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ウェルカム・ホーム!
ウェルカム・ホーム!
鷺沢萠 (著)
【新潮文庫】
税込420円
2006年9月
ISBN-4101325200
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  久々湊 恵美
 
評価:★★★★☆
家族って素敵だ!何だかそんなこたぁわかっているよ、なんて言われてしまいそうですが、とにかくそんな事を思わせられる一冊でした。
世間の常識とは違う、ちょっと変わった関係性の人間達が一つ屋根の下で暮らしている。
それぞれ、結婚に失敗したり、仕事に失敗したりしてフツーの誰もが思い浮かべるような家庭生活を送っていない人々。
時にはフツーではないことに、後ろめたい気持ちになったりもするのだけれど、そんなことは吹き飛んでしまうくらい同居している人間の事を大切に思っていて。
そこに信頼関係や相手を思いやる心があれば、それは家族と言っていいんじゃないかって、素直に心から思えました。
読んでいるうちに何だか泣けてきてしまって。ああ、いいなあ。きっとこんな風に人は生きていくんだなあ。と嬉しくなってみたり。
家族ってなんだろうな、とちょっとでも考え込んでしまう瞬間があったら、またこの本を読んでみようと思ってます。

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  松井 ゆかり
 
評価:★★★★☆
 鷺沢萠という作家のデビューは衝撃だった。清冽な作風、美人であること、そして若さ(自分より年下の作家の出現は、これが初めてだったと思う)。当時数多の物書きが彼女の才能に嫉妬したことだろう。
 そしてそれと同様に、いやそれ以上に、鷺沢萠の逝去は衝撃だった。精神的に不安定だったということも言われているようだったし、最近は小説のうまさに対して作家としての知名度が追いついていないという感じもあったかもしれない。
 「ウェルカム・ホーム!」は鷺沢さんが自らの命を絶った直後に読んだことがあって、今回は再読である。今にして思えばショックで頭に血が上っていたと思われる初読のときよりも、ストレートにこの本のよさが伝わってきた。収録の2編はどちらも世間一般の“家族”のイメージから遠い共同生活の有り様を描いている。フツーでなくてもいい、と全編を通じて登場人物たちに温かい眼差しを注ぐ著者本人が、自分ではとうとう現実の厳しさから逃れられなかったのだろうか。それでも彼女の遺した作品は、私たちの心を温め続ける。

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  西谷 昌子
 
評価:★★★★☆
 ホーム――家族の物語だ。母親がおらず父親が二人の家庭など、少し変わった家族の姿が綴られる。とても温かい気持ちにさせてくれる。血がつながっていてもいなくても、何人かの人間が不器用に寄り添い、一緒に暮らすべく試行錯誤している様子に、「ああ、こんな家族が欲しいなあ」と思わせられる。
彼らは最初から気が合うから家族になったというよりも、一生懸命家族になろうとしている。友人の息子でも、夫の連れ子でも、関わり合ううちに主人公自身が少しずつ変わっていく姿がいとおしい。そうしてつくりあげた家族だからこそ、ただ一緒にいる家族よりもずっと強固な絆で結ばれるのだろう。そんな、とても羨ましい光景を見せてくれる小説だ。

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  島村 真理
 
評価:★★★☆☆
 唐突だけど“縁”という言葉が好きだ。夫婦になるのも親子になるのも、友達同士になるのもなんらかの“縁”に導かれているのではないかと思う。もちろん、たくさんの“縁”というつながりの切れ端を選んでつかむのは自分自身だけれど。
 親友の家で“シュフ”している元シェフ渡辺毅、前夫の連れ子と引き離されたキャリアウーマン児島律子。いままで見えなかったつながりが、ストーリーが進むにつれキラキラと浮き立ってくる。心がほんわかと温かくなるふたつの物語だ。
 「愛があるというのはこういうことだ!」と大声で言いたい。かたや、親友の息子を育てる男、かたや、血縁者の誰よりも継子に愛情をささげる女。時には迷うし、不安になるけれど、形とかそういうものに囚われない人たち。自らが得た“縁”を大切に包み込む愛情あふれる人たちなのだ。見失いたくない大切なものを教えてくれる。

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  浅谷 佳秀
 
評価:★★★☆☆
 本作は「渡辺毅のウェルカム・ホーム」「児島律子のウェルカム・ホーム」という2つの中編から成っている。「渡辺毅〜」では友人の家で彼の子供の面倒をみながら「主夫」をしている男性が、また「児島律子〜」では、結婚生活に二度も破れながらも仕事を続けつつ、二番目の夫の連れ子との関係を模索する女性が主人公になっている。どちらの主人公にもちょっとしたこだわりがあって、いろんなものを失いながらも「フツーはそこまでしない」というようなことを、相応のプレッシャーを抱えながらも頑張って実践し、やがて大切なものにたどり着いてゆく。「フツーでない」生き方を選択した「ごくフツーの」人たちの物語だ。
 こういうちょっとねじれた生き方を強いられているような人たちに対する作者の眼差しの優しさに、こちらのハートもあったかくなる。愛こそすべて…作者のメッセージはシンプル。ある意味、拍子抜けしてしまいそうなほどにまっとうな物語だ。こんなにも希望にあふれた小説を書き残しながら自ら逝ってしまった作者は、いったいどこにたどり着きたかったのだろう。

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  荒木 一人
 
評価:★★★★★
 中編二編が入った、2つの家族の物語。一編は、今時の家族の有りようなのか、ちょっと不思議な家族。もう一つは、浪花節だよぉ。読後感は、どちらも暖かく爽快。とても良い気分になれる一冊。

渡辺毅のウェルカム・ホーム:元シェフのシュフ渡辺毅は、父子家庭宅に居候中。ひょんな事から、居候先の6年生の子供が書きかけていた作文を見る事になり……。押さえ込んでいた悩みが浮き彫りになる。
児島律子のウェルカム・ホーム:日本でいちばん有名な外資系の証券会社の東京本社。そこでバリバリ仕事をしている児島律子の元へ、場違いな雰囲気を持った、ごく普通の学生さんの様な若者が会いに来た。

 本当の家族とは、古い因習に縛られた家族と言う枠組みでは無く、人と人が思いやり、心が繋がった形を家族と言うのだろう。本当は、簡単な事である、他人を思いやれば良いのだから。この様な作品をもっと読んでみたいと思うと、残念である。急逝した著者を悼み、合掌。

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  水野 裕明
 
評価:★★★★★
 なんと心温まるいい小説なのだろう、収録されている2作品ともによくできたストーリーで、これほど心地よい読後感も久しぶりであった。2話ともに血の繋がりのない親子や家族の物語なのに、家族の思いやりや交流が本当に暖かい眼差しで描かれている。こんな家族があってもいいよなぁと思ったり、我が家のありようを思い直してみたりと、いろいろに考えさせられ、しかもやさしい気持ちになれた。本当に傑作だと感じさせられた1作。特に、「渡辺毅のウェルカム・ホーム」の中で“自分に向いてない分野のことは、向いているヒトに任せる。そのかわり、自分は自分に向いている分野で役に立つ。男とか女とか、そういうことカンケイない時代だと思います。”という主人公の1人に語らせる言葉が印象深い。これからの時代のあるべき価値観をごくごくフツーにカンタンに語ってしかも、暖かい。もっともっと傑作を、これを超える最高傑作を書けたろうに、急逝したのが惜しまれる。

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