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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年2月の課題図書 文庫本班

キングの死
キングの死
ジョン・ハート (著)
【ハヤカワ・ミステリ文庫】
税込987円
2006年12月
ISBN-9784151767012

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  荒又 望
 
評価:★★☆☆☆
1年半前に失踪した弁護士のエズラが他殺体で見つかった。その息子で同業のワークは、かねてからエズラと折り合いが悪かった妹、ジーンの犯行と確信し、ジーンに疑いの目が向けられないよう画策する。
著者のデビュー作とのこと。つい力が入って書き込みすぎてしまったのか、少々冗長に感じた。誰が殺したのか、なぜ殺したのか、という核心は、物語が残り5分の1くらいになってからようやく急展開し始める。クライマックスを迎えてからはどきどきしながら一気に読んだが、いかんせん助走が長い。そこに至るまでは遅々として進まず、エズラや妻のバーバラ、ジーンの同性の恋人アレックスなどに対する嫌悪や憎悪がくりかえしくりかえし描写される。あまりにも負の感情ばかりが詰め込まれていて、読んでいて気持ちが滅入ってしまった。心身が弱っている時に読むのは避けたほうが良いかもしれない。
犯人は誰だ、という部分をぎゅっと凝縮して、そのほかの要素をちょこちょこと短い映像で挿入しつつ2時間くらいの映画にすれば、まあ面白くなりそうな気もする。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★☆☆
 優れたサスペンスは、優れた愛憎の指南書である。法曹界出身の新鋭作家ジョン・ハートのデビュー作は、人を信じること思うことの尊さと強欲がもたらす悲劇の結末をたっぷり描ききった。
 父が死んだ。殺人だ。その容疑に浮上したのは娘そして息子。家族とは名ばかりの関係だった。父が得ていた半端でないお金に食いつこうとする輩がいる。
 死んだ父と同業の弁護士であった息子が、容疑を着せられ拘置所に入れられる場面の描き方が印象的だ。監房の前と後ろ。少し前の自分の位置が逆転する。全てに自暴自棄になりかけたとき、差し出される救いの手。こんな究極の場面でこそこれまでどう生きてきたかが問われてしまう。

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  藤田 万弓
 
評価:★★★★★
 ミステリーは、キャラクターに感情移入した時点で作者の勝ちだ、と思う。
そしてこの小説はいい意味で、すごくイライラする。なぜなら主人公のワークは随分と忍耐強いからだ。思ったことはすぐに言わないし、立場もわきまえている優秀な弁護士だ。おかげで、感情的な周囲のキャラクターとすれ違って、コトが複雑に運んでいってしまう。ただでさえ、ワークは殺人の容疑がかかって、ミルズ刑事にしつこくつけまわされているのに、日常生活でもストレス満載!
家に帰れば仮面夫婦を行わなければいけないし、かつて愛したヴァネッサには未だ本当の想いを告げ切れない。妹のルームメイトのアレックスには相当毛嫌いされ、妹と連絡を取ることも出来ない。
 とにかく、ワークのおかげでストーリーは何重にも交錯し、肝心の殺人事件から遠のいているのでは……?と不安になってくる。それもこれも、キャラクターが人間くさいからだ。妻のバーバラなんて、まあなんともいやなやつ!笑 憤慨しながらお楽しみください。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★☆☆☆
 読み終えたはいいが最後の最後まで心に響くものもなく、今ひとつ物語に入り込めない作品だった。
尊敬できない父を持った思慮の浅い弁護士の物語。しかも主人公を筆頭に、登場人物が揃いも揃って皆どこか性格的に歪んでいて大人気もなく、間違ってもお友達にはなりたくない面々ばかり。ストーリー的にも、もう少し法廷や取調べでの白熱した頭脳戦が繰り広げられるのかと思いきや、結局尻すぼみのままエンドマーク。
 弁護士の経歴を持つ著者の、弁護士が主人公の本格サスペンスミステリーということで過大に期待した僕がいけなかったのかもしれない。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★☆☆
 俺には5歳年下の妹がいまして。彼女が生まれたのは真夜中でしたが、父に起こされまして、正座させられ「これからはお兄ちゃんなんだから、ちゃんと妹を守ってあげなさい」と言われたのを、今でもはっきり覚えてます。

 数ヶ月前に妹が結婚し、ようやく三十年来の「任務」が解かれた訳ですが……ま、それでも。例えばこの作品で描かれているような事態――父親殺しの最有力容疑者が妹――になれば、迷うことなく罪を被ります。幸い、俺の父は間違っても人に殺される理由なぞないですけどね。

 とは言え、俺がこの作品の主人公だったとしたら、「妹を疑う」なんてことをそもそもしないですよ。妹以外に真犯人がいないかどうか、まず存分に確認してから、最後の最後に、どうしても妹が犯人という結論に至らざるを得なくなったら、その時に考えようよ、と。

 もっとも、作者がこれでもか、とばかりに主人公を追い詰めたせいもあるので、同情の余地はあるにせよ。

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  横山 直子
 
評価:★★★★★
 自分の人生を思い通りに生きることは、かくも難しいことなのだ。
「わたしの人生」「あんたの人生」「人生そのもの」「お父さんの人生」…人生というフレーズがこの小説のあちらこちらにちりばめられている。
 弁護士である父が射殺死体で発見された。息子のワークは膨大な遺産の相続人となるものの、父を殺した犯人が愛する妹だと思い込み…。
 ワークは父が亡くなってしまったことで、改めて20年以上も父の言いなりになり父の人生を生きていたことを実感し、うなだれる。
『人生は短すぎる。自分がどうしたいかを見きわめたまえ。自分に正直になれば、もっとすばらしい人間になれる』
ワークに親身になって助言してくれる初老の男性の言葉が胸に沁みる。
妻が、妹が、妹の友達が、そして初恋の女性が、ワークを惑わせ、打ちのめし、そして希望の手を差し伸べる。
いやはや自分のことは棚にあげて、世の中には恐ろしい女性がいるものよ…と。

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