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新冨 麻衣子 新冨 麻衣子の<<書評>>


平成マシンガンズ
平成マシンガンズ
【河出書房新社】
三並夏
定価1,050円(税込)
2005/11
ISBN-430901738X
評価:★★★★★

 史上最年少15歳での文芸賞受賞作。もうやめようよ年齢で話題性狙うのは……と思いつつ読み始め、読み終わった今ものすごくびっくりしてる。この人、本当に15歳!?
 どこにでもいるようなひとりの女子中学生の、<自分以外の世界>との闘いがリアルに描かれる。そりゃリアルだよね同い年だし……とか言ってる場合じゃないよ。無意味に肥大した自意識のカタマリが制服着て歩いてるような年代の子の内面を、同じ年代の子が、27歳の私が読んでも胸がヒリヒリするようなリアルさで作品にしてしまうって、かなり凄いことなんじゃないか。空気や水と同じくらい、他愛ないおしゃべりが必要だった。
 学校と家族しか居場所はないのに、どちらもいつでもたやすく地獄になった。<自分>と<自分以外>があまりにも上手く噛み合ない、あのもどかしさや悔しさを、正面からぶつかって、力のわく物語にまで昇華させてしまってる。
「死神」のエピソードがまた上手いんだよね。死神にもらったマシンガンを片手に、世界に立ち向かう少女……やっぱいいよこの小説。読後感もグッド。今後が楽しみな作家さんの登場です。


カポネ
カポネ
【角川書店】
佐藤賢一
定価1,995円(税込)
2005/11
ISBN-4048736582
評価:★★★★

 伝説的なギャングスター、アル・カポネの生涯がスリリングに描かれる。
 とにかく頭が切れる。だからこそマスコミを手なずけ民衆の心を集めることができた。その裏にある素顔は、イタリア系らしい人情深い一面。だからこそマフィアのボスでありながら貧しい人々のヒーローとしてあがめられた。そしてもう一方で、ここぞというタイミングで自分が世話になったボスの命さえ狙うという、冷酷なまでの嗅覚。それゆえにシカゴの裏社会を統一し、全米から注目されるギャングスターにまで登り詰めてしまう。
 前半はこのカポネの少年時代からシカゴのトップを極めるまでが描かれるのだが、後半はFBI特別捜査官であるエリオット・ネスの視点で描かれる。凝り固まった正義感故に、禁酒法違反でカポネを追いつめようとするのだが、その実、カポネイズムに心酔している、ちょっと薄っぺらなやつだ。彼の視点から描かれる、カポネの最後はひどく寂しい。が、やりきれない気持ちは、最後のエピローグでちょっと救われる。
 実際カポネの伝説的なエピソードがあってこそだろうけど、それをこの著者のフィルターを通して素晴らしいひとつの長編小説に昇華してる。

スープ・オペラ

スープ・オペラ
【新潮社】
阿川佐和子
定価1,680円(税込)
2005/11
ISBN-4104655023

評価:★★★★

 主人公は35歳独身のルイ。早くに死に別れた両親の代わりに叔母のトバちゃんとずっと二人で暮らしてきたが、トバちゃんがいきなり駆け落ちまがいに恋人と旅に出てしまった。残されたルイは変わらず同じ家でひとりで過ごそうとするのだが、なぜかたいして素性を知らない二人の男が転がり込んできて……!?
 なぜか同居することになってしまった……という設定はかなりありふれてるが、かなり細かいスパンで3人の距離感がコロコロ変わるので読んでいて飽きない。トバちゃんはじめまわりのキャラがコメディばりに変なキャラが多くて、ストーリーを愛らしく見せる。
 そして何より話の端々に登場する、スープがたまらない。トバちゃん直伝の鶏ガラスープ!! しかもそのスープをかけたご飯めちゃめちゃ食べたい!! わたしもチキンカレーを作るときは手羽元を煮てスープをつくるけど、ここまでちゃんとそのスープ自体に向き合ったことない気がする。あぁ……今すぐにでもスープ作りたくなるなぁ。
 冬場読むのにぴったりな一冊です。

金春屋ゴメス

金春屋ゴメス
【新潮社】
西條奈加
定価1,470円(税込)
2005/11
ISBN-4103003111

評価:★★★★

 設定はSFで舞台は江戸、人情味あふれる青春モノで、かつわりとまっとうなミステリ?…というなんだかエンタメ性の高い一冊であります。
 この作品の舞台である<江戸>は過去の江戸時代を完璧にコピーし、かつ近未来と同居している、不思議な場所だ。どこを見渡しても江戸時代なのに、その海をちょっと渡ればそこは高層ビルひしめくトーキョーが存在するという、時空がねじ曲がったような舞台設定が楽しい。またその特殊な設定を生かしたストーリーも上手いと思う。
 そして特筆すべきはキャラクター造形でしょう。主人公・辰次郎とともに日本から江戸へやってきた時代劇オタク・松吉を筆頭に愉快で気持ちのいい金春屋の仲間たち……そんな味わい深いキャラたちを一気にかすませるほどのインパクトを持つ、金春屋ゴメス。主人公でもないのに小説のタイトルとなるのもうなずけます。昔からの子分にまで「厚顔無恥、冷酷無比、極悪非道で誉れ高い」とか「人間かどうかぎりぎりのところにいる」と評されるゴメス。しかもそれが●●●とは……。シリーズ化、希望!

