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温室デイズ
温室デイズ
瀬尾 まいこ(著)
【角川書店】 
定価1365円(税込)
2006年7月
ISBN-4048735837
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  清水 裕美子
 
評価:★★★★☆
 いじめ・学級崩壊、これらを解決する話では無い。タイトルにあるように学校は温室の中にあるのだ。みちると優子が感じるように、ここには無茶をしても許される"ぬるさ"がある。失敗してもやり直せる機会がある。
 終礼でみちるはクラスメイトの前で言い放つ「……みんながちょっとがんばったら、きっとなんとかできるんじゃないかな」。正しいことを公言する。そして翌日から標的になる。エスカレートする攻撃に父親が気付く。耐える。そんな風にツライ物語が続くのだが、そこは温室の中だと作者は知っている。いじめる側が鬱々と自分自身をいじめる様子を淡々と描き、パシリの少年が(ちょっと救い)明るく役割を果たす日々を伝える。例えば、ここに登場するクラスメイトが30代になって「あの時イジメに加担したでしょ」と問われたら、きっと彼らは終礼で自分が攻撃されたことを一番覚えているのだろうな、そして日々の生活で温室の日々はノスタルジーに包まれているのだろうな、と思う。
 読後感:不良更正の操作主義はちょっと……。

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  島田 美里
 
評価:★★★★☆
 小学、中学時代に、暗い学校生活を送ってきた人が、この物語を読むのはとても苦痛だと思う。すっかり治ったはずのケガの痛みを思い出したみたいに、鬱々とした気持ちが甦ってくるのだ。
 描かれているいじめの陰湿さが半端じゃない。机を外に放り出されたり、かばんをぼろぼろにされたり、弁当はゴミ箱に捨てられたりと、読んでいてぞっとする。外敵から守られた学校という空間が、本当は殺伐としていることを、著者はとてもよくわかってる。美しい容姿のせいでいじめられがちな優子も、そんな彼女をかばっていじめのターゲットになってしまうみちるも、キレやすい性格をコントロールできない少年・伊佐も、どこにも逃げ場を持たない。タイトルの「温室」とは学校のことを意味しているが、その平和な言葉のイメージからは想像もつかない閉塞感が恐ろしい。
 個人的には、これを読んでも二度と中学時代に戻ってやり直してみたいとは思わないが、今まさに戦っている人たちにぜひおすすめしたい。学校生活を放棄することなく、がんじがらめの状態を打ち破るヒントが見つかるはずである。

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  松本 かおり
 
評価:★★★☆☆
 小学校高学年から中学校まで延々と続く、陰湿でタチの悪いいじめ風景がリアル。小学校時代に「いい気になって」いじめの先頭に立っていた女子・みちる、いじめられっ子が転校するに至って「後悔した」「悲しかった」「うわべの楽しさに流されてしまっていただけ」とは、確信犯のくせに笑わせる。小6にもなって相手を追い詰めることがわからないのは馬鹿だ。しかし、そのいじめられっ子も奇妙なのだ。中学入学式の日にかつて自分をいじめた連中と再会し、「懐かしそうに声をかけていた」ときた。お人好しなのか、ヌケてるのか。過去は水に流してオトモダチ、そんな都合の良すぎる人間関係には納得できない。
 みちるが、「強い立場」にいた人間特有の鈍感さ、空気の読めなさゆえに中学校で執拗ないじめに遭うのは当然のなりゆきだが、今度は<いじめに屈せず学校を救う>ヒロイン気取り。何なんだ、この展開。学校がそれほどご大層な場所か? ピンとこない話である。

