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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年2月の課題図書 文庫本班

邂逅の森
邂逅の森
熊谷達也 (著)
【文春文庫】
税込690円
2006年12月
ISBN-9784167724016
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  荒又 望
 
評価:★★★★★
山の神を尊び、古くからのしきたりに則って狩りを行うマタギを描いた作品。主人公の富治はマタギという職業に誇りをもち、山を離れて何年も経っても、山への想いが心のなかから消えることはない。その真っ直ぐさ、純粋さが非常に魅力的。
狩りの舞台となる山は女人禁制、富治が一時身を置く鉱山も男の世界ということで、全体的にかなり武骨で男っぽい。とはいいつつ、厳しい環境のなか常に危険と隣りあわせで働く富治たちが、女の人にはめっぽう弱いあたりが面白いやら呆れるやら。女性陣の出番は多くないけれど、まさに女は強し、という存在感。
人間対人間のドラマも読みごたえがあったけれど、やはりこの物語の中心は、山、雪、そして動物など自然とのぶつかり合い。鉱山を襲った雪崩のすさまじさや、最終章での富治とクマとの闘いの壮絶さには思わず震えるほど。人間には自然を打ち負かすことなどできない、自然に対して思うがままに振る舞うことなどできない、ということがひしひしと伝わってくる。
マタギという言葉は見聞きしたことがあるけれど、実際の接点となると皆無。自分の日常生活とはかけ離れた場所・人・ものごとについて知ることができるのは、本を読む楽しみのひとつ。その読書の醍醐味を存分に堪能できる1冊だった。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★★★
 壮絶な「生」の現場の証人になった気分だ。静かに目を閉じる。聞こえる。大地から這い出すような雪の舞う音。眼前を捉えたくとも目を開けることも困難な吹雪。雲が去った後のくっきりとした空の色。胸を透くような空気の透明さ。冬が来る。
 小説という舞台の中で人は幾重もの人生を生きることが出来る。それが本読みの醍醐味の一つ。今回用意された舞台は秋田の山奥、マタギ(猟師)を生業とする男の生涯だ。「初マタギ、お手柄でありすた」。山入の儀式もそこで使われる言葉もわからず所在無さだけを痛感したのは14歳。東北の山間部で生きていくためには冬の獲物獲りは必至だった。時は明治。毛皮は軍用に高く売れる。捕獲に向かう一本木な性分は人を恋する思いにも通じ、事態は思わぬ方向へ進んでいく。
 他に選択の道はあるだろうに。何故、そこで生きることに拘るのか。不器用かもしれない。効率も悪いだろう。しかし、そこでしか生きることの出来ない人間は存在する。男も女も。
 これまで読まなかったことを後悔するよりも今出会えたことに感謝したくなる。山の神と対話するように心静かに読みすすめてほしい。北の男の懐にしっかと抱かれてほしい。絶品だ。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★★★
こんなに男が男らしくて素敵な小説は久しぶり。そうよ!男たるものこうでなくっちゃ!!とゾクゾクする。最近は男も、恋人が死んで人目も気にせず号泣したり、女に養われたりしていて、描写される男女の間にあんまり差がなくなってきているから(そうじゃないとフェミニストも怒るし)、久しぶりに見る力強い男らしさに必要以上にキューン…。笑
 もちろんそれだけじゃない。マタギの生活や山の掟、自然の脅威、人間の生きていく道がこれ以上ないというくらい緻密に生々しく描かれていて、そこには性や欲望や死がどろどろぐずぐずと渦巻いている。その全てに“人”として共感せざるを得ず、脳と心のみならず体までもがその感覚についてくるような、一種異様な感動を覚える作品である。
 最後まで五感使いまくり、圧巻の一冊。現代の情けない男性(全てがそうではないのはもちろんのことだが)に失望し始めた女性に読んでもらいたい。そして立ち上がり、教育し直そう。笑

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★★★
 表紙に書いてる漢字を見つけて、娘が読み方を尋ねてきた。思わずスイッチが入ってしまった僕は、熱くウンチクをたれはじめる。
これはな「カイコウ」と読んでやな、思いがけずに出会うって言う意味なんや。近い言葉に「遭遇」があるけれど、二つの言葉には根本的に大きな違いがあってな、会いたくない人に会っちゃった場合が遭遇で、会いたかった人に巡り合えるのが邂逅、わかるか?って説明してみたけれど、小学三年生にはチョット難し過ぎたかもしれない。
 『邂逅の森』これまさに邂逅。
目の前に広がる山深い森からの息吹と、すべてを覆いつくし音までも閉じ込める一面の雪を感じながら、読み終えてしばらくは動けずに、只感動に心打ち震えていた。
 山の神と、それに対峙するマタギ富治の物語。彼の生き様は僕に、人間の愚かさ、自分自身の小ささ、そして真実の愛を教えてくれた。
とにかく圧巻です。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★☆
 ごめんなさい。正直最初は「マタギって言われてもなあ……」と、テンションかなり低めで読み始めました。まさかハードボイルドな漢たちが繰り広げる、ガンアクション満載の良質なエンターテインメント(ちょっと違う気もするが)だとは思いもしなかったので。

 生命を拒む美しき一面の銀世界で、獲物をひたすら待ち続け、標的を限界まで引き付け、ぎりぎりの一瞬で弾を撃ち、敵を仕留める。湧き上がる「勝負ーーー!」の勝ち名乗り……ヘミングウェイの『老人と海』を思わせる、人と自然の対等な格闘には、ぞくぞくしました。この季節に読むと、ほんと、雪原が見えてきます。

 主人公・富治が、一時は山を降りたものの、結局また、山へと帰っていく姿には、こうとしか生きられぬ不器用さと、そうであるからこそかえって美しい、選ばれし者の神々しさが感じられました。人が仕事を選ぶんじゃなくて、仕事が人を選ぶ。それが「天職」というものなんだなあ、と。

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  横山 直子
 
評価:★★★★★
 「この本にめぐりあえて、よかった!」と解説で田辺聖子さんが言われている。同じ思いだと膝を打った。
ここ数年、年末になると読んだ本ベスト5を決めているのだが、何を隠そうこの「邂逅の森」は2004年度のベスト1だった。読後の感動が甦る。文庫本での再会にまた同じ思いに胸を熱くした。
山の狩人、マタギの話だ。農家の次男坊として秋田で出生した富治。次男であるがゆえ、身分違いの恋をしてしまったために、故郷を追われて、職を変えながら点々と移り住む。熊を追うマタギの仕事に心底惚れ、人生の要で出会った縁を大切する彼の生き様。この実直さに胸を打たれた。
再びマタギに戻る富治。最後のマタギで巨グマに立ち向かい、瀕死の状態におちいるも、妻の元へ帰りたいという心の底からの思いが彼を奮い立たせる。
冬山の凍てつく寒さとクマに襲われた強烈な痛みを肌で感じ、ただただ感動にうなるのみ。

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