横山 直子の<<書評>>
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若い頃を振り返るとき、子どものことをあれこれ心配するとき、そして年を重ねた親のことを思うとき、どのページを読んでいても、同年代の重松さんがつむぐ小説は何かしら思い当たる。 そしてそれをきっかけに自分の世界へとはまり込んでしまう。 連れ合いを見送り一人暮らしを続ける母が登場する表題作の「送り火」は特に印象深い。 「お父さんも、家族をいちばん大事にしてたひとだったから」 このセリフ、まさに母から何度も聞いた言葉でした。
私鉄沿線沿いに住むさまざまな家族のなにげない日常生活が教えてくれるもの。 それは日々のささやかな出来事がどれほど幸せであるかということ。 帰宅する家族を笑顔で迎えよう、そんな気持ちになる一冊。
舞台は中国本土と台湾にはさまれた金門島。元商社マン藤堂が、多くの出来事をくぐり抜けてたどり着いたこの地で、密かにしたたかに生きている。 愛車オペルを転がしてあちこちに出かける。ビックリするほど行動力のあるルーマニア人と知り合う。 10年ぶりに会いに来た息子のあまりの変貌ぶりにガックリくる。 久しぶりに連絡してきた大学時代に友人が殺されてから、ストーリーはいよいよ目が離せなくなってくるのだが…。 いやはやバイオレンスシーン続出で、読むのが辛かった。 「こんな結末になるなんて」とカップルの行く末に打ちのめされる。 それだけに、食事のシーンが待ち遠しかった。 なにしろ私の大好きな中華だ。しかも藤堂のメニュー選びが私好みでなんとも嬉しかった。 小海老入り炒飯と酢豚、茄子の味噌炒めと鴨の卵スープ、うん、うん、どれも美味しそう。 ついでにバイキング方式の朝食メニューも教えて欲しいと思った。 もちろん、中華粥は必須でしょうね!
「特徴をひと事で言えば、今人気のインターネット&携帯ホラーということになろう」と解説にある。 女子高生の可奈子が携帯電話がらみのトラブルに巻き込まれ、彼女を取り巻く世界が暗黒の一途をたどる。その凄惨さが半端ではない。 そんな中、親友の尚美とのやりとりや同級生の丸山君へのほのかな思いに触れ、ほっとさせられる。 専業主婦である可奈子の母・和泉には、自分を見ているようで、時にドキリとした。 「まるで期間限定のフルーツケーキを頬張るように、互いに甘え合う」母親と娘との関係には思わず苦笑い。 現在進行形でケーキを頬張る身としては、その表現に五重丸をあげたいくらいだ。
途中のあらゆる残酷なシーンを帳消しにするようなさわやかなラストに胸をなでおろし、 「ただほど高いものはない」という教訓を思い出した一専業主婦のワタクシなのでした。
都会から遠く離れた別荘地で、久しぶりに顔をつき合わせた親子がそれぞれに心の奥をのぞいている。 「ドリフのコントみたいだ」と思わず口に出るようなジャージ姿の父親と息子が相手の家庭について心配し合っている。 親子とは言え、男同士の共同生活。この二人のつきはなし加減の距離感がなんともいい。 「なるようになるだろう」 長嶋さんのつむぎだす心がほどけるような空気が好きだ。
高校生の雛子はマンションの11階に住んでいる。 そして学校にいるときはいつも「一刻も早く家に帰って眠りたい」と思っている。 そうして寝ても寝ても寝たりないような…そんな気持ちを持ちながら生活をしている。 父は九州に単身赴任で、母、小学生の弟、そして父の母である祖母との四人暮らし。 そんな1105の住人達はそれぞれに領分をキチンと守りながら暮らしていた。 が、ある時から祖母の様子がおかしくなってくる…。かなり深刻な話ではある。 雛子は現実からほんの少しだけのがれたくて、動物の保護本能みたいに眠くなってしまうのかもしれない。 うまくは説明できないが、「宙の家」と続編の「空気」共に、読んでいてとても気持ちが良かった。 ベランダに出て空を見るシーンが特にいい。 「空は乾いて晴れ渡っていた。無限の青を見る。深い深い青を見る。空を見る。空にのぼる空気を見る。飛行機。」
この本を読んでから、確実に空を見る時間が増えたような気がしている。
旅先でおもしろいものを見つけるのが、やたらうまい。 例えば、電車内にあるプレートの文字に目を留める。「手歯止めよいか?」 よいか?と問われても…。 佐野駅では、昔の新幹線の鼻と思われる黄色い丸いものが何の説明もなく置いてあるのを発見! その写真を見て、私は笑いが止まらなくなった。 前月の重松さんに続き、吉田さんも私と同年代! まったくもって同窓会でも開きたいノリだが、小学生の娘を持つ気持ちなど今回も共感する場面が実に多い。 娘さん同行のエピソードは、吉田さんの父親ぶりあたふた加減が見え隠れして、なんとも魅力的だった。
そして吉田さんの激しく話をそれるところがなんともいい。 もちろん彼独特のイラストも満載で、旅の醍醐味をぐっと深めてくれた。
なんと魅力的な女性がいたものよ!と、熱病に浮かされるような気持ちで読みきりました。 ほとばしる情熱、小気味の良い行動力、その反面シャイな部分もあり、振り幅の激しい彼女の生き様に惚れ惚れしました。 一坪の事務所から出発した彼女の会社運営に、大阪の商いの現場を垣間見たようで読んでいて本当にワクワクしました。 プライベートでは映画の西部劇を見るのが好きで、フラメンコに夢中になり、同居する大きな犬をこよなく愛する羊子さん。 そして司馬遼太郎をはじめとする彼女の交友関係の広さにも圧倒されました。 決して人生楽しいことばかりじゃないけれど、自分の目の前に楽しいことを掲げて生きる! そんな彼女の生き方がかっこいいなぁ〜と思いました。 それにしても彼女の手がけた「チュニック」の下着たちのイラストには正直ドギマギしました。 私のこれまでの人生にはとんと縁のなかった世界です。 実に魅力的でした。一度手にとって見てみたいものだと…。
アメリカではマフィアの犯罪を裏づける証言を得るために、協力者の身の安全を保障するシステムがあるそうだ。 同意すれば、協力者は罪を免れ、見返りに新しい身元や住居や仕事を与えられるそうだ。 その証人保護のプログラムに組み込まれた36歳の男性、ヴィンスの物語。 身の安全が保障されているとは言え、いつもなにかに怯えながら暮らしている彼が 最終的に見つけた幸せとは…。 「最小限の日常会話−それは幸せの最小単位だ」この箇所が一番心に残りました。
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