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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫班】2007年4月のランキング 文庫本班

鈴木 直枝

鈴木 直枝の<<書評>>

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Dojo─道場 ロリヰタ。 欲しいのは、あなただけ ギャングスター・レッスン 影踏み 水に描かれた館 友だちは無駄である 零式 チェイシング・リリー キューバ・コネクション

Dojo─道場
Dojo─道場
永瀬隼介 (著)
【文春文庫】
税込800円
2007年2月
ISBN-9784167696023

 
評価:★★★☆☆
 「そうかぁ。こう来るかぁ」のエンディングに技あり1本!拍手! 東京・高円寺。傾きかけた空手道場の門を叩いたのは、リストラや親父狩りにあったり、再起を期すプロレスラーだったり、心に「このままでは終わらない」と一物を持つものばかり。そんな彼らのリターンマッチ小説なのだが、如何せんこの住民、向こう見ずで無鉄砲、努力家で純粋で一本気で頼まれると断れないタイプ。いい人、なんだけど。
 空手に体力や体格、年齢はさほど関係ないらしい。強いかそうでないかの差は努力の差。だから「もう二度と地獄へ戻らねえぞ」「凡才は努力するしかない」「うまくいかなったこともある。だが、後悔したことはない」自分を鼓舞するアツイコトバが続く。
「強くなる」それは技、それは心。その過程には人の琴線に触れるエピソードある。ありえないとかそんなことはどうでもよくて、その時々に怒ったり笑ったり泣きそうになったりしながら、どれだけ、誰かのその人生を楽しめるか、そうそれだけでいいんだと思った小説だ。

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ロリヰタ。
ロリヰタ。
嶽本野ばら (著)
【新潮文庫】
税込420円
2007年3月
ISBN-9784101310718

 
評価:★★★☆☆
 その一途さが愛しい。「好き」という感情は人をこんなにも成長させる。
 著者そのもののロリータファッションを生理的に好きになれず、読まず嫌いしていた嶽本作品だが「こんな世界もあるんだよ」と興味本位で覗いてみたら事のほか面白かった。
 作中に登場する作家に何度も嶽本本人を想像してしまった。偶然居合せた撮影スタジオで少女モデルと出会う。思う。思いやる。急がずに。真っ直ぐに。
 少女の喋りかたや縁遠いファッションブランド名や解説にうんざりする以上に、登場人物たちの心の成長の描き方の上手さに感心した。自信の持たせ方、自分を他人に伝える術、プロとしての仕事への向き合い方、それらは年齢を言い訳に出来ない。傷つき、迷い、躓きながらも一途に自分の道を歩きだす少女たちの背中に羽を付けてあげたくなる。
 ガンバレ女の子。

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欲しいのは、あなただけ
欲しいのは、あなただけ
小手鞠るい (著)
【新潮文庫】
税込380円
2007年3月
ISBN-9784101309712


 
評価:★★☆☆☆
 その一途さが怖い。「好き」という感情は人をここまで堕とすのか。
「むかしむかし」その柔らかな文体ではじまる本文とは裏腹に殺気すら感じる人の愛し方が怖い。はじまりは19歳だった。バイト先の喫茶店で会った「男らしい人」に恋をする。大学よりも掃除よりも買い物よりもその男だった。約束の時間までを1分単位でカウントダウンする様に、男の去り際に懇願する様に、恐怖にも似た気を感じずにはいられない。やまかけ丼のようにぬるぬると堕ちていく。箸に引っ掛ることはない。あなただけが欲しい。怖っ!
 だがしかし、彼女の人生があの物語の何処かで途切れた(突然の死が彼女を襲った)としても、その人生の断面の何処にも「後悔」という文字は見当たらないのではとも思う。私自身、共感は出来ない。がそこまでのめり込める対象に出会えたことは、ある意味で幸せな人生、なのかもしれない。
 恋に走り始めたばかりの人には、どうしようもなく好きになっていく過程が切なく受け入れられると思う。ただし、走りすぎにはご用心。

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ギャングスター・レッスン
ギャングスター・レッスン
垣根涼介 (著)
【徳間文庫 】
税込680円
2007年2月
ISBN-9784198925543

 
評価:★★★★☆
「痛い怖い血生臭い」これは私が嫌いな小説素材ベスト3である。けれどもマフィア、拳銃、裏金、暴力団が多用される泥棒小説に★4つも点けてしまった。
「泥棒するのも楽じゃない」らしい。高校中退のアキ20歳が、新聞2誌とイミダスを徹底的に読み込み、体と心とテクニックを作りこんでいく。一人前の泥棒になるために。その成長と共に活躍のステージを上げていく展開の速さが、「痛い怖い」を感じさせないのだ。車両改造やそのスピードをつぶさに語る場面も多い。好きな人は血騒ぐシーンの連続だろう。犯罪を題材とはしているが、全体を覆うのは、強さ・勇気・愛情。あに図らんや熱くなってしまった。
 新年度が始まった。あと1歩が踏み出せないジレンマに今も思い留まっている人もいるだろう。「〜そうなりたい自分が見えない」「物事にはここが決め時というタイミングがある」〜周囲の開幕ダッシュムードにいまひとつ乗り切れない誰かの背中を押す1冊。 

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影踏み
影踏み
横山秀夫 (著)
【祥伝社文庫 】
税込670円
2007年2月
ISBN-9784396333294