夢のなか

夢のなか
【新潮社】
北原亜以子
定価1,470円(税込)
2005/11
ISBN-4103892137

評価:★★★★

 働きもせず暴力を振るう男と別れられない女、妻子ある男を追いかけ回す女、夫の本当の気持ちが知りたくてひと芝居うつ女……江戸も平成も男と女のいざこざは変わらんもんですねぇ。
 一番<江戸の人情話>っぽいのは「師走」かな。年末に追いはぎにあってしまったおばあさんの物語なんだけど、これがいい話なんだよね。本当に江戸時代にはこんなふうに情の厚い人がゴロゴロいたんだろうか。現代からしたら夢物語のようだ。今なんて犯人に説教しようもんなら3秒でズドンとやられそうだもんなぁ。自分の美貌に自信があるばかりに婚期を逃してしまったおれんの物語「ふたり」も切なくて、とても好き。
 江戸を舞台にした8つの物語はどれも、ちょっと切なくて心が温まる、あまり時代小説は読んだこと無いんだけど、これをきっかけに読んでみようかなと思った。


バスジャック

バスジャック
【集英社】
三崎亜記
定価1,365円(税込)
2005/11
ISBN-4087747867

評価:★★★

 異例のスマッシュヒットとなった著者のデビュー作「となり町戦争」を読んだとき、変な話を書く人だなぁ、でも面白いなぁ、と思って二作目を楽しみにしてたんだけど、その二作目である本書もやっぱり、変な短編集だった。
 外階段もないのに二階に扉を付けるのがしきたりである町に住んだある夫婦の物語「二階扉をつけてください」、全国的にバスジャックが大流行してる変な世界で起きたあるバスジャック事件を描いた「バスジャック」、この2編がとても良かった。
 めちゃめちゃ変で、痛快。ただその他の作品は、ちょっと安易に踏み込みすぎな気がした。別れとはなんなのかとかそんなことまで言葉にしてしまうと、この人独特の世界が少し野暮ったくみえる。三崎亜記には、ひたすら変な話の輪郭をなぞってもらいたいなと思った。

ハートブレイク・レストラン

ハートブレイク・レストラン
【光文社】
松尾由美
定価1,575円(税込)
2005/11
ISBN-4334924786

評価:★★★

 松尾由美の最新刊。ちょっと不思議なお婆ちゃんが解き明かす日常系連作ミステリ。
 主人公の寺坂真以は駆け出しのフリーライター。主に自宅で仕事をしているが、気分転換に客が少ない近所のファミレスを勝手に臨時の仕事場にしている。ある日、真以は編集部で起きた不可解な事件をネタにしたコラムのオチをどう付けるか悩み、携帯で友人にことの顛末を話していた。電話を切ったあと、同じく常連であるがこれまで話したことのない上品なお婆ちゃんが声をかけてきて……!?
 松尾由美の作品を説明するのは難しいなぁ。ちょっと踏み込むとネタバレだし、かといってそこを避けると、なんだかすごくベタな話のようで……。ま、お婆ちゃんの存在自体がネタであって、それ以外はベタな話なんですけども。
 松尾由美らしい優しい視点で描かれた、不思議系ミステリです。

宇宙舟歌

宇宙舟歌
【国書刊行会】
R.A. ラファティ
定価2,205円(税込)
2005/10
ISBN-4336045704

評価:★★★★★

 SFでこんなに笑ったのは「銀河ヒッチハイクガイド」以来!? 物語はさながらジェットコースターのよう。ロードストラム船長とそのクルーたちが宇宙を冒険するのだけど、行く先々が思いっきり変な星ばかり。欲望の赴くまま過ごしてしまう星でだらけきって抜け出せなくなったり、愛想はいいのにやたら闘いを強要してくる巨人族となぜか死闘を演じたり、ギャンブルの星で調子に乗って大借金をしてしまったり、美しい歌声にだまされて女のペットになったり、二本足で歩く羊たちの為に戦ったり……? もうわけわかんない。わかんないんだけどでも、めっちゃめちゃ楽しい。
 当初の目的地であった自分たちの世界に降り立ったあとのラストもいいんだよね〜。やっぱそうじゃなきゃね、男の子は!なんて意味不明に安心したり。太古の昔から男の子を夢中にさせるのは、無意味な大冒険なんですねぇ。あ、でも男の子限定の物語じゃないですから。一応女の子(っていう歳じゃないけど)のわたしもめちゃめちゃ楽しかったんで。
 未読の人はぜひどうぞ。ページを開けば頼んでもないのに勝手に、ロードストラム船長がとてつもなく危険でおかしい旅に連れて行ってくれます。