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風の影
風の影 (上・下)
カルロス・ルイス・サフォン (著)
【集英社文庫】
税込780円
2006年7月
ISBN-4087605086
ISBN-4087605094
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  久々湊 恵美
 
評価:★★★★☆
こんなにも盛りだくさんな内容だとは!
ワクワクしながら読みました。かなり盛りだくさんの内容で展開していくので、このパターンは詰め込みすぎて破綻していくのでは?なんて懸念があったのですが、
それも吹き飛びました。
エンターテインメント小説として、何も不足なし!といってもいいんじゃないでしょうか。本当、贅沢なつくりになっています。
古書店を経営する父親と少年ダニエルが『本の墓場』へ行き、フリアン・カラックスの『風の影』という本に出会うといった始まりなのですが、この『本の墓場』という場所が、なんとも謎めいている場所で、のっけから引き込まれました。
この一冊の本をめぐって、様々な男女の悲恋、混乱のなかにあるスペインの歴史が次々に展開していきます。
その展開が、ミステリかと思えば恋愛小説に、かと思いきやホラーの様相もみせてみたり。など先が全く見えないので、まさに息をつく暇もなく読んでしまいました。
物語がひとつにまとまっていくその力は、本当素晴らしいです!

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  松井 ゆかり
 
評価:★★★★☆
 謎に満ちた作家というのは、なんと魅惑的な存在であることだろう。J.D.サリンジャーしかり、トレヴェニアンしかり、舞城王太郎しかり。「風の影」とは、作中に登場する謎の作家フリアン・カラックスが著した小説の題名でもある。そしてそれは、主人公ダニエルが“忘れられた本の墓場”で見つけた運命の本となった…。
本好きとしてはこの設定だけでわくわくしてくるが、ミステリーとしてもしっかりした筋立てで読み応えがある。恋愛あり冒険あり親子の絆ありの盛りだくさんな内容だが、特に胸を打ったのは登場人物たちの友情であった。揺るぎないものもあれば、すでに失われてしまったものもある。それでもかつてそこに友情と呼ばれる感情が存在したという記憶は、いつまでも人の心に残るものだろう。

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  西谷 昌子
 
評価:★★★★★
 まず最初の、「忘れられた本の墓場」でノックアウトされない本好きはいないのではないか。この世から失われた全ての本が最後にたどりつくところ――なんと魅力的なのだろう。そして、ある本をめぐって次々と怪奇事件が起こる。ある作家の本だけを燃やし続ける謎の怪人、亡霊の噂がある古い館。少しずつ謎が解かれるにつれて、過去の哀しい事件が明らかになる。
本への愛情をいやというほどくすぐられながら、幻想的な雰囲気に酔いしれ、登場人物たちの深い哀しみにどっぷりひたって、読後しばらく帰って来られないくらい夢中になった。理屈抜きに酔うことのできる極上の小説。

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  島村 真理
 
評価:★★★★★---
 少年ダニエルが父に連れられ「忘れられた本の墓場」を訪れる場面が忘れられない。特に、どれでもいいから気に入った1冊を選んでいいというところ。そして、自分でそれを守りなさいと言われるところだ。
 古びた紙とほこりのにおいのする本の迷宮で、誰からも忘れられてしまった物語を自分がひろいあげるなんて、すごく魅惑的なことだ。とにかく、読書家は、人が知らない良書、すぐれた作家を掘り当てること(金脈をみつけるみたい)に歓びをみつけてしまうから。
彼は「風の影」という本を選び、作者を探し始めたことで、壮大で悲しい事件に巻き込まれていく。そして、物語とダニエルの生涯がリンクしていく。ちょっとでも目を離すのが惜しくて一気に読み終えてしまった。
 謎の作家フリアン・カラックス、焼け爛れた顔を持つ男、身に迫る危険、そして、ダニエルの恋。どれも見逃せない。さまざまな謎と冒険と愛が渾然一体となったすばらしい1冊です。

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  浅谷 佳秀
 
評価:★★★★★
 舞台はスペイン・バルセロナ。第2次世界大戦も終結に向かう1945年、主人公のダニエル少年が父に連れられて「忘れられた本の墓場」を訪れ、1冊の本と出会うところから物語が始まる。その本の名は「風の影」、作者はフリアン・カラックスなる謎の人物。このプロローグで早々と虜になった私は、そのまま一気読みし、最後に添えられたエピローグで涙腺を大いに刺激された。
 ダニエル少年がフリアンの足跡を追うにしたがい、この2人の運命は次第に重なり合い、渾然ともつれてゆく。運命の恋に落ちたフリアンを待ち受けていた悲劇を、ダニエル少年もまたそっくりにたどってゆくのだ。行く手に立ちふさがるのはバルセロナ警察の刑事部長にして憎悪の権化フメロ。そして彼らを取り巻く多くの登場人物のエピソードもまた時空を超えてシンクロする。絡み合う物語がクライマックスに向けて解きほぐされてゆくさまはまるで手品のよう。
 そういえば私の長男も「風の影」に出会ったダニエル少年と同じ年頃だ。この本を手にするのはまださすがに早いだろうが、いずれ薦めてみたい。

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  荒木 一人
 
評価:★★★★★
 「快なる哉! この一冊」手法は一見単純に見えるが、読ませる。“THE 小説!”の台詞が良く似合う。全てのエンターテインメントが盛り込まれており、帯の台詞は大袈裟では無い。もしかしたら、次の100年に残る小説になるかも知れない。
 1945年、長い夏がはじまりかけた日。突然、朝の五時に十歳の主人公・ダニエルは父に起こされる。誰にも話してはダメだと口止めされ、連れられて行った場所は「忘れられた本の墓場」。運命の本 『風の影』(フリアン・カラックス) に導かれる。
そして、父からのプレゼント、かのヴィクトル・ユゴーも愛用した、伝説のモンブラン・マイスターシュテュックを手にする。
 年齢を問わず楽しめる。人は幾つになってもワクワクしたいものなのだろう。煩雑な日常を忘れせてくれ、心を解放してくれる。彷徨っているのは、ダニエルなのか?それとも、自分自身なのだろうか? こっそり座右の書へ並べた。

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  水野 裕明
 
評価:★★★★★
 これぞ物語の醍醐味、小説の愉悦。内容の密度も高く、プロットもしっかりとしていてストーリーに起伏がありページを次々とめくる楽しさがあふれた傑作。「忘れられた本の墓場」というあふれるほどの古書を集めた屋敷で運命の1冊と出会う冒頭から、稀覯書の奇譚に始まり、謎の作家の探求はいつしか主人公の少年の恋愛譚となって、さらには成長物語へと変化していく。そして、物語は謎の作家の生涯を辿る物語となり、それはまた現代へとつながって主人公の少年の生活とオーバーラップしてくる。構想は雄大にして、内容は盛りだくさんなのですべての要素は渾然一体となって圧倒的なスケールで迫ってくる。物語を読む楽しさを本当に満喫させてくれた1冊。本好き、読書好きの人にはぜひ読んでもらいたい傑作である。

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