三浦 英崇の<<書評>>
仙人になるための教科書みたいなお話です。曰く、求められない限りは、決して人の心の奥底に踏み込まない。自由を享受する代わりに孤独を受容する。背負い込んだトラウマは、いっぺんに解決しようとせず、時の風化作用を待つ……
淡々と、飄々と、日々を過ごす河野の姿を、羨ましいと思いつつも、俺にはたぶん、こんな人生は3日と耐えられないだろうなあ、と思いました。優しさだとか、悲しみだとかに対峙した時、節度を持って行動するには、俺はまだ枯れ方が足りないので。
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迷った結果、ファンの方には申し訳ないのですが、あえて、俺は死者に鞭打つようなことを書きます。こんなにも生き生きとして、自分の人生を謳歌している登場人物たちを置き去りにしたまま、一人でこの世から去っていった作者に、俺は怒りと哀しみを感じざるを得ません。
在日韓国人の方々の「日本人なのに韓国人」という、引き裂かれた自我がもたらすとまどいが、悩み惑い迷い成長していく青春時代の思い出とともに語られていくさまは、まさに、この作者にしか書けない世界だと思います。☆ひとつ減点は、もし、生きて最後まで書いてくれたら、間違いなく埋まったはずなのに、という意味です。
残念です。ほんとに心底から惜しいと思います。
大病の後に、お化けさん(この響きが実にいいです)が見えるようになってしまい、彼らを成仏させようとして、三十年前の「事件」の謎を探ろうとするおりんちゃん。その過程で、見ずに済ませられるならそれに越したことのない、人間の汚い心根や醜い所業の数々を目にすることになります。宮部さんの語り口調の上品さ、優しさによって緩和されているものの、描かれている内容は、かなりシビアでして。
でも、そんな状況であっても、見えてしまったものから目をそらざず、時に大人顔負けの態度と言動をしてのける彼女を見て、俺は「大人だー。この子ほんとしっかりした大人の女だよー」と感嘆しきりでした。
絵本作家としては鳴かず飛ばず。副業だったはずのライター稼業が、気が付くと生計を支えている。自分の作品にいまだ期待してくれる編集者には、すまない、と思いつつも、賞を獲った作品の抱えた「事情」ゆえに、過去を克服しきれない……各短編の中で、幾度か「救い」を見い出しかけるのに、そのたびに自罰的な性格が顔を出して、また壊れていってしまう進藤の姿は、他人事とは思えませんでした。
哀愁には事欠かない街・東京で、日々仕事をしている俺ですが、進藤と同年輩になるまであと数年。忘却の彼方に追いやられるのは真っ平なので、何とかじたばたしてみるか、と思っております。
今月の書評作品にも入っている宮部みゆきさんが選んだ、「恐怖」をテーマにした作品集。古典的名作をあえて採り上げた、というラインナップは、かつて子供の頃に読んで、あまりの怖さに眠れなくなった『猿の手』(W.W.ジェイコブズ)や、大学時代に偏愛した『変種第二号』(フィリップ.K.ディック)など、この肌寒く夜の長い時期に読むには、ある意味「最適」な作品がてんこ盛り。
ゲーマーとしては、これらの名作と並び、合間の宮部さんのコラムで、ゲーム攻略本における人物像の描きこみについて語られているくだりも、今まで評価されることの少なかった点なだけに、見逃してほしくない文章です。
生命を拒む美しき一面の銀世界で、獲物をひたすら待ち続け、標的を限界まで引き付け、ぎりぎりの一瞬で弾を撃ち、敵を仕留める。湧き上がる「勝負ーーー!」の勝ち名乗り……ヘミングウェイの『老人と海』を思わせる、人と自然の対等な格闘には、ぞくぞくしました。この季節に読むと、ほんと、雪原が見えてきます。
主人公・富治が、一時は山を降りたものの、結局また、山へと帰っていく姿には、こうとしか生きられぬ不器用さと、そうであるからこそかえって美しい、選ばれし者の神々しさが感じられました。人が仕事を選ぶんじゃなくて、仕事が人を選ぶ。それが「天職」というものなんだなあ、と。
こんな最低の環境に投げ込まれたら、そりゃもう普通は気が狂いますわな。少年・スタンリーが、こんな状況下で、時に恐れ、へこたれ、諦め、妥協を余儀なくされつつも、自分に降りかかった理不尽さに、少しずつ抵抗し、跳ね返し、ひいては対決してゆく。その過程には、心打たれるものがありました。
成長物語の背景に、数々の計算しつくされた設定が絡んでいるところも良いです。スタンリーの現状に覆い被せるように、過去のエピソードが挟まり、はじめは「何か読みづらいなあ」と思っていたのが、終盤ですべて一点に収束し「おおっなるほどー」と思わせてくれる、そんな語り口に大満足。
ポルノ映画館爆破に端を発し、カルト集団が見え隠れする、錯綜した事件の展開は、緊迫した爆弾処理シーンをはじめ、読みごたえ抜群だったのですが……
ルーンが、爆破事件とポルノ女優を絡めたドキュメンタリー映画を撮りつつ、事件の「調査」を行う際の、あまりにも無謀で思い込みの激しい振る舞いには「ああもう。素人が余計なことを!」という怒りがふつふつと湧き上がりました。
目の前にいたら説教してやりたいです、こいつばかりは……明らかに、作者の手に乗せられているんだろうなあ、とは思いつつも。
数ヶ月前に妹が結婚し、ようやく三十年来の「任務」が解かれた訳ですが……ま、それでも。例えばこの作品で描かれているような事態――父親殺しの最有力容疑者が妹――になれば、迷うことなく罪を被ります。幸い、俺の父は間違っても人に殺される理由なぞないですけどね。
とは言え、俺がこの作品の主人公だったとしたら、「妹を疑う」なんてことをそもそもしないですよ。妹以外に真犯人がいないかどうか、まず存分に確認してから、最後の最後に、どうしても妹が犯人という結論に至らざるを得なくなったら、その時に考えようよ、と。
もっとも、作者がこれでもか、とばかりに主人公を追い詰めたせいもあるので、同情の余地はあるにせよ。
この作品では、一見単純そうな強盗殺人事件が、犯人グループの自殺によって決着したにもかかわらず、探偵の鋭敏な神経を刺す、ちょっとした違和感からスタートした調査によって、驚愕の真相に……結びついてはいますけど、さて。
結末にたどり着いても、すっきりしない感じなのは、スカダー自身の、過剰にはりつめちゃった気分に影響されてしまったからなのでしょうか? だとしたら、やはり作家の力量に感服せざるを得ないのですが……それはそれとして。ああもうっ。
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