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ダーティ・ワーク
絲山 秋子 (著)
【集英社】
定価1315円(税込)
2007年4月
ISBN-9784087748536
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
小松 むつみ
評価:★★★
生きていくことにかったるさを感じながらも、日頃はたわんでいる人との繋がりの糸が、時々ピンと張ると、にわかに生への執着や、渇望感が顕在化する。その瞬間、瞬間をすくいあげるような、連作短編集。
社会のペースや常識に、少しだけ馴染めなかった者たち。彼らには、何かが欠けていたのかもしれない。でもたぶん、その分、人よりも「何か」をたくさん持っているのかもしれない。
人は、人とかかわる相手によって、さまざまな顔を見せる。ある人にとっては、価値のないことも、他のある人にとっては、かけがえのない大切なものであることもある。そんなことを思った。
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川畑 詩子
評価:★★★★
喪失感を抱える人びとのモノローグからなる連作短編集。『海の仙人』にて見せた、改札での別れのような、強烈に心揺さぶられるシーンと今回は出会えなかったものの、それでもうまい!
最後の熊井のお話。転んだ子どもに駆け寄るところを想像してみたら、彼が先に駆け寄る映像が浮かぶ。これからどうなるのかハッピーエンドは約束されていないのだが確かにクライマックスにふさわしいぴりりとした終わり方だ。
ドラマティックな展開はない。明日もまた同じような一日がやってくるに違いない。それでも、うずくまっていた人が立ち上がろう、動き出そうとしている気配が全ての作品に感じられた。幸福や高揚感と名付けると少し違う。でもそれにとても似た名付けがたくて微妙な心の動きをすくい取るのがうまいのだと思う。
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神田 宏
評価:★★★★
ストーンズの曲を題にした連作短編集。男っぽいスタジオミュージシャン(女)、外車ディラーに勤めるドライブ好きの女。カマロに乗る男。「笑う牛」(キリ・チーズ)の牛に似た、悪性リンパ腫を患う女。写真が趣味の花屋の男。それぞれが小さな違和感を感じながらも日常を暮している。そこで感じるの小さな齟齬、ふとした時に感じる孤独。そういったものをクールにでもちょっと可笑しく、そして大上段に構える事なく著者は描いている。仰々しい救いはなくとも、それぞれが前向きに生きようと思う瞬間が、それは日常のほんの些細な事な事の中から、切り取られてゆく。懐かしくなって『ベガーズ・バンケット』のアナログ引っ張りだして聴きながら読みました。こういうコラボもなかなか良いですね。天国のブライアンにも届くかな?
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福井 雅子
評価:★★★★
ストーンズの曲をBMGに、ただなんとなく昨日の続きの今日を生きているように見える若者たちを描いた連作短編小説集。
人は誰でも心に繊細で柔らかい部分を持っていて、誰かのことを想い、過ぎ去った時間を想いながら生きている。想われている人もまた、同じように誰かのことを想い、誰かと過ごした時間を想い……そうやって世界はつながっている。静かで、平和で、何も起こらないけれど確かにつながっている──そんなことを、思って本を閉じた。タッチは軽いが読後の満足感は十分得られる。背景や出来事をごちゃごちゃ説明しないのに登場人物の想いがスーッと伝わってくるあたりに、文章の上手さを感じる。小さな偶然と静かな再生が描かれた小さな物語は、心穏やかに読める秀作である。
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小室 まどか
評価:★★★
ローリング・ストーンズの曲名をタイトルに冠した連作短編集。ストーンズや楽曲そのものが登場するものもあれば、曲名自体と関連するものもある。
バラバラとつかみどころのなかった物語と登場人物たちが、次々と結びつき、それぞれの想いが深みを増していくのが魅力的だ。特に、純粋すぎて、汚れた仕事に疲れて投げやりになり、そんな自分のダメさ加減を自覚してなお、「ゼロに戻る」ことを志向する遠井の登場する4編には惹きつけられる。初出は「小説すばる」へのひと月おきの連載のようだが、一気に読み通すほうが断然良さが味わえるだろう。
自分が出会ったり、恋したり、頼ったり、喧嘩したり、心配したり、特別だと思ったり……そういう誰かが、また別の誰かとつながっている。きっかけがない限り表面化しないけれど、そんな奇跡のようなつながりって実際あるものだ。それは決して偶然のいたずらではなくて、なにかおたがいに呼び合うものがあったのではないかと感じさせてくれる一冊。
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磯部 智子
評価:★★★★
今までご縁がなく、絲山作品を初めて読んだが面白かった。7編の連作短編集は、一作ごと、読み手のふところにぽんと投げ渡したような終わり方をする。それが読んでいくうちに、登場人物それぞれの孤独な世界が繋がり、膨らみを持ち始める。タイトルのダーティ・ワークとはどういう意味だろう。ローリング・ストーンズの曲からとったらしいが、文中にも「汚れるのはめちゃくちゃ汚れるけど、汚い仕事じゃないんだ」という台詞がある。大人になることと「社会」に適応することが同義だと決め付けられても、そこから少しずつ踏み外していく人間たちは、それでも自分に忠実にしか生きていけない。そんな人間同士が、いつか離れたり、でもどこかで繋がっていたりする。生きていくというのは結局そういうことだと、視界が晴れ渡るような解放感を味わった。
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林 あゆ美
評価:★★★
感想というまとめみたいな言葉より、おもしろい、おもしろくなかった、と単純に伝えるほうを、小説の方でも求めているように感じた連作短篇集。
健康診断で、異常ではなくて心臓の癖をみつけてほくそえむ彼女の話。恋をするとブスになる貴子さんの仲良しは義姉の麻子さん、ふたりでお風呂に入ってする話とは――。発作の痛みでもだえ苦しむ美雪は、痛みがやわらぐのを「今、90%」と教えてくれる。
これらは出だしの3つの話。話はあと4つあり、登場する男性や女性たちがゆるく連なって、なんてことはない話を、等身大に力強く読ませる筆力にぐいぐい惹かれた。ローリング・ストーンズのアルバムを題したタイトル、ストーンズの曲名が短編それぞれのタイトルになっている。
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