 
評価:★★★☆☆
 自宅の電話台の引き出しに現金を置いている人は必読の書である。
 知らなかった。深夜の民家、寝静まった時刻に現金を盗みだす泥棒のことを「ノビ師」と言い、その世界にも「ノビカベ」と呼ばれるプロとして生きる特別な輩がいること。警察の検挙ノルマ、その数字合わせのために逮捕されたりされなかったり…。信用や安心は己の保身の前にあっけなく踏み倒されてしまう。本書はノビカベが真実一路を探る物語だ。対峙する相手は警察や暴力団。私にとって一瞥をくれるだけの犯罪者。その立場の視線と心理を描いている。新聞の行間からもニュースの閑話からも伝わらない、何故?なんのために?その時家族は?愛する人はいなかったの?想像の翼は横山秀夫の思うつぼだ。自分ではない犯罪者の心理になっている。そしてそれなのに心が痛む。何とかしてあげたいと画策する。
 ノビカベの頭の良さに驚かされる。その記憶術、先読み術、判断力。と感心する傍らで、自宅の電話台の下が気になった。〈別の男と会っていれば別の人生があったかなあ〉などと考えながら貴重品の置場所でも考えようか。

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水に描かれた館
水に描かれた館
佐々木丸美 (著)
【創元推理文庫】
税込780円
2007年2月
ISBN-9784488467029

 
評価:★☆☆☆☆
 こんなふうに簡単に人が死んでしまう小説が私は嫌いだ。いとこや遺産相続やらで人間関係が複雑なことは許せる。元来、いとこは7人だった。3人は奇怪と思われる謎の死を遂げる。残されたのは4人のいとこと山のような美術工芸品。その財産鑑定のために召集されたのは5人。揃って年若く思想や趣味趣向に一癖も二癖もあるばかり。小説の素材としては面白み十分だが、話を複雑怪奇にしすぎているとも言える。加えて佐々木丸美の書く文章のくどさ。大げさとも言える表現が鼻につく。次々起こる怪奇を受け入れようとするのだが、「それはないだろう」と逆に突っ込みをいれたくなる。中学生の頃「雪の断章」を夢中になって読んだ記憶のまま読み始めたが、「何にそんなに惹きこまれたんだっけ?」と当時をいぶかしむ思いだ。あとがきで単行本の刊行が1978年だったことを知る。1970年代版「デス・ノート」とすれば、いまどきの若い読者にも受け入れられるかもしれない。

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友だちは無駄である
友だちは無駄である
佐野洋子 (著)
【ちくま文庫】
税込609円
2007年2月
ISBN-9784480423092

 
評価:★★★★☆
 残念だ。付箋だらけになってしまった本書をお見せ出来ないことが。
 幼児期を振り返る「子どもって、たいへんだったなあ」から始まり、上京し美術を志し、男と出会い、「おふくろ」と呼ばれるに到る今までの佐野洋子友だち談義書である。北京にチンチン電車が走るような昔にもいじめはあった。その中で「子どもは明日の運命を知らない」「オドオドすると確実にやられる」と当時を振り返る。いじめの加害者にも被害者にもなりながら。「そうそうそうなのよ」「やっぱりねー」と頷いて励まされ、いじめられたことを「よかった」と「人とつき合うことのデッサンだった」と言い切られると、タイヘンとか困ったと思い悩み、皺や白髪を増やしていることが徒労に思えてくる。時に急所を突くような辛辣な意見も飛び出す。が、こうしていい大人になって、怒ってくれる人すら身近にいなくなった私にはその鋭ささえも心地よく響いてきた。
 友だちにまつわる珠玉の言葉のオンパレード。人間関係に変化の訪れる春先、鞄に忍び込ませ、落ち込みそうになったら取り出して欲しい。教師の説教より佐野洋子。

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零式
零式
海猫沢めろん (著)
【ハヤカワ文庫JA】
税込756円
2007年1月
ISBN-9784150308773

 
評価:★☆☆☆☆
 その内容を云々言う前にその「世界」に突入出来るかどうかが勝負の本だ。その世界とは…〜国粋主義者と融和主義者。政治結社。全面降伏。原始駆動機。暴装賊。1945年の太平洋上前線基地と東暦2000年の鎖国された神国〜
 −この世界に奇跡は起きない。
 −期待する者は、いつもただ年老いて死んでいくだけ。
 −明日殺される可能性と、この10年の2乗倍近く生きなければならない可能性
 そんな言葉があたり前に交わされる世界。圧倒的なスピード感。自分が一体何処の時間のどこの国に存在しているのかと不安になる。漫画かアニメの原作かと見間違うほど擬音も多い。表紙イラストと帯コピーと青春小説という謳い文句からくるイメージがこうも違うか。そのギャップがこの小説の面白さなのかもしれない。筆者のデビューがPCゲームの小説化と聞き合点が行く。藪本野ばらといい海猫沢めろんといい、作品と著者の写真のマッチングに妙に納得したりして。

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キューバ・コネクション
キューバ・コネクション
アルナルド・コレア (著)
【文春文庫 】
税込760円
2007年2月
ISBN-9784167705350

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評価:★★★★☆
 地名、人名、歴史認識。翻訳小説には毎度苦戦させられているが、今回の頭の疲労さには心地良さが伴う。先の3つの要素がこんなにも小説を盛り上げてくれた。物事は知るほどに面白さが増してくることを再認識させられた1冊だ。
 1994年キューバ。経済は危機状態に陥り、アメリカへの亡命者が後を絶たない。キューバ情報部員のカルロスの子どもたちも同様だった。と何気なく使用した情報部員とは?業務内容は?アメリカCIAとFBIも絡み、情報を得、機密を守り、自身の身の安全を確保するための男達のドラマがはじまる。
 全ての登場人物が出尽くしたかに思える後半100ページの面白さは息せきるものがある。「まさかまさか」と思わせて最後まで一気に引っ張っていかれる心地よさ。北上次郎氏絶賛のラスト1行を、間違っても途中で覗き見してはいけない。それは小説の根幹を揺るがすような行為だから。

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