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勝手に目利き
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文庫本班
死日記
死日記
桂望実 (著)
【小学館文庫】
税込580円
2006年7月
ISBN-4094080937
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  久々湊 恵美
 
評価:★★★★★
 あまりにも悲しい。読んでいて主人公の少年のすがりつくような思いに、胸のつまるような思いをしました。
 児童虐待をされている少年の死に至るまでの日記。どこまでも母親を信じている姿がもう辛くて辛くて。自分を殺そうと思っている母親のそばを、予感はありながらも最後の最後まで離れる事ができなかった少年の心があまりにも清らかで哀しくて。
自分の子供を保険金のために殺そうと計画する。
 これはフィクションだけれど、もう実際に起こっている事件の日記を読んでいるようで。現実にもこんな事件が世の中には溢れているのだ。という事も考えさせられました。残念なことではあるけれど、物語よりも現実の方がもっと残酷であるのかもしれません。
少し乱雑な文章もところどころあるけれど、読むにつれどんどん引き込まれてしまい、それも気にならなくなっていきました。
 読むのが辛くなってしまうけれど、是非手にとって欲しい一冊だと思います。

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  松井 ゆかり
 
評価:★★★★☆
 子どもは時にやっかいな存在である。生まれたての頃はひとりでは何もできないし、大きくなったかと思えば反抗するし。産んだが最後、親は子に振り回されっぱなしである。そんな生活の中で子どもに本気で腹を立てたり、うっとうしく感じたりする気持ちはもちろん理解できる。一度や二度手を上げてしまったとしても、それを厳しく糾弾できるほど私は立派な親ではない。
 しかし、恒常的な暴力やまして手にかけるような行為となれば話は別だ。どれほど手を焼かされても、親にとって子ども以上に大切な存在などない。
 主人公潤の母陽子はそうは思わなかったのだろうか。息子よりも加瀬という男が大事だったのか。加瀬は「愛してるって言ってくれた」からと言うが、潤はもっと純粋に見返りなど求めず、陽子を愛していたというのに。

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  西谷 昌子
 
評価:★★★★☆
 文章はほぼ少年の日記という形式で進められる。14歳の少年が、貧しいながらも懸命に生きている。しかし母親に恋人ができてから、少年の生活にはしだいに不穏な影がさしていく。少年が純真すぎ、優等生すぎるのが何だかなあ、と思わなくはないが、優等生の中学生なら、わざと自分を理想系のように誇張して日記に書くこともあるだろう。読み進めていくうち、一生懸命に生きている少年に「頑張れ」と言ってやりたくなる。そんな彼を襲う犯罪。なぜこんな子を……と悔しくなる。
 読んでいるときはとても面白く、夢中で読めたのだが、子供が殺される事件が連日ニュースを賑わせている折に読んだせいで、複雑な気持ちになった。現実の事件は「純真な子供」と「悪い大人」だけで片付けてはいけないからだ。この小説はその対比があまりにはっきりしていて、それが面白さにもつながっている。だから現実の事件と重ねず、純粋に悔しがって読みたい小説だ。

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  島村 真理
 
評価:★★★★☆
 子どもは親にとってなんだろうかと思う。彼らは、祝福され望まれて生まれてくるものなのに。両親からも周りからも愛されなければならないのに。中学三年の少年田口潤が巻き込まれる悲劇が、彼の日記を通して胸に迫ってきた。逼迫した現実は淡々と語られている。なのに、非情な母親への愛情と思いやりが日記の端々からあふれる。大好きな母だから幸せになってと思う、どちらが大人かわからない。
 それにひきかえ、母親の不在はどうだろう。何日も家をあけ、息子の世話を放棄して、男の尻をおいつづけるバカな女の様といったら。自分が、自分が……という勝手な女。挿入される母のコメントと、潤の日記との温度差に寒々とさせられた。
 けれど、潤の周りには手助けしてくれる優しい手がたくさんある。さすがに、おとぎ話的な状況ではあるが、ゆがまず、人の優しさを汲み取れる子であるというだけで救われる。でも、現実はどうだろう?彼らみたいな子どもの行く末は?そう考えるとせつなくなってしまった。

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  浅谷 佳秀
 
評価:★★★☆☆
 この作品は、ある中学生の書き遺した日記を中心に、中学生の母親と、日記を読みながらその母親を尋問している刑事との、取り調べ室での会話を挿んで構成されている。
 ギャンブルにのめり込み暴力を振るうろくでもない男に耽溺し、息子のことなどどうでもよくなった母親。それでも少年は母親を慕い、新聞配達をして家計を支えつつ、日々の生活の中の小さな喜びを掬い上げて、平明な言葉で日記に書き残してゆく。愚かで酷薄な大人たちに比べ、痛々しいほどに心優しい少年。彼の辿る運命は分かっている。そのため日記が終わりに近づくにつれ、読み進むのが辛くなる。
 男に貢ぐ保険金に変えるために、我が子の命を差し出した母親には実在のモデルがあり、その事件は八年前、九州で実際に起きている。どれほど残酷で扇情的なサスペンス小説やドラマも、こんな現実にはるかに及ばないと実感させられた事件だった。
 ひたすらやるせない読後感。だがかすかに救いがある。それは少年の親友と、母親を想う少年自身の心だけは、最後まで少年を裏切らなかったことだ。

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  荒木 一人
 
評価:★★★★★
 号泣! 平凡で淡々とした始まり、切ない中盤、ラストは涙で前がみえない。これが、デビュー作とは驚くばかりだ。主人公の日記を軸に描かれている小説だが、のめり込める。確かに、中学生がここまで書けるのかという若干の疑問は無くも無いが。自分でも不思議な程、激しく感情移入してしまう。
 田口潤は、中学三年への進級を機に日記をつけ始める。母子二人の何気ない生活に割り込んできた、加瀬。いつも気に掛けてくれる優しい友人、小野大祐。何とか手助けしようとする担任教諭、清水政信。親切な用務員のおじさん。何かと気遣ってくれる、新聞専売所のおじさん。潤の周りの人間は、心優しく暖かい… 一番近く一番愛して欲しい人、母親の陽子だけを除いて。彼女の感情にだけ陰が潜む。
 最近、実にタイムリーと言えば不謹慎かもしれないが、非常に似た事件が起きている。自己愛にのみ生きる人間の鼻白む程の醜悪さ。人の心には、こんなにも闇が在るのかと慄然とする。逆に、こんなにも全てを受け入れる事が出来る人間にも驚嘆するばかりだ。

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  水野 裕明
 
評価:★★★☆☆
 中学生の日記で始まるこの作品は、間にその母親の取り調べの様子が折り込まれて徐々に全体像が分かるような構成になっていて面白く、日記そのものも少年の毎日が貧しいながらも楽しげに生き生きと描かれ、友人や助けてくれる周囲の人の優しさ暖かさが伝わってきて、思わず引き込まれるように読み進めてしまった。が、それにも増して取り調べで徐々に明らかになっていく母親の行動との落差がより興味をかき立てた。そして驚きの結末!というか、残念ながら今や新聞の社会面やテレビのニュースでイヤというほど見聞きする真相があばかれる。ある意味ミステリーとしても読めるが、母親を取り調べる刑事の陰影ある性格や日記の書き手である中学生の素直さなど、キャラクターと生き方をじっくり読み込む方がもっとこの作品を楽しめるだろうと思えた。

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