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紀文大尽舞
紀文大尽舞
米村圭伍 (著)
【新潮文庫】
税込700円
2006年6月
ISBN-4101265364
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  久々湊 恵美
 
評価:★★★★☆
 いやあ、面白かったなあ。主人公お夢をはじめ、登場人物達がまた生き生きとしていて物語にのめりこんじゃいました。最初はお夢のちっぽけな疑問から物語りは始まるのですが、色んな人物を巻き込んであっというまにとんでもなく大きな話へと発展していく。人間関係があまりにも複雑に入り組んでいる事と、登場する人物の多さに少し戸惑ってしまったのですが息もつかせぬ展開に途中から気にならなくなりました。
 ドンデン返しに次ぐドンデン返しがこれまた上手くて。時代小説というよりは、ミステリー色の強い一冊です。歴史に造詣が深いわけではないのですが、そんなのも吹き飛びます。
 ただ、最後の辺りがムニャっとしている気がして。そこがなあ。痛快に進行していただけに、ちょっぴりモヤモヤと気になるところではあります。

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  松井 ゆかり
 
評価:★★★☆☆
 これまでにこの「今月の新刊採点」でも取り上げられた佐藤賢一氏や荒山徹氏などのような、歴史上の人物や事件を題材にしつつ大胆に脚色を加えて痛快な物語を創り上げる作家がいるということに驚かされてきたが、米村圭伍氏も間違いなくその列に名前を連ねる作家であろう。
 軽妙な語り、ユーモラスな会話(ついでに滑稽な表紙のイラスト)などで油断していたら、話がどんどん深刻になってきて慌てる。それに最後の方の主人公お夢の行動、ちょっとアンフェアじゃないか?若干後味の悪さが残ったのが残念だった。
 それはそうと現在私がいちばん気になっているのは、紀伊国屋文左衛門のことをこんな風に書いちゃってあるが、果たして紀伊國屋書店にこの本は並べられているのだろうか、ということだ。

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  西谷 昌子
 
評価:★★★★★
 まず語り口が面白い。江戸の町並みがそのまま目の前に浮かび上がってくるような粋な台詞回しに痺れる。主人公は戯作者に憧れる女性だが、物語を紡ぐ者ゆえに冴え渡る推理も面白い。彼女が「まだここが結末ではないはず」「これでは面白い戯作にならない」と言いながら次々と事件の真相に迫っていくのが格好よく、一人の人物の謎から将軍の秘密へとどんどん展開していく物語にぐいぐい引き込まれた。謎の大きさ・深さもさることながら、この小説の根底に流れている江戸の空気――粋、風流とでも呼ぶべきだろうか――に魅了されたのだ。時折登場する歌謡や、虚実取り混ぜながら面白おかしく語られる事件の手がかり、そして真相。最後立て続けに判明する真実は、無粋な現代ではとてもありそうにない、でもこの時代ならばとてもしっくりくる真実だ。語り口や描写だけではなく、物語の隅々まで「江戸」が生きている、そんな一冊。

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  島村 真理
 
評価:★★★★☆
 度胸もきっぷもいいお夢の活躍が気持ちいい。紀伊国屋文左衛門の秘密、将軍継承をめぐる陰謀をさぐり、大奥にまで潜入して核心にせまるところは痛快です。歴史のもしかして……を空想するのは楽しいこと。
 だから、そのままで終わって欲しかった。探索仲間の倉地の豹変にはがっかりだし、結局、女は埒外みたいな展開になりそうでムッとしてしまいます。けれど、世の泥にまみれても、そこからのお夢の底力は見ものです。「女の憂き世を浮世に変えん!」を別のやりかたでお夢は実行するのですね。勧善懲悪もいいけれど、それだけでは面白くないもの。
 最後はストーカーみたくなってしまいましたが、忍びの者、むささび五兵衛の存在が好きです。憂き気分をちょっとだけふっとばしてくれました。

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  浅谷 佳秀
 
評価:★★★★☆
 主人公は戯作者志願の娘・お夢。ルックスは十人並み。好奇心の塊で、房事指南書なんかを読んだりしているくせに、身持ちは堅い。こんな彼女が、戯作のネタにしようと、隠居した豪商、紀伊国屋文左衛門を追っかける。何度か危ない目に遭いながらも、お夢は、紀文と将軍の繋がりを探るべく大奥に潜入し、将軍継承を巡る陰謀に行き着くが――。
 チャーミングかつ豪胆なお夢の造形が最高だし、物語は冒頭から軽妙かつテンポよく展開してゆき、すいすい読めた。ところが後半、突然物語が血生臭く陰惨な展開を見せ、気のいい脇役たちもガラリと変貌。これにはかなり面食らわされた。その後も文章の粘度が増してくるような感じで、終盤に近づくにつれて読むテンポも落ちてゆき、そしてエンディングは……なんだかなあ。もっと爽やかに終わってほしかったなあ。
 ところで、絵嶋生嶋事件で、事件の当事者である絵島が流罪なのに、事件に全く関係ない絵嶋の兄(しかも実際の血縁関係のない仮の兄)が、とばっちりで死罪になるのは、何とも気の毒で、話の筋とは何の関係もないその部分が気になってしょうがなかった。

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  荒木 一人
 
評価:★★★☆☆
 時代考証の必要の無い、ミステリ風の時代劇。推理モノと言う感じではなく、主人公が興味本位で動くと偶然結果が付いてくる。証言者が多数登場し、語る部分が興味深い。気軽に、面白く楽しめる。
 花のお江戸で戯作者を目指す、湯屋の娘“お夢”。蜜柑船で一夜にして財をなし、材木で財を積みまし、そして一代で落魄した、紀伊国屋文左衛門。噂が噂を呼ぶが真実は闇の中。そんな豪商の勃興と遊蕩を一代記にしようと画策する。詮索をし過ぎ、命を狙われる羽目になる、お夢。通りかかった黒羽織の武家に助けられる。紀伊徳川家の家臣、大久保彦左衛門、八代将軍吉宗、明夜。解そうとした糸は、縺れるばかり。
 それなりに読ませるし、かなり考えられているのは分かるのだが、ハラハラ・ドキドキも程々、盛り上がりも程々。各所の詰めの甘さも気になる。歴史小説と推理小説の良いところ取りをしようとしたのだろうが、どちらにも成り切れていない所が惜しい。

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  水野 裕明
 
評価:★★★☆☆
 軽妙で洒脱、読みやすい語り口がなんとも快く、すらすらと読めてしまった。紀伊国屋文左衛門が実は紀伊徳川家の意を受けて将軍職を継ぐために工作するために江戸に来た、という途方もない話を、いかにも本当らしく語る。いわばちょっとスタイルの違う伝奇小説なのだが、なかなかに楽しく読める1冊だった。ただ黒幕がわかったと思ったその次の章ではではさらに裏で糸を引く人物がいる、というタマネギの皮を何度も何度も剥いていくような話の展開に途中でちょっとだれてしまうのが難点といえば難点だろうか。前回の課題図書である「魔岩伝説」といい、最近の時代小説はアイデアと語り口が斬新で、魅力的な感じを受けた。

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