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アララテのアプルビイ
マイクル・イネス(著)
【河出書房新社】
定価1995円(税込)
2006年12月
ISBN-9784309801025
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
小松 むつみ
評価:★★
転覆した客船の生き残りたちは、辛うじて残った、かつては喫茶室を覆っていたガラスのドームで、南太平洋上を漂うことに。やがて無人島にたどり着き、ロビンソンクルーソー生活を始める。と、そこで仲間のひとりが……。
果たして、これはミステリー……なのか? (だって、犯人は見え見えである) しかして、十五少年漂流記−老人版か……。生命の危機的状況の中で、つかみどころのないシニカルでペダンチィックな会話が延々と続く。それが大人のウイットなのか。核がないままに、外堀だけが埋まっていくような具合である。ムカムカするけど、ムズムズするけど、飲み込めない、吐き出せない、といった中途半端な居心地の悪さ。
だが、私にもっと欧米文化・文学の素養や知識があれば、少なくとも、彼の衒学趣味にお付き合いすることもできただろう。あるいは、そのモヤモヤとした身の置き所のない非現実的雰囲気をそのままに、甘んじて受け入れて浸ることが、マイクル・イネスを堪能する作法なのかもしれない。
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川畑 詩子
評価:★★★
Uボートに攻撃された客船、ひっくり返った船内カフェに乗っての漂流、そしてのんきな漂流の果ての、のんきな殺人事件。書き割りっぽい南洋風景の元、白人たち−何しろ1941年発表の作品のせいか、白人黒人という記述がしばしば現れるのだ−の繰り広げるどたばたが、あっけらかんとして面白かった。訳者あとがきにもあるように、これはフィクションの世界にひたって楽しめば良いお話なのだろう。ちょっと坂田靖子さんの漫画を連想させる雰囲気だった。
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神田 宏
評価:★
英国の紳士淑女の乗る物見優山の船が、潜水艦の攻撃で沈没すると、サン・デッキの硝子ドームは一寸法師もかくやとのごとく、6人を乗せて大洋を漂う。漂着した先は、無人島。そこで人類学者の黒人が頭部を強打されて死体として、見つかる。生き残りの一人、ロンドン市警のアピルビィは謎解きに着手するが。
おいおい、ドームで漂流って?と思っているうちに次から次に、いや、それ設定に無理あるだろ?と思うような構成の破綻。かと思うとやけに文学的薀蓄の多い会話。これは実験小説か?はたまた英国流ブラックユーモアか?と思っているうちに、1941年に発表されただけあって、そこだけやけに愛国的なラスト。ひねっているのかいないのか?
「訳者あとがき」にも「中身の具体的な存在意義の希薄さこそが、これに向き合うものに観念の自由を保証している」とある。おい、そりゃー無いだろう。中身空っぽって吐露しちゃってんじゃん。やっぱ実験小説ですか?これ。
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小室 まどか
評価:★★
サンデッキでくつろいでいた航海中のアプルビィ警部ら6名は、突然魚雷をくらった本船と奇跡的に分離し、悪夢の漂流を始める。奇跡的にたどり着いた先の無人島で、死体が発見され……。
なんだかめまぐるしく場面転換していく突拍子もない展開と、登場人物たちの会話からこぼれだす、まさに教養の応酬とに翻弄されているうちに、つと読み終わってしまった。なんとなく腑に落ちない点多数……。時には必要と思われる説明さえも省いて進行していく物語には、相当に勘もよく頭も切れて西洋の古典に精通していないと、推理を楽しみながらついて行くのは難しいようだ。が、逆についていける人には、たまらなくここちいい諧謔と省略の連続なのだということが想像できる。自分がそうだったらよかったのになぁ……という憧憬を抱きつつ。
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磯部 智子
評価:★★★
漂着した無人島で起こる殺人事件。この閉じた設定の中で『そして誰もいなくなった』のような本格ミステリが始動する…なんてことはイネスに限ってはあり得ず、意表をつくユーモアとウィットに富んだなんともいえない展開になる。先ず「クジラ」だと思ったUボートの攻撃を受けて6人だけが生き残る始まり自体が人を喰っている。一癖二癖ある6人の個性が際立ち、奇妙な無人島生活が始まるのだが、そこはストーリーを追うことが無意味に感じられるイネスのオフビートな世界そのもの。私はイネスファン、アプルビイ警部ファンなのだが、彼らしい凝りに凝った衒学趣味の炸裂具合が今回少々物足りなかった。そう言いつつも、やはり翻訳され読むことが出来て非常に嬉しかったと思うのも事実。
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林 あゆ美
評価:★★★
のーんびりした気分の時に読むのがオススメ。忙しいと、ストーリーが頭の中でつるっとすべってしまい、あれ、何が起きたっけとなってしまうので。
さて、物語の始まりは、ナチスのUボートに魚雷攻撃されて漂流してしまった客船が、孤島に漂着する。無人島かと思いきや、意外な展開で、死人も出てしまう。警部の職についている人物が客船に乗っているのだから、犯人捜しが展開されるかと思うと、いや、捜すことは捜すのだが、またも本筋にそっていないような展開が。
イネス初体験の私は、訳者あとがきでちょっぴりカンニング(?)しながら読了した。読む人が読めばツボにきそうな洒落をさらっと読むのは、もったいないが、まずは雰囲気をと、不可思議な設定を楽しんだ。
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