年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年4月の課題図書 文庫本班

零式
零式
海猫沢めろん (著)
【ハヤカワ文庫JA】
税込756円
2007年1月
ISBN-9784150308773
商品を購入する
 >> Amazon.co.jp
 >> 本やタウン

  鈴木 直枝
 
評価:★☆☆☆☆
 その内容を云々言う前にその「世界」に突入出来るかどうかが勝負の本だ。その世界とは…〜国粋主義者と融和主義者。政治結社。全面降伏。原始駆動機。暴装賊。1945年の太平洋上前線基地と東暦2000年の鎖国された神国〜
 −この世界に奇跡は起きない。
 −期待する者は、いつもただ年老いて死んでいくだけ。
 −明日殺される可能性と、この10年の2乗倍近く生きなければならない可能性
 そんな言葉があたり前に交わされる世界。圧倒的なスピード感。自分が一体何処の時間のどこの国に存在しているのかと不安になる。漫画かアニメの原作かと見間違うほど擬音も多い。表紙イラストと帯コピーと青春小説という謳い文句からくるイメージがこうも違うか。そのギャップがこの小説の面白さなのかもしれない。筆者のデビューがPCゲームの小説化と聞き合点が行く。藪本野ばらといい海猫沢めろんといい、作品と著者の写真のマッチングに妙に納得したりして。

▲TOPへ戻る


  藤田 万弓
 
評価:★★☆☆☆
 文章の可能性、小説の可能性に挑戦した作品なのではないか。なんとなく、平野啓一郎氏が「あなたが、いなかった、あなた」で挑戦していることに近いものを感じた。インターネットや映像の進化に影響された若い世代の作家特有のにおいを感じました。
 ルビにカタカナやローマ字をふる点や、従来の書式を無視した手法は文体にリズムを持たせているし、紙と文字という限られた条件の中で立体的な表現を可能にした作品であると思った。
 クライマックスで朔夜と夏月を乗せた機体が速度を増し、前方を塞ぐ黒い壁が機体を操縦する朔夜の目線で、さっと目の前に現れたように錯覚した。「壁」という文字を見開きいっぱいに敷き詰めたページと、加速する様子を改行キーを巧みに使ったことで映像を見ている感覚に陥るのだ。
 平野氏も、近著で狙っていたのはそうした五感性だった。海猫沢めろん氏はあとがきでこうした方法が意図するものには触れていない。だからもしかしたら、ここに書いたことは深読みなのかもしれない。それでも、文字が躍るような表現力を持った彼はすごいのではないかと私は思った。

▲TOPへ戻る


  松岡 恒太郎
 
評価:★☆☆☆☆
 オタッキーな小説全般を否定するものでは決してない、どこかで何かが歪んでしまった世界観だって描きようによっちゃ面白いさ、でもこの作品はいただけない。
 荒廃した世の中、原始駆動機、謎の美少女にカルト教団、魅力的なアイテムはバシバシ登場するのに読み手である僕の頭には一向に映像が浮かんでこない。
 もしかすると、ついていけてない僕の感覚の方が時代にマッチしてないのだろうかと途中で考えてみた。しかし気をとり直して読み進めるも案の定一人よがりな表現が目につきゲンナリしてしまった。いささかお粗末です。
 それとも、もしかするとこの小説ははなから読者層を限定して創られたのだろうか?そんなことまでふと考えてしまった。それもまた淋しいことである。
 ともかく、しっかり確立されたジャンルでもあり、若い方の目を活字に向ける大きな担い手でもあるのだからさらに厚みのある小説への挑戦を切に願う。

▲TOPへ戻る


  三浦 英崇
 
評価:★★★☆☆
 その勢いやよし。しかし、勢い以外はどうも買えない、と思ってしまう作品というのは、確かにある訳で。
 この作品は以前、中編版が雑誌掲載された時に読んでいて、今回読み直している途中で「ああこれ読んでる」と思い出したのですが、雑誌掲載時には気にならなかった部分が、今改めて読んで、いろいろ気になってしまって。
 例えば世界観。太平洋戦争あたりから分岐した架空歴史(国名や出来事等、かなり変わってますが)であり、中編版では詳しく描くのを省いていた背景設定が、今回は随分丁寧になっていたのですが……説明すればするほど、ますます納得いかなくなってしまうのなら、いっそ中編版くらいで留めておいた方がいいと思うし。
 二人の少女が、閉塞された社会から脱出すべく、かつてのレシプロ機を甦らせようとする意気。それは理解できるけど、長くなったことで、ひりひりした緊張感や、躍動感、解放感が間延びしているようなのが残念です。

▲TOPへ戻る


  横山 直子
 
評価:★★★☆☆
 挑むような冷めた瞳…。
 表紙に描かれたバイクにまたがる特攻少女(一言で言えばそうなるらしい?帯に書いてあった)が主人公。
 著者のあとがきによれば、ジャンルとしては改変歴史ものになるそうだが、「ただの成長物語です」ときっぱりと宣言されていた。

 この特攻少女、「衝動を感じている瞬間だけは、生きていることをリアルに感じられる」のだし、「燃え尽きて、灰になりたいだけ」とおっしゃる。いやはやスゴイ少女なのです。
 西暦1945年と東暦2000年を結ぶ実に壮大なスートーリーで、特攻少女が繰り広げる世界はスピードとアクションが満載。とても私にはついては行けないスピードでした。
 しかしながら「帰る場所なんてない。どこにも安らげる場所なんてない」そう思っていた少女が自分の居場所を見つけたシーンでは一緒にジーンとくる。

 ちなみに少女が乗る原始駆動機はレシプロマシン、それに対する超電駆動はリニアなど、本文のいたるところにルビ付き表現があり、これは実に楽しめました。かつおぶしにはちゃんとネコマンマとルビがあり、これなら私もついていけるわ!としばしにんまり。

▲TOPへ戻る


WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年4月の課題図書 文庫本班

| 当サイトについて | プライバシーポリシー | 著作権 | お問い合せ |

Copyright(C) 本の雑誌/博報堂 All Rights Reserved