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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2006年12月の課題図書
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水滸伝(1)
水滸伝(1)
北方謙三 (著)
【集英社文庫 】
税込630円
2006年10月
ISBN-408746086X
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  久々湊 恵美
 
評価:★★★★☆
長いしなあ、と今まで敬遠していた水滸伝。事前の知識も何もなくまっさらな状態で読み始めました。
次々と登場人物が出てくるので、途中で混乱して何度も確認しながらじゃないと先に読み進める事ができないのではないだろうか。
なんて不安もあったのですが、わかりやすく人物説明がなされているのでそういったストレスを感じる事もなく物語りに没頭する事ができました。
とはいえ、何度か読む手を止めてしまいました。続きをどんどん読みたくなってしまってなにやらもったいない気がしてしまって。ああ、貧乏性。
ひとつの目的を持って、男達が腕を上げながらどんどん集結していく様は呼んでいてゾクゾクするものでした。
この先一体どんな展開になっていくのか。まだまだ登場していない人物達はどんな活躍をするのか。非常に楽しみ!
そんなわけで。正直、あまりにも面白い事に驚いた次第です。文庫版が待ちきれなくて単行本売り場に走ってしまいそう…。

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  松井 ゆかり
 
評価:★★★★★
 西村寿行・勝目梓・大藪春彦の愛読者であった亡き父が、北方謙三がデビューしたとき「すごい新人が出てきたなあ」と感慨深げにつぶやいていたのを思い出す(そう、若者たちよ、あの北方先生にも新人時代があったんのだ)。
 その最初の印象が刷り込まれたせいか、北方さんが歴史もの(しかも中国の)を発表し始めたときにはかなり驚いた。「え、あのエロス&バイオレンスの北方謙三が!?」と(←完全にイメージで言ってました、実は読んだことなかったので)。そういうわけで、この壮大な物語がいよいよ完結したと聞いても、北上次郎さんが絶賛されているのを読んでも、「いまさら『水滸伝』でもないだろう(苦笑)」くらいの気持ちでいたのだ。
 が、私はいま激しく自分の不明を恥じている。読み始めたら止まりませんよ、ほんとに!歴史小説は苦手なんだけどとか、登場人物が多すぎてよくわかんないんじゃないのとか、一切心配しなくてよし!そこのあなた、とにかく読んで。

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  西谷 昌子
 
評価:★★★★☆
 不勉強にして水滸伝に関する知識を全く持ち合わせていないので、普通の歴史小説を読むように読みはじめた。
そんな私でも面白く読み進められたのは、第一に作者のキャラクター造形がとても巧みだからだろう。登場人物ひとりひとりの個性が際立ち、各人物ごとのドラマを見せてくれる。また、ひとつの目的のために多くの人間が次第に集まってくる様子は見ていてワクワクする。この人物がどんな役割を果たすのだろう、次はどんな強い人物が現れるのだろう、といった、ものすごく単純だが強いワクワク感。少年マンガのワクワク感にも似ている(ひょっとしたら、少年マンガの担い手たちもこれを読んで夢中になっていたのかもしれない、と思う)。
ただ、随所に出てくる「男だから」「これが男だ」という言葉だけは受け付けられなかった。その言葉が説得力を持つ時代は終わったのではないか。また、女性が判で押したように皆同じ性格なのもちょっと……。

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  島村 真理
 
評価:★★★★★
 長編で中国の古典、そのうえ水滸伝。とくれば、おのずと腰が引けてしまう。一度触りだけ読んでつまらなかったし、きっと自分には楽しめないだろうと。
 けれど、それは単なる思い込みでした。北方「水滸伝」に多くの言葉はいりません。とにかくおもしろいのです。興奮するのです。国を立て直すために集まってくる登場人物たち誰もが魅力的で、熱くて、読み始めたらとたんに引き込まれてしまう。彼らの苦悩や熱意が手に取るようで、いっぺんに好きになってしまうのです。
 解説で知りましたが、元の中国版は、不自然で不合理な部分が多く、物語として成立させるためには徹底的に解体し、一から書き直さなければならないと。それをやってのけたのが北方氏であったと。そうか、かつて読んだ「水滸伝」は、破綻した物語の忠実な翻訳だったから。だから途中で放棄したのだなと納得しました。
 林冲と魯智深、宗江が再会しました。晁蓋率いる新しい仲間たちとも出会い、次回はどんな活躍をするのでしょう。2巻が今から楽しみです。

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  浅谷 佳秀
 
評価:★★★★☆
 一年間採点員をやってきた確実な収穫だったと思えることは、歴史物の本の面白さを認識したこと。高校時代、ひたすら暗記するだけの無味乾燥な世界史にほとほと嫌気がさしてから、ずっと歴史物を避けてきた。歴史物を楽しめるかどうかということは、書評員をやるにあたっての不安要素の一つだったのだが、結果的には歴史物の課題図書で、私にとって☆4つ未満の作品が今のところ一つも無く、これは嬉しい誤算だった。
 さて本作品は全19巻という超大作の最初の巻となる。国家改革のために立ち上がる男たち――元禁軍武術師範の王進、反乱軍の人材スカウトマンとして大陸を放浪する魯智深、金庫番として塩の非合法流通ネットワークを構築する盧俊義、そして反乱のリーダーとなってゆく宋江と晁蓋といった魅力あふれる役者たちが、一人、また一人と舞台に登場してくる。簡潔な文体、鮮やかな場面変換は劇画調で読みやすい。数多い登場人物の描き分けも見事。小説としても十分素晴らしいが、もし「バガボンド」の井上雄彦が漫画化してくれたら間違いなく素晴らしい作品になると思う。

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  荒木 一人
 
評価:★★★★★
 北方水滸伝、文庫で颯爽と登場。 良い!良いです! こういう水滸伝が読みたかった。今までの水滸伝とは解釈も手法も全く違うが、後世にはこちらが残るのかも、と思わせるほど面白い。(吉川三国志の様に中国へ輸出され、受け入れられるかも) 列伝体を無視し、今までにあった矛盾や違和感が払拭されているので、非常に読みやすい。久しぶりに、続巻を買いに走ってしまい、お金使いました。(苦笑)
 十二世紀中国、北宋末期。政治は腐敗し賄賂が横行する。梟雄や奸雄が利権を分け、国を食い荒らし、残った腐肉を名門子弟が食い尽くす。善良なる民達は、明日の糧さえ手に入らない、闇の中。希望という、百八の星達が瞬きだす。
(一巻のツボをひとつだけ、王進が退場しません。)
 百二十回本も吉川英治も柴田錬三郎も、もちろん横山光輝(漫画)も全く問題にしていない、新説水滸伝に成っている。もっとも水滸伝自体、講談が元になっており、何度も書き直されているものなので新説と言うのも変かもしれないが。
実は北方氏の他の著書「三国志」等は、ハードボイルド過ぎて完読していないのだが(もっと言うと好きな作家では無い)、水滸伝に関しては諸手を挙げて受け入れてしまった。それ程、魅力的な話に仕上がっている。兎に角、一巻を一読してみる事をお薦めする。

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