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家日和
奥田英朗(著)
【集英社】
定価1470円(税込)
2007年4月
ISBN-9784087748529
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
小松 むつみ
評価:★★★★
『家日和』――タイトルが秀逸ではないですか! 家にいる人が主人公の短編6編。一本スーッと串を通しながらも、それぞれが個性ある風味を持つ作品に仕上がっている。何よりも、好ましいのは、どれも読後感がとても心地よいこと。少し大仰に言えば、生きる価値、人生の楽しみを、日々の生活を営むそれぞれの「家」に見出していく人々の姿に、心がいつしかほんわかと温かくなる。ともすれば、外へ外へと向かいがちな今を生きる人びとに、時にはふと立ち止まり、心をもっと身に引き寄せてみるのも一興と、問いかける。世の中の、多くの人の価値観がどうであろうと、私は私、あなたはあなたの、ささやかだけど、楽しい人生をいきるのが、実はとても幸福なことなのだと、優しく静かにささやかれた気がする。
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川畑 詩子
評価:★★★
主婦がみつけたネットオークションというささやかな楽しみ。それが気持ちにどれだけ張りを与えるか、一喜一憂の様子が丁寧にそしてユーモラスに描かれている。社会とつながっている、評価されるということは、たとえどんなに些細であれ無ければ人はしぼんでしまうのだ。途中、ネットにはまりそうな危機があるものの最後は家族のちょっとした優しさに救われて一件落着。日常を営む気力が再び湧くことでハッピーエンドとなる。本書全体に、嵐が来ても船は転覆しないというか、家族や夫婦間が冷めているようでも何かをきっかけにつながりを再確認したり絆を深めるお話が多くて安心感がある。温かい気持ちにさせられる話が多い。
そんな中、「妻と玄米御飯」はちょっと異質。ロハス運動を批判しおちょくる夫の感想がいちいち共感できて可笑しい。いわく何かと理屈と正論をふりかざし、高い所から目線が気に障るなどなど。ロハスという言葉に違和感を覚える方、是非読んでみてください。ひとつひとつ膝を打ちたくなること請け合い。そこだけでも十分笑えますから。
おとぼけとユーモアを愛し、ナルシズムと冗談が通じない人からは遠ざかりたいという主人公の姿勢は作者に重なりつつも、それをも突き放して笑いの対象にする結末は寂しいようなすがすがしいような。
家庭内に限定した、大きな事件が起こるわけでもない日常でも十分に面白いことを再認識。
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神田 宏
評価:★★★★
「家」を巡る6編。家と言っても旧家であったり、魑魅魍魎が跋扈するような屋敷では全然ない。勤め人の夫と主婦と子供がいる都会近郊のフツーの「家」である。僕らの日常と言っても良い。だが、その「家」ではありがちなんだけど、当人にとってはちょっとした齟齬のような違和感があったりする。まあでもそのことも至極、ありふれた悩みだったりするのだが、著者の温かい筆はそんな、ちょっとした不安にとらわれながらも、日常を続けてゆく人々のけなげだけど可笑しな姿を伝えてくれます。それは、ネットオークションに夢中になる妻であったり、会社が倒産して、息子に弁当を作る夫の姿だったり、妻と別居した夫のささやかな自己満足だったり。身につまされる噺であります。こうして、汲々する日々の中に幸せがあるのかな。そんなことを、息子の弁当をアンパンマンのハンカチで包む失業夫の背中に、ポリスの『シンクロ二シティ』をアナログで聴くために大枚はたいてステレオセットを買う別居中の夫の背中に感じましたよ。はい。
今、話題の写真家の装丁写真も内容とベストマッチです。
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福井 雅子
評価:★★★★★
ネットオークションにはまる主婦、会社が倒産して主夫になる男、妻に出て行かれたのを機にインテリアやオーディオを買い揃えて「理想の部屋」を作る男など、家(家庭)を舞台に平和な家庭の風景を描いた、ユーモア溢れる短編集。
