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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫班】2007年4月のランキング 文庫本班

横山 直子

横山 直子の<<書評>>

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Dojo─道場 ロリヰタ。 欲しいのは、あなただけ ギャングスター・レッスン 影踏み 水に描かれた館 友だちは無駄である 零式 チェイシング・リリー キューバ・コネクション

Dojo─道場
Dojo─道場
永瀬隼介 (著)
【文春文庫】
税込800円
2007年2月
ISBN-9784167696023

 
評価:★★★★★
「空手を愛していますから」
 28歳の藤堂忠之は会社をリストラされて、今は空手道場を預かっている。
 道場を任されるぐらいだから空手の腕はあるのだが、根っからのお人よし。
「不器用なのよね」「そこがいいんだけど」かつての会社での同期入社、現在の恋人の悠子がそう言う。
 道場破りに遭遇したり、プロレスラーに特訓を懇願されたり、はたまた身元不明のロシア美女と関わったり、彼の道場周辺はいつも何かしら騒動が起こる。

 年下の指導員の健三と、もともと道場生だったのがいつの間にか存在感を強く持つようになった中年男の富永、そして藤堂の三人が「デキの悪い青春ドラマ」のごとく、熱くどぎつく立ち回る。ある時は手に汗を握り、ある時はあまりの唐突な行動に驚き、そのどれもがなんとも痛快で、ひゅっと感じる風がなんとも心地よい。
 それにしても、藤堂のお人よしぶりにはもどかしいと言うか、頭が下がると言うか、どうも憎めない。一度わが家に呼んで、鍋でもつつきたい好青年。彼なら、美味しい手土産も期待できそうだ。

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ロリヰタ。
ロリヰタ。
嶽本野ばら (著)
【新潮文庫】
税込420円
2007年3月
ISBN-9784101310718

 
評価:★★★★☆
 「今日はポンポにする」
 10歳になる娘が、最近よく言うセリフ。なにもタヌキの格好をするわけではない。あたりまえだが…。(アセ、アセ)。
 ポンポは子供服メーカーのブランドpom ponetteの略で、今一番のお気に入りなのだ。もちろん子供服にしては決して安いものではないので、数枚しか持っていない。

 ロリータファッションについてこれほど愛情を持って書ける人はいないだろうと思ってしまう嶽本野ばらさん。今回は主人公の男性作家が、偶然出会った美少女モデルにロリータファッションをアドバイスするところから、物語は動き出す。
 しかしながら、いつも彼女が着ているお気に入りは渋谷の109−2にショップがあるANGEL BLUE。娘のポンポも同じメゾンで、この子供服ブランドが物語の重要なキーポイントになっている。
男性作家の「僕」と美少女モデルの「君」、周りからは理解されないもどかしさを持つ二人の関係。二人の気持ちが携帯メールで深まっていくのがなんとも微笑ましい。
「ご免。君のことが、やっぱり好きだ。しかし、どうすればいい…」
 携帯メールのない時代には成就しなかったであろう恋が、ここでまた一つ生まれた。

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欲しいのは、あなただけ
欲しいのは、あなただけ
小手鞠るい (著)
【新潮文庫】
税込380円
2007年3月
ISBN-9784101309712


 
評価:★★★★★
「わたしは愛する。それがわたしにとって、生きるということ。」
 激しい恋愛小説だった。ぐいぐいと引き込まれていく強さがあった。

 昔の二つの恋を回想する40歳目前のかもめ。
 一つは彼女が大学生時代に付き合った「男らしい人」との恋、そしてもう一つは「優しい人」との家庭を持つもの同士の恋。ノンストップで読んで、男女間に存在する恋愛への温度差をまざまざと見せつけられた。
 いや男女と言うよりは、かもめちゃんと元ちゃん、かもめさんと幹彦さんと言った方が良いかもしれない。

「すべてを失ってもなお、幸福でいられる人間もいるのだと思った。わたしは幸せだった。」
 そんなかもめの言葉を反復しながら、去年亡くなられた詩人の茨木のり子さんの出されたばかりの詩集「歳月」の一節を思い出す。
「たった一日っきりの/稲妻のような真実を/抱きしめて生き抜いている人もいますもの」

 主人公はいつも自分。振り回されているように見えても、どんな状況に陥っていても、自分で選ぶ愛のスタイル、かもめの次の恋も見届けてみたい。  

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ギャングスター・レッスン
ギャングスター・レッスン
垣根涼介 (著)
【徳間文庫 】
税込680円
2007年2月
ISBN-9784198925543

