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月が100回沈めば
月が100回沈めば
式田ティエン (著)
【宝島社】
定価1680円(税込)
2006年6月
ISBN-4087747956

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  清水 裕美子
 
評価:★★★★☆
 式田ティエン氏の作品は初読なのだけど、一体どういう人なのか、ページをめくるほどに知りたくなる。
 高校生のコーは、サンプルという「普通の高校生」としてアンケートに答えるだけの暇なバイトをしている。サンプルとなった高校生同士は個人的に接触してはいけない決まりがある。しかし、密かに友人となった佐藤アッチが行方不明となり、コーは彼を探して渋谷の街を探偵に回る。渋谷の夜に活動する様々な人々と知り合う。
 そんな風に物語のベースはミステリー系。だけどページの大半はオモシロ会話なのだ。ベンチャー企業家飲み会トークといってもいいかもしれない。映画について、マーケティングについて、CRMや階級化が進む市場、銀行の1円未満端数を集めたらどうなるか。そして背景は家族の物語でもある。絞ってあればもっと感動したかもしれない。でも作者が繰り広げる登場人物の言葉を借りた雑談(失礼!)がとても贅沢だと思う。
 読後感:盛り沢山。最後に沁みるタイトルがいい。

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  島田 美里
 
評価:★★★☆☆
 いまどきの高校生って、なんでこんなに渋いのだろうか。他の人との違いをとにかく見つけたい盛りに、「普通とは何か」だなんて考えもしなかった。大人も教えてほしいくらいの難しいテーマである。
 高校1年生のコースケは、市場調査する会社で、普通っぽい感性でアンケートに答えることを要求される「サンプル」のアルバイトをしている。サンプル同士で会ってはいけないという規則や、その規則を破って会っていたサンプルのアツシの失踪には、すごい仕掛けがあるんだろうなと期待させられた。普通が求められるサンプルにしては個性的で美人な弓と一緒に、謎を追うのだが、どうもミステリという感じがしない。なかなか明かされなかったコースケの家庭事情の方がよほど驚きだった。
「普通が大好きだ」というコースケの父の言葉を深くかみしめるほど、自分だけのスタンダードが何なのか突き詰めたくなった。もう少し、父と子の話を長く読みたかった。そうすれば父親の名言に、もっとぐっときたのに。

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  松本 かおり
 
評価:★★☆☆☆
 高校生が動く話といえば、必ずといっていいほど仲間に女子高生が加わり、怪しげな兄ちゃん連中やオトナが脇を固めるものだが、本作もまたしかり。しかも、ちょい役が多すぎて気が散る。女子高生・弓のうるささにも閉口。発言はいちいち正論だが、正論をくどくど聞かされるのは鬱陶しい。結局、主人公の高校生・コースケの自分探し物語か、行方不明バイト仲間捜索ミステリなのか、どっちつかずの中途半端な印象。
 また、「自分が嬉しいことは他人も嬉しいし、自分が嫌なことは誰もが嫌なのだと気づいている」ことを「他者や世界への想像力があることだ」としている部分には、共感できない。それは自分の価値観・判断の、他者への押し付けであろう。想像力があるということは、<自分が嬉しくても他人は嫌かもしれない、自分が嫌なことでも誰もが嫌がるとは限らない、と思えること>だと私は考える

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  佐久間 素子
 
評価:★☆☆☆☆
 高校生のコースケはサンプルのアルバイトをしている。サンプルとは普通の高校生の代表として選ばれた、市場調査の対象だ。サンプル同士は知り合ってはいけないし、口外も御法度だが、コースケはアツシと知り合った。行方不明になったアツシを探し、コースケは美人女子高校生サンプルの弓に接触。渋谷を舞台に彼らの調査が開始する。
 探偵小説好きの弓の小理屈に、はじめはふむふむと興味をもって読んでいたものの、弓に関心をよせる社長やらコンビニ店長やら、果てはコースケまでもが本筋とは関係ないことを垂れ流しだすので、だんだんうんざりしてきた。説教くさいったらない。本筋のミステリ部分がお留守な印象は否めず、オチも納得いかないとあっては、ありもしない根性で最後まで読んだ甲斐もなかったという気もち。あ、ひょっとして、本筋は説教の方だったか。こういうのが好きな人にはたまんないのかもねえ。私はちょっとパス。

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  延命 ゆり子
 
評価:★★★☆☆
 サンプルという名の市場調査のアルバイトをするコー。セルと呼ばれる個室に入り、アンケートに答える他は自由にその時間を遊んでいても良いという楽なバイトだ。そんな中同じバイトをしている佐藤アツシが忽然と姿を消した。巷で起こっている中学生の連続行方不明事件との関連は? この怪しいバイトの裏に潜む実態は? 佐藤アツシを探すため、コーは新しい仲間を増やしながらいくつもの謎に挑んでゆく。
 事件の全貌が明らかになるまでに様々な人物が登場し、ヒントを提供してくれる。なんだかRPGのようだ。探偵小説好きの美人高校生の弓。荒天仕様のパソコンオタク少年A。話し出すと止まらないコンビニの店長。やけに街の情報に詳しいDP1……。
 ストーリーはともかく、登場人物が語り好きなのが気にかかる。社会への風刺や批判も合間に入ってくる。曰く「坊ちゃんとホールデンが似ている」。曰く「探偵の仕事とは世界に意味を与えるということ」。市場経済の崩壊、階級社会への警笛、大衆管理のための市場調査……。筋とは関係ない語りが多くて、はっきり言ってゴニョゴニョうるさい。これだけ丹念な仕掛けを施している小説。ストーリーだけでぐいぐいと読ませて欲しいと思った。

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  新冨 麻衣子
 
評価:★★★☆☆
 主人公ののコースケは渋谷で妙なアルバイトをしていた。毎日好きな時間だけ事務所の個室で遊び、アンケートに答える、という目的のよくわからない<サンプル>になる。両親以外にこの仕事について口外しないこと、またサンプル同士は仕事場以外であっても話しかけてはいけないということ、そのルールさえ守れば楽に金の入る仕事だ。ところがある日コースケは、同じサンプルであるらしいアツシから話しかけられ、時折行動をともにするようになるが、そのアツシがぷっつりと姿を消した……。
 悪くはないが新鮮味もないな、というのが正直な感想。夜の渋谷を舞台に消えた少年を追う!ていう手垢のついたストーリーもそうだが、コーと父親との関係においても予定調和な感じ。テンポがいいのでぐいぐい読めるんですけどね。キャラがイマイチたっていなかったのが残念か。

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  細野 淳
 
評価:★★★★★
 渋谷の調査会社でサンプルというアルバイトをしている主人公。そこで知り合った友達が行方不明になり、彼を探し出そうとする。その最中に出会ったのが、同じアルバイトをしている弓という女子高生。彼女と共に、主人公は渋谷をあちこちと回ることになる。今まで関わったことの無いような人たちと話をするようになり、段々と友人の足跡が見えてくるのだが……。
 物語の最初で主人公があらかじめ断っているのは、「普通」の人が話す、「普通」の話であるということ。とは言っても、主人公がしているアルバイトは普通の高校生がするようなものでは無いし、遭遇する事件も普通の人々には体験できないようなもの。徐々に明らかになっていく、主人公の置かれている境遇・家族関係も、ひょっとしたら普通ではないのかも知れない。
 でも、物語で最終的に使われている意味での「普通」とは、画一的という意味では決して無い。他人の眼ばかりを気にしていた高校生が、本当の意味での「普通」とはどういうことかと自らに問い続け、考えながら、人間的に成長していく話でもあるのだ。

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