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桜川ピクニック
川端裕人(著)
【文藝春秋】
定価1300円(税込)
2007年3月
ISBN-9784163257006
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
小松 むつみ
評価:★★★
いわば、男の子育て小説集。それぞれの事情で、子育ての主役となることになった男たち。
いま、この時代だからこそ書かれた作品だとも言えるだろう。
各編に登場するお父さんたちは、総じて子育てに対して正面を向き、かつ、平均以上に積極的にかかわろうとしている。みんな良いパパだ。それでも、やはり彼らにも、どうしようもなく、くすぶった気持ちもある。子育てと、社会のハザマでの葛藤もある。家庭の中での、父としての自分と、社会の中での男としての自分。なかなかバランスをとるのは難しいの。だけどきっと、どんなお父さんだって、どんなお母さんだって、そんなシーソーの思いを抱えながら、子育てしているに違いない。
軟らかな文章と、リズム感あふれる文章も心地よく、まさに川べりでのピクニックのように、温かで良い気持ちになる一冊だ。
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川畑 詩子
評価:★★★★
ここに登場するどのカップルも、自分の方が融通が利くという理由で育児のメインを男親が担当している。それは確かに以前だと考えられない柔軟な思考である。が、主義主張はさしおいて、とにかく現実に対処するにはこの方法しかなかったという設定なのが、私の先入観を良い感じに裏切ってくれて、素直に読むことができた。なにしろスローライフとかナチュラルな暮らしのお話かと思っていたもので。
子供は愛しいし、そばにいることは充実感もあり他の何ものにも換えがたい。それは確かなのだが、一方で仕事への苛立ちやこれでいいのかという焦りもある。表にでてこないそんな気持ちが時々、意外なほど強い力で頭をもたげる瞬間が描かれた「夜明け前」「青のウルトラマン」が特に印象的だった。ことに第1話「青のウルトラマン」のリアルさ。同じ父親が主人公の「おしり関係」も大変ほほえましくて好きだが、こちらがこうあってほしいという理想をメルヘンタッチで描いたとしたならば、かたや「青の…」はリアルタッチ。夫婦関係、親子関係には正解や公式は無い。ずっと試行錯誤なんだと思った次第。
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神田 宏
評価:★★★★
読み始めてしばらくしたら、正直、「はいはい、わかりましたよ。」ってな感じで食傷気味になった。っていうのも物分り良すぎるんだよ。「男女平等!」。「男も子育てを!」ってなことに違和感を感じながらも、やってみると見えてきた意外な日常性?みたいなステレオタイプが。裏返せば唯のマッチョ、男根主義。そんな、斜に構えた僕の気持ちを蹴飛ばして笑い飛ばす『おしり関係』に出逢うまでは。おお、この中篇の馬鹿馬鹿しさを。そして、子育てって理屈じゃないかもって思わせるパワーを。「おしり、おしりー」とパンクのリズムでジェンダーやら、男女共同参画社会やらを吹き飛ばす可笑しさを知ってからは、かしこまって意地張っていた自分にごめんなさいの読後感。しばらくはクレヨンしんちゃんばりのおしりくねくねが抜けなかったぞ。ホントに。お馬鹿家族に乾杯!
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福井 雅子
評価:★★★★
同じ保育園に子どもを預ける父親たちの、仕事に育児に奮闘する日々を描いた短編集。短編集ではあるが、舞台となる保育園が同じで登場人物も共通のため、全体でひとつの長編小説としても読める。
仕事に全力投球できない苛立ちと焦りをつのらせる一方で、子どもの輝く笑顔や穏やかな寝顔に、子どもと過ごすかけがえのない時間の大切さを思う──この葛藤は、共働きの父親・母親なら誰でもが多かれ少なかれ感じたことがあるものだろう。そんなパパ・ママはこの作品を「わかる、わかる!」とうなずきながら読むに違いない。かく言う私もその一人、まるで保育園のパパ・ママ友達の話を聞いているような身近な感覚で読んだ。子どもに向ける視線が優しく、作品全体が春の日の公園の日だまりのようなほんわかした空気に包まれている。子どもと縁のない生活を送っている人には手にとってもらいにくい本かもしれないが、そんな人こそかえって新鮮な刺激を楽しめるかもしれない。読み物としても十分楽しめる内容である。子どもをとりまく環境が少しでもあたたかく優しい空気で包まれることを願って、幅広い世代の人に読んでもらえたらと思う。
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小室 まどか
評価:★★★
よその家庭の問題を垣間見て義憤を覚えたり、仕事の最前線を離れて見えてきたものに戸惑ったり、集まって妻への不満や育児のうさを夜遊びで晴らす誘惑に駆られたり、初めて妹を持つ息子の不安定さを思いやったり、娘が直面するジェンダー問題に共に取り組んだり、仕事もバリバリしたいが子どもと過ごす時間も大切に思えたり……。
男のひとが「お父さん」の自覚を持つ過程を、ユーモアと時に自虐的なアイロニーを込めて、みずみずしく綴った6篇。いくつかの家庭が登場するが、基本的には父親が子育てにかなりの寄与をしており、筆者自身や周囲の父親たちの体験のにじみ出た等身大のものだと思われ、ゆれる心情や意外に繊細な男心、子どもたちに注ぐ愛情がよく描けている。特に、最後のピクニックの情景は、子どもたちが父親に絶大な信頼感を寄せつつも外界への旺盛な好奇心を見せ始める時期に特有の、こぼれるような幸せがひろがってゆく。
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磯部 智子
評価:★★★
男性の育児連作短編集、言いたい事には共感する点も多いのだが、読み始めは半信半疑、同じ保育園に通う子供がいる主人公たち(父親)が、子育てに深く関わり其々の葛藤の後、読み手に判断の余地がないほど、すっかり最後は落ち着き悟ってしまうのだ。そのため自分の人生を肯定したくなる人間による共感を強要するような説得型かもしれないという心配もあったが、案外イヤミなくやってのけられた気がする。その理由として実際かなり育児経験がないと書けないような内容と、通常男性にとって見逃しがちである育児に係わる最大の問題とは、熱を出した怪我をしたということ以上に気持ちの問題であるということがしっかりと描かれていることにある。父親か母親か誰かが子供を育てないといけないのだから、それがどちらであれ互いの理解なくしては始まらない。そんな解りきったことでも実は解っていなかったということが、男性側からの和睦親書のように穏やかに伝わってくる小説だった。
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林 あゆ美
評価:★★★
子育てをキーワードに6つの短編が収録されている。「青のウルトラマン」では、母親に虐待されている少年がそれでも「ママをいじめるな!」と助けようとした人の前に立ちふさがる。「前線」では、育休をとったカメラマンの父親が登場、「うんてんしんとだっこひめ」は赤ちゃんができたママが体調不良で入院し、残された子どもがほしいものとしてリクエストした言葉の解析に父親が翻弄される。「夜明け前」は保育園で父親仲間が気分転換に飲みに出かけ、そこで何がおこったか。「おしり関係」では、パパのおしりに何かができて、子どもの反応はいかに。「親水公園ピクニック」は保育園友だち家族のピクニックが語られる。どれもきれいに子どもいる生活が過不足なくスケッチされ、不協和音すらも想定内のようにするすると読めてしまう。小説としてはちょっとまとまりすぎて、それ以上でもそれ以下でもないのにもの足りなさが残った。「青のウルトラマン」はもう少し先が読みたかった。
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