 
評価:★★★★★
 読み始めはぼちぼちだったのに、途中からは駆け足、ラストあたりは全速力で読みきった。

「泥棒になるのも、楽じゃないみたいだ」プロの裏金強奪仕事人の道を選んだ20歳の青年・アキ。二人の先輩からまさにタイトルどおりの「ギャングスター・レッスン」を受ける。表と裏の二つの顔を持つ、アキと二人の先輩。三人は初仕事に向けて、それぞれ準備を始める。
 見た目はイマドキの青年のようでも、黙々とレッスンにはげむアキは好感度が高い。二人の先輩もレッスンは厳しいが、仕事仲間としてアキを迎える気持ちがなんとも温かくて嬉しくなる。
 技術と知識を蓄えるレッスンの中でも、犯行時に使うクルマ、特にチューニングカーに関する記述が実に詳しい。クルマ好きの人が読んだら、きっとたまらないだろう。
 過酷なレッスンを無事こなしたアキはついに一回目の実践に挑むが…。

 主役級ではないが脇を固める女性の魅力が際立った。
 例えば、女性長距離トラッカーの憲子やコンパニオンの明美。特に自立した生き方がなんともかっこいい憲子の最後に見せた笑顔が忘れられない。
 ただ、最後の〈後日談〉は読んでいて拍子抜けした。勝手にアキのその後だと思い込んで読んでいたからだ。
 Fileで終了していれば、それぞれの登場人物のその後の行方を慮り、最後の余韻まで楽しめたのにと、それだけが残念。

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影踏み
影踏み
横山秀夫 (著)
【祥伝社文庫 】
税込670円
2007年2月
ISBN-9784396333294


 
評価:★★★★★
 推理小説をさらに細分化して警察小説、このジャンルの中心の一人に横山秀夫がいることは間違いない、と解説にあった。
 私が読んだ横山作品は『半落ち』に続く二冊目だったが、こちらもぐっと胸をしめつけられる切ない内容だった。

 深夜、寝静まった民家を狙い現金を盗み出す「ノビ師」と呼ばれる忍び込みのプロ、34歳の真壁修一が主人公。
 彼には今は亡き双子の弟がおり、いつも心の中で彼との魂の会話を繰り返している。生きていた時のように、二人は頼り頼られ、そして時には兄弟げんかをする。かつてこの兄弟は同じ女性を好きになり…。

 盗みに入る真壁の一挙一動に、ドギマギする。
「一、二で開け−三で入り−四、五で閉める。」
 納得のいくまで何度も盗みのイメージトレーニングを繰り返す様子を見て、はは〜んとうなる。
 しかしながら、ずっとずっと心根の優しい真壁にまっとうな人間になって欲しいと願いつつ読みすすめた。まさに真壁の母親状態。
『半落ち』同様、ラストにまたもや感涙。

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水に描かれた館
水に描かれた館
佐々木丸美 (著)
【創元推理文庫】
税込780円
2007年2月
ISBN-9784488467029

 
評価:★★★★★
「やっぱりか弱き女性だ。その方がチャームだ。」
「涼子さん、石垣女史のようになっては駄目ですよ。あのヒスはいただけない。」
 言葉の端々から、なんとも言えず懐かしい気持ちとなる。
 はるか昔に読んだ本を本棚から引っ張り出して読むあの感じ。
 それもそのはず、これは1978年に刊行されたものの、待望の復刊なのだ。

 密室殺人が行われた館に集う数名の男女。
 ひたひたとしのびよる恐怖、互いを疑いながらも一緒に時を過ごさなければならない緊迫感…。
 その最中に、17歳の少女涼子の淡い恋や真面目だけが取り得の石垣女史の密やかな恋が生まれる。
 館の女主人である涼子のおばさんのなにごとにも動じない姿も実に印象的。
 人間の心理の不思議さ、深層心理のなせる業に、思わずうなる結末が用意されていました。

「私はコンブをかじっていた」
 涼子さん、私にもその美味しそうなコンブを下さいと言いたくなってしまう。(大汗)
 館のそびえる舞台は、コンブが美味しい北の地、そう北海道。

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友だちは無駄である
友だちは無駄である
佐野洋子 (著)
【ちくま文庫】
税込609円
2007年2月
ISBN-9784480423092

 
評価:★★★★★
 「私は元気で図々しかった」
 と子どもの頃の自分を語る佐野洋子さんが、友だちについて語り合う対談集。
インタビュアーは谷川俊太郎さんで、あとがきにそう書いてあるのをみて腑に落ちた。

 洋子さんの友達遍歴を読んでいる最中、私の脳裏にはいろんな友達の顔が浮かんでは消えた。
 30年ぶりくらいに思い出したクラスメートもいる。
 あれは確か私が10歳くらいの頃だった。同じクラスに不思議な感じのする静かな少女がいた。彼女の家は川のほとりで、庭には赤いぐいの実がたわわになる木があった。そこへ私は一人で遊びに行って、二人して糊に絵の具を混ぜて色つきの糊を作った。ただそれだけのことを実に鮮明に思い出した。