ほのぼのと平和なホームドラマのような小説である。登場人物はとてもいい(善良な)人ばかりで、ストーリーにも毒がない──とくれば普通は「心地よく読めるけれど面白味に欠ける」小説になりがちだが、この作品は予想を裏切る面白さである。著者の、ユーモア溢れる視線や、一歩引いた客観的な立ち位置が絶妙で、コミカルとシニカルとユーモアの配合バランスがとてもよい。家というものの心地よさや、よそのお宅にお邪魔したときにふっと感じるようなその家庭のにおい(=空気)を、これほどさりげなくうまく表現できる作家の文章力に感服である。特に、最後の『妻と玄米御飯』は、コミカルとシニカルとユーモアの分量がそれぞれ他の作品の2倍に増量されているようで、とても面白い! お薦めの五つ星である。
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小室 まどか
評価:★★★
孤独からネットオークションにハマる、倒産で主夫への転向を余儀なくされる、家財道具根こそぎ持って別居される、幸せだが平凡すぎる毎日に欲求不満になる、夫がまたもや儲け話の大博打に打って出る、妻がご近所のカリスマ主婦に洗脳される……。
奥田英朗の作品でいつも感心させられるのは、日常の些細なストレスの積み重ねからくるギリギリの精神状態の描写の巧みさだ。まわりから見たらちゃんちゃらおかしいような苦悩で笑いをとりつつ、誰もが自分もふとしたことで陥ってしまう可能性で密かな共感を呼ぶ。病理域まで針の振り切れてしまった人たちが、常識の通用しない精神科医・伊良部の荒療治で現実に引き戻されるシリーズに対し、本作では主人公たちが爆発する前に自ら解決策を見つけて楽しみ、その結果として家庭のなかの自己を肯定するに至っている。
「居場所を見つける」小さなカタルシスはもはや作風のようだが、「家」と結びつけることでその効力が無理なく発揮されている。
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磯部 智子
評価:★★★
奥田作品は巧すぎて、長編を読むと作家が熟知していると思われる世間をしっかりと書き込んでいるようにみせて、それは慎重にふるいにかけられた破綻のない精巧な作り物を読んでいる気がしていた。それが短編では、あの手この手で繰り出す決め技に目を見張りながらも、抵抗が少なかった。「ビター&スウィートな〈在宅〉小説」6編は、ネット・オークションにはまる主婦や会社が倒産して主夫業に専念する夫などが描かれ、鋭い切り口で現代を浮き彫りにしている。中でも『妻と玄米御飯』は「ロハスな人たち」を描く作家である主人公と作者自身が重なる2重のパロディ。お高くとまり矛盾している「善意のファシズム」を糾弾するつもりが、そんな自分もまわりの人々(特に妻)を巻き込みながらの「いいとこどり」だと感じ始め……結局作者は言いたい事を全て書き込んだ上で、穏当な結末へと向う。このしたたかさにはいつもほとほと感心し、同時にその出来すぎ感にこれ又いつものようにムッときてしまうのだ。
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林 あゆ美
評価:★★★★★
家日和っていい言葉。6つの家話は、どれを読んでもほっこりさせてくれる。「サニーデイ」では42歳の主婦が、インターネットオークションにプチはまってストレス発散させる様が描かれる。タイトルのサニーデイはオークション用IDだ。14,700円で買ったピクニックテーブルが1000円からの入札で2500円になる。ささやかな利益に満たされる気持ちが伝わってきて心地よい。それがどうしたと思われるくらいの小さなことの幸福感が過剰にならずに語られる。小さな幸せの裏では密かに黒い心も存在しているのだが、ラストの展開には、あーよかったと思わせてくれる家小説。
世界は広いけれど、それぞれの生活が営まれる家は小さい。でも小さくても一歩足を踏み入れるとイロイロ忙しい世界があるのも家。
表紙写真は『スモールプラネット』の写真集を出している本城直季氏。おもちゃのように写る家々が物語にぴったり。
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