シーボルド
定価 1,680円(税込)
2003/5
ISBN-404898120X
評価:A
 主人公はレイプされ殺された少女、スージー・サーモン。死者が主人公となる物語は決してめずらしくない。かつ、死者が主人公であると、その物語は主人公の都合に合わせて進んでいくことが多い(現世での無念を晴らすとかね)。そういう意味でこの物語は、死者を視点としながらも、ひどく現実的だ。遺体すらたった一部しか見つからないし、自分を殺した犯人も捕まらない。残された家族や友人は、犯人を探し出そうと躍起になったり、哀しみのあまりまわりの人間から心が離れていったりもしてしまう。そんな愛する人々の長い年月を、スーザンはひっそりと見守る。これは、実際に触れあうことが叶わないスーザンから見た、彼女の死をきっかけに人々の間に生まれた絆の物語なのだ。人の死は、決して<存在が消えてしまうこと>ではないと改めて感じさせてくれる、心が温まる一冊です。