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  佐久間 素子
 
評価:★★★☆☆
 うう、詐欺だ。こんなヘビーないじめ小説を読まされるとは思っていなかった。著者とは同世代。いじめが流行しているときに、ちょうど現役バリバリの子どもだったから、私なんて、今でもいじめの話になるとひるんでしまう。次の標的が定まるまでの空白期、めだたないように息をひそめるあの閉塞感、自己嫌悪、もうありありと思い出しちゃって大変大変。
 毅然としていたがために標的にされ、静かに戦い続けるみちる。無理せず教室から逃げる優子。二人の賢い女の子は、お互いを支えとしながらも、お互いを頼らず一人で立とうとする。二人の姿勢は、ある意味、いじめという行為への模範回答。エンディングはちっとも奇跡なんかじゃない。彼女たちが正当に勝ち取った成果だろう。でも、誰もがこんな風に強いわけでも賢いわけでもない。「こんなにも簡単に溶かせる魂を、どうして、みんなほうっておくのだろう」。誰もが恐れる札付きの男の子に、なんちゃってカウンセリングをほどこす優子の言葉が痛い。大人である私は、座して胸にきざむことくらいしかできないのだけれど。

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  延命 ゆり子
 
評価:★★★☆☆
 いじめ、校内暴力、保健室登校、登校拒否、学級崩壊……。主人公のみちるは人の心が荒廃したこの中学校を何とか踏みとどまらせようと孤軍奮闘する。しかしその姿が「ウザイ」と疎まれて、猛烈ないじめを受ける。小学校時代からの友人優子や、ヤクザの息子に生まれた悩める不良の瞬、はじめからパシリに甘んじる斉藤くん。友人達の力も加わって少しずつ学校は変わってゆくのだが……。
 だがしかし、この小説では瀬尾まいこ特有の、心温まるような読後感は得られなかった。中学校では今何が起こっているのか、というシリアスな問題提起をするための作品としか思えなかったのだ。私は今の中学校の実情なんて全く知らないし、興味もなかった。しかしこれが中学校の抱えている現状だとしたらなんて救いがないのだろう。「子どもに救いの手を差し伸べてくれないなら、せめて現状を見据えてほしい」という作者の、叫びに似た声が聞こえたような気がした。

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  新冨 麻衣子
 
評価:★★★☆☆
 窓は割る(基本ですね)。教師に暴力は振るう。学級崩壊どころか学校崩壊に近い、最悪の中学校でのサバイブはどこまでも過酷だ。どうにかまともな教室に戻したいと真正面からクラスメイトたちにぶつかるも、逆にいじめを受けるみちる、そんな教室の雰囲気からひたすら逃げる優子、自らクラス全体のパシリ役を引き受けることによって教室内での立場を確保する斉藤。三人はそれぞれ自分の居場所を守ろうと奮闘するが……。
 あの時代を懐かしく思い返せる大人が読むには、いい物語だと思う。だって三人ともまわりに同化することなく、自分というものを信じているもの。誰もがそうでありたかっただろう。でも現実にはまわりに併合するしかなかった人のほうが多いだろう(わたしはそうだった)。この物語の主軸となる三人は実は誰よりも強いのだ。だからこの物語は安易で、読み心地がいい。
 ただハードな現実を描いているようで、実はファンタジーであることを忘れてはいけないと思う。現実の<みのり>のそばには優子も斉藤も吉川先生もいないのだから。

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  細野 淳
 
評価:★★★★☆
 中学校での学級崩壊を、真正面から扱った作品。先生に対する嫌がらせから、器物破損・登校拒否・いじめにいたるまで、どの場面も詳細に描かれている。主要な登場人物である二人の少女も、一人はいじめに遭い、また一人は登校拒否になっているという状態。でも、この少女たちが絶望に打ちひしがれて、ただ何もせずに鬱々と毎日を過ごしているわけではない。今の自分たちの状態に耐えながらも、あきらめず、どうにか前進しようとする姿が印象的。
 ただ、主人公たちを取り囲む環境が良い方に向かっていくのは、物語の後半に入ってから。それもほんのわずかずつ、前進していくだけのことだ。でも、そんな少しずつの変化が、結果的に何かを変えていくことに繋がるのではないか。そんなことを思いながら、自分自身が励まされ、また二人の少女を励ましたくなってくるのだ。

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