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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年3月の課題図書 文庫本班

市民ヴィンス
市民ヴィンス
ジェス・ウォルター (著)
【ハヤカワ・ミステリ文庫 】
税込882円
2006年12月
ISBN-9784151766510

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  荒又 望
 
評価:★★★☆☆
過去を消し、名前も住所も仕事も変えたヴィンスは新しい人生を歩み始めようとするが、どうしても堅気になりきれない。
ありふれた人生を送ることが、こんなにも難しい。愛する妻と子供が自分の帰りを待っている、ただそれだけの切なる願いがなかなか叶わない。始めのうちは、ヴィンスは善人なのか悪人なのかいまひとつはっきりせず、何に怯えて何を願っているのかもよくわからず、もやもやしながら読んでいた。そのうちに過去にさまざまな悪事を働いてきたことがわかってきて、ヴィンスの身に降りかかる災難も、そりゃ当然の報いだろう、と冷めた目で見てしまった。それでも、心を入れ替え、必死で自分自身を向上させようとするヴィンスの姿がだんだんと好ましく思えてくる。ささやかな幸せすらつかめず、それどころかどんどん状況が悪くなっていく中盤以降は、はやくヴィンスに心の平安を、と願わずにいられない。
カーターvs.レーガンの大統領選挙戦の様子がところどころに出てくる。物語とあまり関係がなさそうにも思えたが、ヴィンスの変化や決断などの過程とうまく絡んだ構成になっていて、なるほど! と感心した。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★☆☆
 2度読みすることをお薦めしたい本だ。「証人保護プログラム」。アメリカのこのシステムへの理解が一度目にはやや不足していた。だって、あり得ないでしょう?人が過去を捨てて人生を生き直すなんて。名前を変え住所を変え新しい自分を生きるなんて、という先入観を捨てることが第1回目。
 そうすると見えてくる。キャラクター豊かな市井の奴らが。アメリカでドーナツ作りに精を出す男、ニューヨーク刑事のダメダメぶり、やはり人生をやり直そうと努力する娼婦。
 人生は1度しかない。わかっていても人は失敗をし安楽な手招きに誘われてしまう。失うことでわかる本当の幸せ。望んだ生活。あたり前の権利。
 カーターとレーガンの選挙直前の1980年の秋の7日間。場面転換が多く、現状把握に苦労したのは、私の翻訳物に対する苦手意識だろうか。何れにせよ2度読んで更に面白い本だ。 

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★★★
「男だったら流れ弾の一つや二つ胸にいつでも刺さってる、刺さってる!」僕のカラオケの十八番『男たちのメロディー』の一節。
そう、男は誰しも古傷や秘めた過去を背負って生きている。この物語の主人公ヴィンスもまたしかり。今はドーナツ屋の店主に落ち着いているが、彼にもまた公にはできない過去がある。しかし、あたりまえだった日常はある日を境に崩れ出し、男はもう一度過去と向き合うことになるのだ。
 素晴らしく軽快で、久々にグイグイ入りこんでしまうハードボイルドミステリーに出会っちまった。なんと言ってもキャラクターがいい。主人公ヴィンスと、脇を固める面々のクセのある存在感。くわえてウイットに富んだ会話や散りばめられたユーモアが心地よく、文句なしの一級品。
 黙って旅行に持っていくカバンにほり込めば、間違いなく楽しい休暇が過ごせること請け合い、そんな一冊です。 

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  三浦 英崇
 
評価:★★★☆☆
 自分の身を守るために、今までの人生をすべて消し去り、誰ひとり知り合いのいない所に逃げる。そんなことが合法的にできるシステムって、正直言ってどうなんだろ、と俺なんぞは思ってしまうのですが。

 犯罪に関する内部告発をする代わりに、身柄の安全を保障される「証人保護プログラム」によって、新たな名前と職業を得た主人公・ヴィンス。しかし、捨て去ったはずの過去が、執拗に彼を追いかけて来て……

 それこそ、記憶喪失にでもなって、無人島にでも置き去りにされない限り「自分をやめる」なんてことはそうそうできるもんじゃないなあ、と、つくづく思いました。ま、やめなきゃならない事情もないし、第一、アメリカ国籍なんぞ取る予定は今後もないですが。

 そうそう、もう一つ考えさせられたこととして。「自分をやめる」ことはできないにしても、「人生を一からもう一度やり直す」のは、本人の決意次第。これは万国共通なんじゃないのかなあ、と。  

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  横山 直子
 
評価:★★★★☆
 課題図書の本がダンボールで届けられても、私はすぐには本を取り出しません。
なぜなら、娘も本が届くのを楽しみにしているので、一緒に開けることにしたのです。
小学校から帰って来た娘は嬉々としてダンボールから本を取り出し、机の上に積み上げて読む順番を決めてくれます。
まず時間の余裕のある時に、長編や翻訳モノ。
私の読書傾向をよく知っている娘ならではの仕事です。当然「市民ヴィンス」も前半部分に入っていました。
しかしなかなか読みきれなくて「シティヴィンスまだまだ」と言うと、「シティじゃなくて市民でしょ」と娘に言われる始末。翻訳モノをじっくり読みきる力を養わねばと痛切に思うこの頃です。

 アメリカではマフィアの犯罪を裏づける証言を得るために、協力者の身の安全を保障するシステムがあるそうだ。
同意すれば、協力者は罪を免れ、見返りに新しい身元や住居や仕事を与えられるそうだ。
その証人保護のプログラムに組み込まれた36歳の男性、ヴィンスの物語。
身の安全が保障されているとは言え、いつもなにかに怯えながら暮らしている彼が
最終的に見つけた幸せとは…。
「最小限の日常会話−それは幸せの最小単位だ」この箇所が一番心に残りました。

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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年3月の課題図書 文庫本班

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