「無意味なことがすごく重大だった」とか「友情って持続だと思う」とか心に響く言葉がいくつも見つかった。
「私好きになっちゃったの」「あの人すごいのよ」
 友だちを語る洋子さんの弾む声が今にも聞こえてきそうだった。その彼女の直球が魅力だとしみじみ思う。
 そして広瀬弦さんのイラストがなんとも良かった。こちらの心を見透かされるようなライオンの表情に何度もドキリとした。

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零式
零式
海猫沢めろん (著)
【ハヤカワ文庫JA】
税込756円
2007年1月
ISBN-9784150308773

 
評価:★★★☆☆
 挑むような冷めた瞳…。
 表紙に描かれたバイクにまたがる特攻少女(一言で言えばそうなるらしい?帯に書いてあった)が主人公。
 著者のあとがきによれば、ジャンルとしては改変歴史ものになるそうだが、「ただの成長物語です」ときっぱりと宣言されていた。

 この特攻少女、「衝動を感じている瞬間だけは、生きていることをリアルに感じられる」のだし、「燃え尽きて、灰になりたいだけ」とおっしゃる。いやはやスゴイ少女なのです。
 西暦1945年と東暦2000年を結ぶ実に壮大なスートーリーで、特攻少女が繰り広げる世界はスピードとアクションが満載。とても私にはついては行けないスピードでした。
 しかしながら「帰る場所なんてない。どこにも安らげる場所なんてない」そう思っていた少女が自分の居場所を見つけたシーンでは一緒にジーンとくる。

 ちなみに少女が乗る原始駆動機はレシプロマシン、それに対する超電駆動はリニアなど、本文のいたるところにルビ付き表現があり、これは実に楽しめました。かつおぶしにはちゃんとネコマンマとルビがあり、これなら私もついていけるわ!としばしにんまり。

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チェイシング・リリー
チェイシング・リリー
マイクル・コナリー (著)
【ハヤカワ・ミステリ文庫】
税込945円
2007年1月
ISBN-9784151752025


 
評価:★★★★☆
  一度も会ったことのない女性なのに、なぜか気にかかる。
 引越し早々にかかってきた間違い電話をきっかけにヘンリー・ピアスの日常が徐々に変化し始める。
 彼は名門大卒のエリート、自分で立ち上げたベンチャー企業も大成功して、順風満帆に見える生活ではあったが、そもそも今回の転居は彼の一つの転機だった。
 正体不明の女性が気にかかる大きな原因は少年時代のある辛い出来事。彼はその埋め合わせをしたいと、危険と思われる橋を渡り始めた…。

 彼が絶対絶命と思われる事態になったとき、実に冷静に自分に強みがあると結論づけて仕掛けられた罠を見破ろうとする様子を見て、舌をまいた。
 あまりにも彼が仕事に熱中しすぎたために、心が離れていった恋人との関係修復の過程も見逃せない。
「粗末な飯を食べ、ただの水を飲み、曲げた腕を枕にする。それで充分しあわせだ。」
彼女の愛読書の一節がなんとも印象深い。

 そしてなにより気になったのが、読書好きな彼女がカウチで読書をしながら食べるピーナッツ・バターとゼリーのサンドイッチ。
 ゼリーは何味?そしてゼリーをパンにはさむなんてどんな食感なのだろう?
 気になってしかたがないのだが、やはりヘンリーの彼女に直接聞くのが一番かしらん?

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キューバ・コネクション
キューバ・コネクション
アルナルド・コレア (著)
【文春文庫 】
税込760円
2007年2月
ISBN-9784167705350

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評価:★★★★★
 帯に「静かな感動をよぶラスト一行。」とあった。
 このラスト一行読みたさに、カルロスやらマルセロやらフローロやら、似たような登場人物の名前を頭に叩き込み、そして冒頭にある主な登場人物のページを何度も見ながら、読了した。

「ひとりで生きる。それがおれの宿命なのだろう。」
 主人公は44歳のカルロス、彼が海外赴任からキューバの自宅に戻るとそこには彼の居場所がなかった。
 妻は亡くなり、残された三人の子ども達はもはや他人同然のようなそぶりしか見せてくれなかった。
 その子ども達がアメリカに亡命する過程で、彼は「自分の未来を自分ではどうすることもできない逃亡者」としての日々を余儀なくされることとなる。
 しかし、重要なのはここの部分なのだが、彼は逃亡の日々にあっても心は平穏だった。この理由はじっくりじっくりと読んでいただきたい。
 執拗に彼を追い回す敵の存在に辟易しながらも、展開が早くスリルがあって、一気に引き込まれてしまう。ページをめくるのが(登場人物確認のため)もどかしいほどだ。

 印象的だったのは年を重ねた男のかつての言葉。
「地球上のあらゆるものが消滅しても、家族と愛と友情だけは残るだろう」
 そしてお楽しみのラスト一行。しみじみ余韻にひたりました。

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