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異人館
レジナルド・ヒル(著)
【早川書房】
定価1890円(税込)
2007年1月
ISBN-9784150017958
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
川畑 詩子
評価:★★★
オーストラリアとスペインという遠く離れた所に住む少年と少女から話は始まる。二人には一体どんな結びつきがあるのか興味を引っ張る。しかも少年には幽霊が見えて時折手足がひどく痛むという不思議な特徴もある。何のサインなのか?
しかし、この二人がなかなか出会わないのだ。十数年後にようやく出会うも、それはドライブインで居合わせた通りすがり同士という薄い出会い。これまでの話運びが運命の存在を強く感じさせるタッチだったのに、裏切られたようなこの現実。これがいいバランスになっている。それはこのままこのコンビのバランスとなっている。何しろ霊感があって司祭を一度は目指した世間知らずの男が相手にするのは、数学の世界に真理を見いだしている歯に衣をきせぬ行動的な女性なのだから。オカルトと現実のバランスがうまくとれながら、人と人との結びつきを温かく描いた作品。
イギリスの田舎町で起きた四十数年前の事件と、約四百年前の事件が村の閉鎖性を良く物語って、謎解きの部分も読み応えあり。
1960年代の、孤児のオーストラリア移住運動や、イギリスでのカソリックの弾圧など、不勉強で今まで知らなかった歴史にも触れることができて興味深かった。
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神田 宏
評価:★★★
イングランドの閉塞的な田舎町、イルスウェイトを舞台に自らの祖母の生い立ちを尋ねる爛漫なオーストラリア娘、サム・フラッドと過去にカソリック教徒に対して行われた弾圧を調べるために訪れた、ミグ・マデロの前に連綿と続く町の時代錯誤な陰鬱とした歴史が少しづつ現れ始める。滞在先の「異人館」のキッチンの床下の隠し部屋からは古い骸骨が見つかり、町の教会には、古代北欧ヴァイキングの神話をモチーフとした異教徒的十字架が聳え、旧家には何かを隠すかのような老人が老獪さを湛えて笑みを浮かべる。
400年前のカソリック弾圧と、1960年代に行われた孤児のオーストラリアへの移送をモチーフに、絡み合った過去と現代が、呪詛的なベールの向こうに徐々に姿を見せる。何者にも動じないサムと知的で霊感の強いミグのキャラクターが、閉塞を打ち破ってゆくのだが、背景の複雑さと、遅々とした謎解きにややだれてしまった。
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福井 雅子
評価:★★★★
イングランドの小村イルスウェイトで、祖母の生い立ちを調べに来た数学者のサムと、16世紀に迫害された神父について調べに来た歴史学者のミゲルが出会い、村の過去を調査する。やがていくつかの驚愕の真実が浮かび上がり、それらが時を超えて複雑に絡み合っていることが判っていくミステリー小説。
物語のプロットの組み立てが複雑かつ巧妙でありながら無理がない。ミステリーの大家らしい円熟の技を感じる作品である。木造建築の文化である日本人にはわかりにくいが、築数百年の建物に暮らすヨーロッパの人々にとっては「過去」がもっと身近なものなのだろうな、と思いながら読んだ。ユーモアのセンスや、あたりまえのように出てくる幽霊話にも、日本の作品にはないイギリスらしい空気を感じる。前半はややもたついた感じもあったが、後半はたたみかけるような展開に引き込まれてぐんぐん読めてしまった。最後のオチも物語が締まって効果的である。上手い!
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小室 まどか
評価:★★★★
サマンサ・フラッドは、オーストラリア出身の数学者の卵で、ケンブリッジの大学院に進学予定。ミゲル・マデロはスペイン出身でイギリス人の母を持つハーフの歴史学者で、司祭になるのを断念した過去がある。それぞれの目的を旨に、ヴァイキングが開拓したというイングランド北西部の小さな村、イルスウェイトにたどりつき、<異人館>という宿の二部屋しかない客室に隣り合わせるのだが……。
冒頭で二人の子ども時代が語られるのだが、そこですでにグッと引きつけられてしまう。二人ともまだ欠点が目に付く若者で、性格もまったくちがうのだが、それぞれの一途さとその相互作用が非常に魅力的で、よそ者に対して堅く閉ざした村人たちの口と心が徐々に開かれ、またそれぞれの本当の目的が明らかになっていく展開は、もどかしいようなドキドキするような気分を楽しませてくれる。各部の扉に引用されている北欧の神話も効果的だ。最後の最後、サムとミグの共感の理由を描いたのは蛇足だったかも。
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磯部 智子
評価:★★★★★
何故1作読んだぐらいでダルジール警視シリーズを苦手だと思い、レジナルド・ヒルを敬遠していたか…この小説を読んだら理由が全然思い出せなくなってしまった。強烈に面白い。様々な要素をたっぷり詰め込みながら、作家の頭の中で見事に整理された結果として、物語を楽しみただ読み続けるだけで、複雑さが複雑な姿を失わないまま明確になる事実に呆然とする。数学者としての将来を嘱望されるケンブリッジ大学院生で鼻っ柱の強いサマンサと、子供の頃から幽霊が見える生真面目な歴史学者のミゲル、この対照的でそれぞれ強い意志を持った二人の運命がそれは可笑しく交じり合い、推理小説?歴史小説?幽霊譚?まだまだ自由にジャンル横断をやってのける。英国的ユーモアも妙味を添え、閉塞感があるようでどこか人を喰ったような小村の人々の造形も抜群に上手い。サムの祖母の生い立ち調べと、ミグの4百年遡る迫害カソリック教徒の調査は、イングランドと家族の歴史に結びつき思わぬところに着地する…と思ったら最後の最後でまさに驚天動地!こんな都合の良い偶然ならいくらでも受け入れたい驚きに満ちた物語。
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林 あゆ美
評価:★★★★
さまざまなジャンルの本を5冊くらいまとめて読んだような満腹感。最後の最後までカードがきられるお楽しみ。だから、読んでいても、つい部分再読ばかりしていて、前に読みすすめられなかった。少し読むと、あ、これはと後戻りして、ほうほうと納得。もう一回、確認のためにと読んでは反芻。こんな読み方をしたのは久しぶりかもしれない。
イングランドにある小さな村に、2人の客人が訪れた。ひとりは、祖母の出自を調べている数学者のサムという女性。もうひとりは、400年ほど前に迫害された神父の調査が目的のミゲルという男性。よそ者はめったに来ない小さな村で、2人は風を起こす。
15万人もの児童移民がイギリスからオーストラリアに送られたという、歴史的背景も、物語に厚みをもたらす。とはいえ、語り口は重たくなく、時にはユーモアたっぷりの文章で笑いを誘う。数学的な思考で事実を理解しようとするサムのキャラクターも魅力的だ。親子同じ名前の人物も登場するので、ときどき混乱するが、そこをクリアしたら、もう大丈夫。たっぷり楽しめる。
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